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第174話「妹からの叱咤激励②」
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愛する妹から、兄への強く激しい叱咤激励……
臆さぬ堂々とした物言い……
目を瞠《みは》り、息を呑むフィリップ。
しかしベアトリスは、一転して微笑み、申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「お兄様……御免なさい、私……申し上げ方が、だいぶきつくなってしまいました」
ベアトリスの謝罪を聞き、フィリップは手を勢い良く左右に振った。
そして、切ない眼差しを最愛の妹へ向ける。
「い、いや! 厳しい物言いも、私の事を案じて言ってくれている。ベアトリス、お前の気持ちは良く分かっている……私達は、幼き頃からずっと一緒に育った兄妹なのだから」
労わるフィリップの言葉を聞き、ベアトリスはホッとしたように軽く息を吐いた。
しかしまだまだ彼女の話はありそうだ。
「ではお兄様、未熟で若輩者の私が申し上げるのは……いかがなものかと思いますが……もう少しお話しさせて下さいませ」
「わ、分かった! 存分に話してくれ…………」
ベアトリスは、一体何を告げるのだろう……
フィリップだけではなく、この場の誰もが彼女に視線を注いでいた。
誰もが無言とがなった、部屋は静まり返り……
その静寂の中で、ベアトリスはゆっくりと、言葉を噛み締めるように話し始める。
「人とは……各自が置かれた状況下で、可能な範囲内において、ベストを尽くせば良い、私はそう思っております」
「ベアトリス……」
思わず、フィリップは愛する妹の名を呼んだ。
今……何もやりたい事が思うように出来ずに……
自由に動けない人形のような、自分の虚しい心情を告げてくれたと思ったのだ。
そんな兄の気持ちを、しっかり受け止めたかのように、ベアトリスの話は続く。
「苦しければ……思うようにいかなければ休んで良い、否! 逃げても構いません。後々巻き返す為の、勇気ある撤退だと思えば宜しいのです」
「勇気ある撤退…………」
「はい! 何故ならば……人とは常に強くはあれません。却って弱き者……うつろい、流されやすい者ですから……」
「…………」
「ですが! 私は、人にとって一番大切なのは、何があっても、けして諦めない事、つまり向上心を捨てぬ事だと考えております」
「…………」
黙り込んだフィリップに対し、ベアトリスはにっこり笑う。
「大丈夫! 自信をお持ちになって! お兄様は、ベストを尽くしていらっしゃいます。いえ、やり過ぎるくらいおやりになっています。素晴らしい向上心もお持ちだし、臆せず堂々と胸を張って良いのだと思います」
「あ、ありがとう! ベアトリス!」
見ていてくれる者が居る。
励ましてくれる者が居る。
それが最愛の妹だと思うと……フィリップは、たまらなく嬉しいのだろう。
感極まって、礼を言うフィリップに対し、ベアトリスは何故か含み笑いをする。
自虐的ともいえる、複雑な笑いを……
「うふふ、お兄様。繰り返しになりますが……人とは何という弱い生き物でしょうね……私は日々、実感しております」
「…………」
「先ほどお兄様は、私をとても褒めて下さいましたが……正直に告白致します。日々、神託を待ち、伝えるだけの私が……この世に存在する価値などあるのかと、深く思い悩んでおります」
自分の存在価値に、ベアトリスが悩んでいた。
聡明な妹が!?
フィリップは思わず絶句した。
「な! ベアトリス……」
「ただ、流されるだけの……自分の人生に……絶望しかけた事もありました」
「おお、ベアトリス!」
「だけど……こんな私でも、アイディール王家の一員として、お兄様を支えられる。そしてこれからも支える事が出来る。そう考えれば、私はとても前向きになれます」
「ああ……」
ベアトリスは、ここまで深く思い悩んでいた。
創世神の巫女として、崇高な使命を受け、前向きに生きていると思っていたのに。
勝手な、勘違いだった。
全くの錯覚だった。
ベアトリスの辛い心情を、全く見抜けなかった自分の愚かさ……
だが、自分の日々の行いが、この薄幸な妹を支えていたと知り……
フィリップはホッとしたのだ。
更にベアトリスは、自身の未来への思いを語る。
表情も徐々に変わって来る。
希望に満ちた、晴れやかな表情へ。
「恐る恐るでも……とてもゆっくりでも、いっぱい休みながらでも……けして諦めず……向上心を持ち、ベストを尽くせば、何らかの道は開けるのです。以前、ダンの話を聞き、私はその思いを更に強くしました」
「…………」
フィリップも、ベアトリスと同じ思いだ。
自分の生き方が肯定され、力が漲《みなぎ》って来る。
兄へ、伝えるべき言葉を告げ終えたベアトリスは、
次に……ダンへ、物見えぬ美しい瞳を向けた。
ベアトリスは、ダンへも優しく微笑みかける。
「ダン、貴方の今の話には……まだ続きがある筈です。お兄様と私に対し、新たな道を示す話が、運命の扉を開ける話が」
「おお、あるさ!」
先ほどから無言で、ずっとベアトリスの話を聞いていたダンであったが……
彼女からの質問には、即座に肯定で答えた。
万が一の場合は諦めるしかないが……
新たな国を築く為、アイディール王国の協力は必要不可欠だ。
それが開祖バートクリード、弟ローレンスの遺志を受け継ぐ事にもなるからだ。
