青柳さんは階段で ―契約セフレはクールな債権者に溺愛される―

クリオネ

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《第7章》 元カレは、王子様

フェイハオ ☆

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 裸の飛豪がソファに横たわっている。

「おいで」と横ざまに手をとられていざなわれると、やはり何一つ身につけていない瞳子は顔を赤らめ、彼の上にまたがった。

「今日は、瞳子が上になってほしいな」

 クンニリングスが終わると、飛豪は彼女の胸を揉み、乳首を吸いあげながら、退廃的な目つきでリクエストしてきた。自分は彼のセフレだ。逆らえる訳がない。「分かりました」の一言で、承知した。

 騎乗位は、サーシャと付きあっている時も一度か二度経験した。

 しかし、どう動けばいいとか、どうすれば気持ちよくなれるのかとか、その辺りの記憶がない。そもそも一六歳でたった数回では、無我夢中のまま行為を終わらせるだけで精一杯だ。

 骨格が大きく、肉厚な飛豪の上にのぼって、性器をゆっくりと体に沈めていくと、彼と目があった。

 ――今、全部見られてる。胸も、気持ちいいときの顔も、体がつながっているところも。

 恥じらいを捨てきれずに俯いていると、彼が見かねて下から手を伸ばしてきた。髪をサラサラと梳いてゆく。

「……そんな照れまくられると俺も恥ずかしい。何百人も見てる舞台の上でラブシーンできる子が、どうして二人だけだと困った顔するんだ」

「だって公演は役と振りつけがあるから、一〇〇パーセント自分じゃない。だけど今は、全部わたしだから……」

「なるほどね。……笑ったりしないし、どんな君でもOKだから、好きに動いていいよ」

 促されて、瞳子はおずおずと動きはじめた。

 上体を前傾にして、彼の胸筋に手をつく。ゆっくりと上下に体を揺すってゆく。それが内側をこすり上げていくたび、媚肉のぬかるみからとめどなく蜜が湧きだしてくる。

 彼を導くように、全身を使っていた。ただひとえに、欲望を増幅させるために。彼をくわえこんだ体が、もっと気持ちよくなりたがっていた。

 時折、その先端がこづくように触れる場所に、快楽の源流がひそんでいる気がする。もっと触って。もっといじめて。帰れなくなるほど遠くまで、あなたと一緒に行きたい。

 気がつくと瞳子の動きに合わせて、彼が腰を浮かせて動いていた。紗のかかった切迫した目つきをして、喉からは苦しげな息をこぼしている。

 自分のリズムと、彼のリズム。

 遠浅の海岸で、波がゆるやかに満ちては引いていく。

 天気のいい穏やかな海辺を二人で、並んで歩いている情景が瞳子の眼前にひらめいた。ひょっとして、足首をちゃぷちゃぷくすぐってゆく波もまた、彼なのかもしれない。

 飛豪は、今この瞬間手をつないでいる人で、この海そのもので。別の日には、津波となって彼女に襲いかかる。今日の海は空の青をうつしたように澄んでいて、やわらかな幸福感しかなかった。

 快楽のシーソーを二人で漕ぎだしていて、番が入れかわるたび、彼は上へ上へと高く跳んでいた。

 瞳子は、自分がもう跳べないのを知っている。彼が天頂に届けばいいと願うばかりだった。なのに同時に、もう一つの衝動に支配されてしまう。

飛豪フェイハオ……」

 唐突に名前を中国語呼びすると、彼はびくりと身を震わせた。シーソーは止まり、墜落する。やがて興ざめした顔で、こちらを見つめてきた。

「お前……そっちで呼ぶなって言っただろ」

 飛豪は瞳子の胸を押して、ずるりと自分のものを引きぬいた。

「覚えてる。でも、ちょっと呼んでみたくなった」

「心底イヤなタイミングでぶっこんできたな。もう、電圧下がってしょうがない」

「んー……分かっててやった。わたし今、飛豪さんにちょっと好かれてた気がしたから、イヤなことやって、嫌われ側に戻してみたくなったの」

 上体を起こした彼が、深々とため息をつく。その顔には行為の余韻も余熱もなく、すべてに醒めきっていた。

「知っちゃいたけど、そういや君は、面倒くさい奴だった」

「ごめんなさい」

 大して気持ちもこめず、彼女は謝る。

 太陽が移ろったのか、先ほどはカーテンの合わせ目から真っ白に射しこんでいた光の線は、もう跡形もなく消えていた。部屋全体が薄墨色にかげっていた。
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