30 / 110
《第2章》 ワルツの成果
衣装あわせ 2
しおりを挟む
先ほど散った火花を意に介していないかのように、青のドレスをエリーに着せかけながらジャンヌが訊いてきた。
「そういえば、ワルツは踊れるようになりましたか?」
「あれだけ練習したもの。ちゃんと仕上がったわ」エリーも気持ちを切りかえて返答する。
「成人して、今年が初めてのお披露目のワルツですからね。領地の全員が期待してます」
「クロード様もびっくりされますよ。お嬢様、すごく上達されましたから」
侍女たちの誉めそやす言葉は、いつも額面どおりに受けとらないように自制していたが、今日ばかりはくすぐられるように嬉しい。ワルツをずっと熱心に練習してきたのも、思いきったデザインのドレスを選んだのも、三日後の夜にクロードと踊るためだった。
基本的なステップは、メッシーア時代に家庭教師から教わっていた。しかし社交の場で踊った経験がエリーにはない。それを補ってくれたのは家令やノーアたちで、彼らは時間のあいているときに付きあってくれた。傍で見ていたジェイは、最初こそつまらなそうにしていたが、踊っているエリーたちを暇つぶしに眺めていただけでいつの間にか習得していた。
苦労して身につけたエリーはジェイのそんな器用さが気にいらず、後で突っかかってケンカになった。
「こういうのは俺のほうが才能ある」
と、得意げに笑ったジェイの足をわざと踏みつけて、しばらく口をきいてもらえなかった。
「騎士長の赤毛の息子と、最近とみに親しいようですが、ワルツの練習も彼とされたんですか?」
「えぇ。彼だけでなく、お父様のノーアや、家令とも。皆さん、それぞれお上手でいらっしゃるから」
エリーにとってジェイは、唯一の気のおけない友人だ。変な勘ぐりなどされたくない。エリーが天真爛漫に答えると、ジャンヌはさらに言葉をかさねた。
「お嬢様が本当に攻略しなければならない相手は、クロード様ですからね」
「…………」
「四階の『奥様』にまだ御子がいないのですから、お嬢様にもきっとチャンスはありますよ。そのドレスで頑張ってお手付きになってくださいませ」
生々しいことを言いながら、裾丈やウェスト、バストサイズをエリーの体にあうよう手際よく詰めていく。
「そういうのは成り行きに任せることにしたわ」
「子胤(こだね)に結びつかない貴族の婚姻なんてありえません。クロード様をその気にさせて種つけさせておやりにならないと」
あからさまな言葉に、エリーはさっと頬を染めて目を伏せた。
――子供。
彼女が真に欲しているのは、子供ではなく、一かけらの優しさと気づかいだけだ。
自分は本当に彼を望んでいるのだろうか。クロードに、どこまで触れてもらえば満足するのか。
問いかければ問いかけるほど混乱をきたしてしまう。泣きたくなるような途方に暮れてしまうような気分のとき、探してしまうのは彼ではない気もしている。
エリーは無言で首をふり、誰にも気づかれないよう隠れて溜息をついた。
「そういえば、ワルツは踊れるようになりましたか?」
「あれだけ練習したもの。ちゃんと仕上がったわ」エリーも気持ちを切りかえて返答する。
「成人して、今年が初めてのお披露目のワルツですからね。領地の全員が期待してます」
「クロード様もびっくりされますよ。お嬢様、すごく上達されましたから」
侍女たちの誉めそやす言葉は、いつも額面どおりに受けとらないように自制していたが、今日ばかりはくすぐられるように嬉しい。ワルツをずっと熱心に練習してきたのも、思いきったデザインのドレスを選んだのも、三日後の夜にクロードと踊るためだった。
基本的なステップは、メッシーア時代に家庭教師から教わっていた。しかし社交の場で踊った経験がエリーにはない。それを補ってくれたのは家令やノーアたちで、彼らは時間のあいているときに付きあってくれた。傍で見ていたジェイは、最初こそつまらなそうにしていたが、踊っているエリーたちを暇つぶしに眺めていただけでいつの間にか習得していた。
苦労して身につけたエリーはジェイのそんな器用さが気にいらず、後で突っかかってケンカになった。
「こういうのは俺のほうが才能ある」
と、得意げに笑ったジェイの足をわざと踏みつけて、しばらく口をきいてもらえなかった。
「騎士長の赤毛の息子と、最近とみに親しいようですが、ワルツの練習も彼とされたんですか?」
「えぇ。彼だけでなく、お父様のノーアや、家令とも。皆さん、それぞれお上手でいらっしゃるから」
エリーにとってジェイは、唯一の気のおけない友人だ。変な勘ぐりなどされたくない。エリーが天真爛漫に答えると、ジャンヌはさらに言葉をかさねた。
「お嬢様が本当に攻略しなければならない相手は、クロード様ですからね」
「…………」
「四階の『奥様』にまだ御子がいないのですから、お嬢様にもきっとチャンスはありますよ。そのドレスで頑張ってお手付きになってくださいませ」
生々しいことを言いながら、裾丈やウェスト、バストサイズをエリーの体にあうよう手際よく詰めていく。
「そういうのは成り行きに任せることにしたわ」
「子胤(こだね)に結びつかない貴族の婚姻なんてありえません。クロード様をその気にさせて種つけさせておやりにならないと」
あからさまな言葉に、エリーはさっと頬を染めて目を伏せた。
――子供。
彼女が真に欲しているのは、子供ではなく、一かけらの優しさと気づかいだけだ。
自分は本当に彼を望んでいるのだろうか。クロードに、どこまで触れてもらえば満足するのか。
問いかければ問いかけるほど混乱をきたしてしまう。泣きたくなるような途方に暮れてしまうような気分のとき、探してしまうのは彼ではない気もしている。
エリーは無言で首をふり、誰にも気づかれないよう隠れて溜息をついた。
48
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる