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《第5章》 ロットバルトの憂鬱
ピザ会2
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友人が「あのさ」と静かに口をひらくと、瞳子の体はすくみ上がり、肩が大きくはねた。
「ごめん、突然重い話だったからびっくりして、キャパ足りなくてまだ咀嚼しきれてないんだけど……けど、一番は、うん……瞳子がいま無事でいるのが良かったってのと、話してくれてありがとうって思った」
瞳子が目を伏せたままでいると、奈津子はなおも言葉をつづけた。
「私は、彼氏とか……好きな人か好きになれそうな人じゃないと、そういうこと出来ないのね。だから、いきなりカラダの関係持てちゃう大胆さにめっちゃビビった。え、マジで? って。あ、あと……うん、納得もしたよ。瞳子が他の子と比較にならないくらいバイトしまくってた理由も、あの、家賃めっちゃ安そうなアパートに住んでた理由もやっと分かった。借金のところは初耳だったから、『それでか!』って思った。家関連は、もう一個。あそこ簡単に強盗入れそうだったから、引っ越ししたっていうのは、友達として正直安心したよー」
だんだん舌が滑らかになってきた奈津子は、順々に指を折っていって、箇条書きのリストを読みあげるようにコメントしていく。
「だってお風呂場が外廊下に面してて、しかも窓ついてたし、女子大生が住むところじゃない! って、ずっと心配してたもん。正直……私はさ、私大に通って、バイトもしないでソフトだけやってられるのは恵まれてるって分かってるの。だから……なんだろ……お金の苦労については、言う資格なんてない。私のソフトは別にスカウト来なかったし、Ⅰ部とⅡ部を行ったり来たりしてる程度のチームだけど、いま肩壊すこと考えたら、想像しただけで寒気がする……。瞳子のバレエ、半分プロだったんでしょ? それなのに全部失くなるなんて……お母さんのことも、大変なんてもんじゃなかっただろうし」
「……ナコちゃん、怒ってないの?」
瞳子が恐るおそる訊くと、奈津子は握っていたチューハイの残りを一気に呷った。勢いをつけて空缶をテーブルに置くと、「怒るわけないよ」と言いきる。
「だってそれ、瞳子の人生じゃん。迷惑かけられた訳じゃないし、私がとやかく言うことなんてできない。でも、やっぱし、もっと早く教えてほしかった……かな」
「そういうもの? わたし、バレエやってる間は、舞台が上手くまわる程度の人間関係しか作ってこなかったから、友達にどこまで言っていいのか分からなかった。ヘビーな話題だから、簡単に人に言えることじゃないって思ってたの。聞いたほうがダメージもらう系の話だろうなって」
「あ……うん。そうね、重いのは否定できない」
二本目の缶のプルタブを引きながら奈津子は答えた。シュワシュワする喉ごしを味わいながらニカッと笑う。
「けど、謎がとけた。謎はすべてとけた。すごくスッキリした! 私、数学だけじゃなくてミステリーも好きだから、瞳子の話してくれないバックグラウンドは、断片からいろいろ推理働かせてたんだよね」
「そうだったの?」
「うん。でも、バレエやってた時の名字が違うとか、借金あったとか、そこまで想像できてなかった」
「ちなみに、どんな想像してた?」
「マッチ売りの少女みたいなの。本当は継母がいて、しかもいじめられてて、家にお金いれてるとか。あとは、私には言っていない病弱の弟か妹がいて、手術費のために節約してるんだとか」
「どっかで見たようなドラマだねぇ」
「ね、陳腐でしょ⁉ でもいずれにしろ瞳子は、薄倖の少女だったよ!」
あっけらかんと笑いとばしてくる奈津子に、心が徐々に軽くなってくる。シリアス極まりない話をしていても、彼女の明るさにあたっていると不思議と気持ちが落ちついてきた。
「ごめん、突然重い話だったからびっくりして、キャパ足りなくてまだ咀嚼しきれてないんだけど……けど、一番は、うん……瞳子がいま無事でいるのが良かったってのと、話してくれてありがとうって思った」
瞳子が目を伏せたままでいると、奈津子はなおも言葉をつづけた。
「私は、彼氏とか……好きな人か好きになれそうな人じゃないと、そういうこと出来ないのね。だから、いきなりカラダの関係持てちゃう大胆さにめっちゃビビった。え、マジで? って。あ、あと……うん、納得もしたよ。瞳子が他の子と比較にならないくらいバイトしまくってた理由も、あの、家賃めっちゃ安そうなアパートに住んでた理由もやっと分かった。借金のところは初耳だったから、『それでか!』って思った。家関連は、もう一個。あそこ簡単に強盗入れそうだったから、引っ越ししたっていうのは、友達として正直安心したよー」
だんだん舌が滑らかになってきた奈津子は、順々に指を折っていって、箇条書きのリストを読みあげるようにコメントしていく。
「だってお風呂場が外廊下に面してて、しかも窓ついてたし、女子大生が住むところじゃない! って、ずっと心配してたもん。正直……私はさ、私大に通って、バイトもしないでソフトだけやってられるのは恵まれてるって分かってるの。だから……なんだろ……お金の苦労については、言う資格なんてない。私のソフトは別にスカウト来なかったし、Ⅰ部とⅡ部を行ったり来たりしてる程度のチームだけど、いま肩壊すこと考えたら、想像しただけで寒気がする……。瞳子のバレエ、半分プロだったんでしょ? それなのに全部失くなるなんて……お母さんのことも、大変なんてもんじゃなかっただろうし」
「……ナコちゃん、怒ってないの?」
瞳子が恐るおそる訊くと、奈津子は握っていたチューハイの残りを一気に呷った。勢いをつけて空缶をテーブルに置くと、「怒るわけないよ」と言いきる。
「だってそれ、瞳子の人生じゃん。迷惑かけられた訳じゃないし、私がとやかく言うことなんてできない。でも、やっぱし、もっと早く教えてほしかった……かな」
「そういうもの? わたし、バレエやってる間は、舞台が上手くまわる程度の人間関係しか作ってこなかったから、友達にどこまで言っていいのか分からなかった。ヘビーな話題だから、簡単に人に言えることじゃないって思ってたの。聞いたほうがダメージもらう系の話だろうなって」
「あ……うん。そうね、重いのは否定できない」
二本目の缶のプルタブを引きながら奈津子は答えた。シュワシュワする喉ごしを味わいながらニカッと笑う。
「けど、謎がとけた。謎はすべてとけた。すごくスッキリした! 私、数学だけじゃなくてミステリーも好きだから、瞳子の話してくれないバックグラウンドは、断片からいろいろ推理働かせてたんだよね」
「そうだったの?」
「うん。でも、バレエやってた時の名字が違うとか、借金あったとか、そこまで想像できてなかった」
「ちなみに、どんな想像してた?」
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「どっかで見たようなドラマだねぇ」
「ね、陳腐でしょ⁉ でもいずれにしろ瞳子は、薄倖の少女だったよ!」
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