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《第5章》 ロットバルトの憂鬱
策士
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小姑。その言葉と、先日会わせてもらった三十路男の異次元マッチングに、奈津子は興味をひかれる。なにそれ、すごく面白そう。
「例えば?」
「電子レンジ」瞳子は即答した。
「ん?」
「わたし基本的に雑だから、電子レンジ使ったあとに扉閉めないの。っていうか、一応閉めてるつもりなんだけど、きちんと閉まってない時の方が多いらしいの。だけど飛豪さんは毎回閉める派だから、何回も注意されてる。あとね、寝坊して部屋の電気つけっぱで大学行ったときも小言祭りだったし、洗濯したタオルとかダスター、畳まないで適当にしまってて嫌がられたこともある」
「お、おぅ……」
「タオルなんて別に皺とか関係ないじゃんね! でも、わたしも言いたいことあるとき、ちゃんと言ってる」
「どんな?」
「バスタオルの洗濯の頻度。うち、服の洗濯は別々だけどタオルは共有だから、それぞれが洗濯機まわすときに放りこめば、週に三回は確実に新しいタオル使えることになるの。なのに、飛豪さんが結構忘れる。納豆のパックも洗わないでゴミ袋に入れるから、プラゴミの袋のなかで嫌な臭いするし」
「どっちもしょーもない、細かい」
「同じ家に住んでると、そういう小さなところが大事なんだって」
キリッとした顔で瞳子は断言する。聞いているうちに、奈津子は全身にえも言われぬ痛痒感をおぼえた。
――これって、同棲初期カップルの症状じゃん……。
友人にカップルの自覚はないと思う。ただ、彼女が飛豪を心の内側に入れてしまっているのは、分かる。グチを言っていても表情がほんのりと色づいていて、口元がほころんでいる。まるで、つぼみを開きかけた花のように。
「で、この前のケンカは、今までの小競りあいみたいに終わらなかったんだ」
彼女は途端に暗い顔になった。
「一緒に住んでるのに帰ってこないって、かなり傷つくよ。顔も見たくなくて避けられてるってことでしょ。正直、どっちが悪いのか判断つけられないケンカだと、わたしは思ってる」
「難しいねぇ」
原因がセックスだと知ってしまっては、奈津子も安易に口をはさめない。二人の間だけの何かがあるということだ。
――あの男性、やっぱ後ろ暗いところあるんだ。
奈津子は、テーブルの上に置かれていた友人のボールペンを手にとった。指先だけで器用に回転させていく。
二人のはじまりを聞いて彼に会わせてもらった時、違和感もおぼえたのだ。
そんな野蛮なやり方で女性を買うような人には、とても見えなかったから。ごくマトモで、良識的な人に見えた。自分たちより一〇歳年上なのもあって、落ちつきと余裕もあった。だから、彼の中のなにが瞳子を必要としているのか、腑に落ちなかった。
解決したはずの問題が、別の問題の呼び水となっている。
――ふむ。新しい謎が一つ。傍観者でいていいのか、関わってもいいのか。でもアイツ、私の友達を泣かせるんなら罰が当たってもいいよね。
奈津子はグラスの底に残っていた氷を一つ口に流しこむと、カシカシと噛みくだいた。企みが一つ。
「瞳子、良いこと教えてあげよっか。ヒゴーさんが絶対つかまる方法」
トランプのジョーカーと見まごうほどの笑みを浮かべると、彼女は友人へ策をさずけた。
「例えば?」
「電子レンジ」瞳子は即答した。
「ん?」
「わたし基本的に雑だから、電子レンジ使ったあとに扉閉めないの。っていうか、一応閉めてるつもりなんだけど、きちんと閉まってない時の方が多いらしいの。だけど飛豪さんは毎回閉める派だから、何回も注意されてる。あとね、寝坊して部屋の電気つけっぱで大学行ったときも小言祭りだったし、洗濯したタオルとかダスター、畳まないで適当にしまってて嫌がられたこともある」
「お、おぅ……」
「タオルなんて別に皺とか関係ないじゃんね! でも、わたしも言いたいことあるとき、ちゃんと言ってる」
「どんな?」
「バスタオルの洗濯の頻度。うち、服の洗濯は別々だけどタオルは共有だから、それぞれが洗濯機まわすときに放りこめば、週に三回は確実に新しいタオル使えることになるの。なのに、飛豪さんが結構忘れる。納豆のパックも洗わないでゴミ袋に入れるから、プラゴミの袋のなかで嫌な臭いするし」
「どっちもしょーもない、細かい」
「同じ家に住んでると、そういう小さなところが大事なんだって」
キリッとした顔で瞳子は断言する。聞いているうちに、奈津子は全身にえも言われぬ痛痒感をおぼえた。
――これって、同棲初期カップルの症状じゃん……。
友人にカップルの自覚はないと思う。ただ、彼女が飛豪を心の内側に入れてしまっているのは、分かる。グチを言っていても表情がほんのりと色づいていて、口元がほころんでいる。まるで、つぼみを開きかけた花のように。
「で、この前のケンカは、今までの小競りあいみたいに終わらなかったんだ」
彼女は途端に暗い顔になった。
「一緒に住んでるのに帰ってこないって、かなり傷つくよ。顔も見たくなくて避けられてるってことでしょ。正直、どっちが悪いのか判断つけられないケンカだと、わたしは思ってる」
「難しいねぇ」
原因がセックスだと知ってしまっては、奈津子も安易に口をはさめない。二人の間だけの何かがあるということだ。
――あの男性、やっぱ後ろ暗いところあるんだ。
奈津子は、テーブルの上に置かれていた友人のボールペンを手にとった。指先だけで器用に回転させていく。
二人のはじまりを聞いて彼に会わせてもらった時、違和感もおぼえたのだ。
そんな野蛮なやり方で女性を買うような人には、とても見えなかったから。ごくマトモで、良識的な人に見えた。自分たちより一〇歳年上なのもあって、落ちつきと余裕もあった。だから、彼の中のなにが瞳子を必要としているのか、腑に落ちなかった。
解決したはずの問題が、別の問題の呼び水となっている。
――ふむ。新しい謎が一つ。傍観者でいていいのか、関わってもいいのか。でもアイツ、私の友達を泣かせるんなら罰が当たってもいいよね。
奈津子はグラスの底に残っていた氷を一つ口に流しこむと、カシカシと噛みくだいた。企みが一つ。
「瞳子、良いこと教えてあげよっか。ヒゴーさんが絶対つかまる方法」
トランプのジョーカーと見まごうほどの笑みを浮かべると、彼女は友人へ策をさずけた。
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