青柳さんは階段で ―契約セフレはクールな債権者に溺愛される―

クリオネ

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《第4章》 雨と風と東京駅

リビングの革のソファ ☆

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 膝の裏と背中に腕をまわされ、いわゆるお姫様だっこをされて連れてこられたのはリビングの革のソファだった。

 着地するなり、覆いかぶさってきた飛豪と幾度めかの口づけをする。彼の大きくて硬い体を抱きしめると、同じだけの力で返してくれる。新鮮で仕方がなかった。

 ――こういうふうに抱きあったのって、初めてなんじゃないかな。いつもは一方的にされてたから。

 姿勢が入れかわり立ちかわりして、最終的に瞳子は、ソファに腰かけている彼の太腿のうえで横抱きにされていた。

 雨のなか踊ったので、先ほどから濡れたワンピースがずっと体に貼りついていて気持ち悪い。

 なのに、彼は服の上から彼女の体の輪郭をなぞっていく。顎先からはじまって、喉、鎖骨、脇腹、そして尻、内股へと。濡れたシフォン生地は体のラインを正確にうつしとっていて、瞳子は自分がひどく無防備になった気がした。

 足のあいだに片手を挿しこまれて、もう一方の手の指先は、服とブラジャーのカップごしに乳首をこすっている。それが絶妙に官能を高めていく。

 直に素肌にふれられるより焦れてしまう。際どいところまで来ているのに、満たされない。

 ひと思いに全部脱がせてから触ってほしいのに、恥ずかしくて言えない。結果、快楽への期待が底なしにたまって、体がもう欲しがっていた。彼を受けいれるその場所がひくひくとはしたない喘ぎ声をあげて、触れてもらうのを心待ちにしている。

 自然と、体が揺れていた。

「飛豪さん。まず、シャワー浴びませんか?」

 とりあえずワンクッション置きたくて提案してみたが、即座に却下された。

「後でね。そんな官能的センシャルな顔して腰ふって……まず一回はしないと、こっちが持たねーよ」

「せめてストッキング脱いでいい? 汚れてるんです」

「あぁ、靴脱いで踊ってたもんね」言いながら、彼は悪だくみをするように目を細め、口の端を吊りあげた。「いいよ。脱がせてあげる」

 骨ばった彼の手が機敏にスカートの隙間からすべりこんでくる。瞳子は何かを察して、体ごと逃れようとした。

「いいッ! 結構です‼」

 しかし、彼の膝の上で腰をがっちりとホールドされたままでは身動きがとれない。飛豪は彼女の耳元に顔を寄せた。耳殻をなめあげて、そっと甘噛みする。

「瞳子、言うこときいて」

 吐息とともに囁かれたそれは、快感中枢を強く刺激した。

「……っう」

 隠微なスリルが背筋を駆けあがっていく。抵抗の意志など、木っ端みじんに砕かれた。

「いい子だ」

 満足げにほくそ笑んだ彼は、ゆうゆうとワンピースの内側に侵入した。ストッキングと下着ごし、繊細な窪みへ、つぷんと爪先があたった。彼女の口から蒸発するように、桃色の熱い息づかいがこぼれてしまう。

「っ。はぅ……」

「いいよ。声抑えなくても。俺は聞きたくてやってるんだから」

 飛豪は、皮膚のひときわ薄いうなじをやわやわと噛みながら、快楽の入口をひとしきり指先で押しつづけた。やがて、淫らなぬかるみがトロリとした質感を帯びてきたところで、贈り物の包装紙をはぐような丁寧な手つきでストッキングを脱がせた。

 脱がせる過程で、彼はナイロンの繊維に包まれた太腿に手のひらを這わせ、珍しい感触を心ゆくまで堪能した。同時に、意味深な手つきでこちらを翻弄してゆく。

 男性にストッキングを脱がされることそのものが恥辱もので、瞳子は赤面する顔を両手で隠していた。そうしている間に彼がショーツの中央を指で押さえると、ぬちゅっと湿った音がこたえた。

 脇から指が胎内に侵入してきて、溢れんばかりに潤っている下半身を、水音高くかき回していく。

「発情してる? 君は、踊るか酔っぱらうかすると、こんなにぐちゃぐちゃになんの?」

「……言葉攻め、ムカつく」

 言った瞬間、二本目が増やされて瞳子は息をつめた。体がどこもかしくも熱くなっていて、もう中に彼が欲しくなっている。熱と欲望にうかされて、自分が自分でない気がした。

「お姫様にもなれんのに、ビッチみたいな顔もできるんだな」

 ――違う。シルフィードは妖精だからお姫様じゃない。

 反発するように睨みつけると、彼はニッと笑って応えた。彼女の頬を手の甲でそっと撫ぜる。分かるよ、と言いたげに彼は至近距離で頷いて、額にかかる前髪をそっとかき分けて恭しく口づけをした。

 その紳士な仕草に騙された。またもや横抱きにされたかと思うと、今度は自分がソファに座らされた。

「え……?」

 瞳子が戸惑っているあいだに、飛豪はジャケットを背後に放る。穿いていたボトムスも手早く脱ぎ捨てていた。

「悪い。もうちょい時間かけるつもりだったけど、顔見てたら我慢できなくなった」

 彼は屈んで彼女のまなじりに軽いキスをすると、ワンピースをまくりあげた。

 コンドームをつけると、早くも蜜をしたたらせている入口へと切っ先をあてがう。先端が挿しこまれて角度が決まると、彼はそのまま体重をかけて性急に埋めていこうとする。

「い、痛い……」

 初めての姿勢に慣れておらず、気持ちよさよりも、不自由な角度で抉られる苦痛に瞳子は小さく抗議した。体が強ばっている。

「ごめん。でも今瞳子が欲しい」

「するい。そんな言い方されると何も言えない……」

 ワンピースで隠れてはいるが、体は繋がってる。腕を伸ばせばすぐ届く正面に、切迫した顔つきで乾いた呼吸を呑みこんでいる彼がいた。
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