「その話を! ぜひして下さい! その後に……私は神託を告げましょう」
ダンの話の後には、神託が告げられる……
いよいよ話は、佳境に向かうと、この場の全員が実感していたのである。
臆さぬ堂々とした物言い……
目を瞠《みは》り、息を呑むフィリップ。
しかしベアトリスは、一転して微笑み、申し訳なさそうに深く頭を下げた。
「お兄様……御免なさい、私……申し上げ方が、だいぶきつくなってしまいました」
ベアトリスの謝罪を聞き、フィリップは手を勢い良く左右に振った。
そして、切ない眼差しを最愛の妹へ向ける。
「い、いや! 厳しい物言いも、私の事を案じて言ってくれている。ベアトリス、お前の気持ちは良く分かっている……私達は、幼き頃からずっと一緒に育った兄妹なのだから」
労わるフィリップの言葉を聞き、ベアトリスはホッとしたように軽く息を吐いた。
しかしまだまだ彼女の話はありそうだ。
「ではお兄様、未熟で若輩者の私が申し上げるのは……いかがなものかと思いますが……もう少しお話しさせて下さいませ」
「わ、分かった! 存分に話してくれ…………」
ベアトリスは、一体何を告げるのだろう……
フィリップだけではなく、この場の誰もが彼女に視線を注いでいた。
誰もが無言とがなった、部屋は静まり返り……
その静寂の中で、ベアトリスはゆっくりと、言葉を噛み締めるように話し始める。
「人とは……各自が置かれた状況下で、可能な範囲内において、ベストを尽くせば良い、私はそう思っております」
「ベアトリス……」
思わず、フィリップは愛する妹の名を呼んだ。
今……何もやりたい事が思うように出来ずに……
自由に動けない人形のような、自分の虚しい心情を告げてくれたと思ったのだ。
そんな兄の気持ちを、しっかり受け止めたかのように、ベアトリスの話は続く。
「苦しければ……思うようにいかなければ休んで良い、否! 逃げても構いません。後々巻き返す為の、勇気ある撤退だと思えば宜しいのです」
「勇気ある撤退…………」
「はい! 何故ならば……人とは常に強くはあれません。却って弱き者……うつろい、流されやすい者ですから……」
「…………」
「ですが! 私は、人にとって一番大切なのは、何があっても、けして諦めない事、つまり向上心を捨てぬ事だと考えております」
「…………」
黙り込んだフィリップに対し、ベアトリスはにっこり笑う。
「大丈夫! 自信をお持ちになって! お兄様は、ベストを尽くしていらっしゃいます。いえ、やり過ぎるくらいおやりになっています。素晴らしい向上心もお持ちだし、臆せず堂々と胸を張って良いのだと思います」
「あ、ありがとう! ベアトリス!」
見ていてくれる者が居る。
励ましてくれる者が居る。
それが最愛の妹だと思うと……フィリップは、たまらなく嬉しいのだろう。
感極まって、礼を言うフィリップに対し、ベアトリスは何故か含み笑いをする。
自虐的ともいえる、複雑な笑いを……
「うふふ、お兄様。繰り返しになりますが……人とは何という弱い生き物でしょうね……私は日々、実感しております」
「…………」
「先ほどお兄様は、私をとても褒めて下さいましたが……正直に告白致します。日々、神託を待ち、伝えるだけの私が……この世に存在する価値などあるのかと、深く思い悩んでおります」
自分の存在価値に、ベアトリスが悩んでいた。
聡明な妹が!?
フィリップは思わず絶句した。
「な! ベアトリス……」
「ただ、流されるだけの……自分の人生に……絶望しかけた事もありました」
「おお、ベアトリス!」
「だけど……こんな私でも、アイディール王家の一員として、お兄様を支えられる。そしてこれからも支える事が出来る。そう考えれば、私はとても前向きになれます」
「ああ……」
ベアトリスは、ここまで深く思い悩んでいた。
創世神の巫女として、崇高な使命を受け、前向きに生きていると思っていたのに。
勝手な、勘違いだった。
全くの錯覚だった。
ベアトリスの辛い心情を、全く見抜けなかった自分の愚かさ……
だが、自分の日々の行いが、この薄幸な妹を支えていたと知り……
フィリップはホッとしたのだ。
更にベアトリスは、自身の未来への思いを語る。
表情も徐々に変わって来る。
希望に満ちた、晴れやかな表情へ。
「恐る恐るでも……とてもゆっくりでも、いっぱい休みながらでも……けして諦めず……向上心を持ち、ベストを尽くせば、何らかの道は開けるのです。以前、ダンの話を聞き、私はその思いを更に強くしました」
「…………」
フィリップも、ベアトリスと同じ思いだ。
自分の生き方が肯定され、力が漲《みなぎ》って来る。
兄へ、伝えるべき言葉を告げ終えたベアトリスは、
次に……ダンへ、物見えぬ美しい瞳を向けた。
ベアトリスは、ダンへも優しく微笑みかける。
「ダン、貴方の今の話には……まだ続きがある筈です。お兄様と私に対し、新たな道を示す話が、運命の扉を開ける話が」
「おお、あるさ!」
先ほどから無言で、ずっとベアトリスの話を聞いていたダンであったが……
彼女からの質問には、即座に肯定で答えた。
万が一の場合は諦めるしかないが……
新たな国を築く為、アイディール王国の協力は必要不可欠だ。
それが開祖バートクリード、弟ローレンスの遺志を受け継ぐ事にもなるからだ。
「その話を! ぜひして下さい! その後に……私は神託を告げましょう」
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