俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第1章 異世界転生

プロローグ 異世界転生

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7月も半分を過ぎ、最高気温を更新した猛暑日。オフィスビスの一室に男はいた。既に定時退社時刻は過ぎており、事務所にも男を含めて2人を残し、皆退社してしまっている。

「先輩、まだかかりそうですか?」

そう隣の席から男に尋ねるのは、男の後輩である。

「あ~、もうすぐ帰れそうかな。君は?」

視線をパソコンの画面に向けたまま男は答えた。
守衛さんによると間もなく環境保護対策でエアコンの使用が出来なくなるらしい。

「僕はもう止めます。で、先輩。この後、飲みに行きません?」

「悪いね。ちょっと今金欠なんだ。来月の連休に旅行する予定があってね。」

「そうでしたね。じゃあ、お疲れ様でした。」

来月の盆休みには、男が長い間楽しみにしていた海外1人旅。
仕事に忙殺され、彼女がいない男には銀行に預けてある貯金の数少ない使い道と娯楽であった。



半月後、男は東アジアの空港に到着した。

身振り手振りと、サルでもわかる現地語辞書、観光ガイドブックの3点セットを活用し、観光名所を訪れ、早朝から市場を訪れては現地料理を堪能する。

楽しくて堪らない連休のはずだった。


旅行バックとキャリーケースを引きずりながら、空港の出国ゲートへと向かう。
手荷物だけを持ち、列に並び、自分の番を待っていた。


すると突然後ろから衝撃があり、前の男性にぶつかってしまった。男性に謝罪し後ろを振り向こうとすると、20代後半くらいのみすぼらしい男性2人組が脇を通り過ぎ、無理矢理出国ゲートを突破しようとしていた。


直ぐに2人は警備員にとり押さえられたが、何のことかわからないままであった。
ざわざわとした周りの混乱も収まり、男の番である。手荷物を預け、金属探知ゲートを通る。

すると、突然保安職員の1人の挙動がおかしくなり、周囲の警備員を呼び寄せる。
ものの数分で男は警備員に両脇を抱えられ、別室へと通されていく。


何がなんだかわからなかった。
取調室のような別室で1時間ほど男は待っていた。大声で職員を呼ぶも返答はなく、一つしかない出入り口には外から鍵が掛かっていた。


「最悪だ…。」と呟くも、乗る予定だった飛行機の心配をしている男には若干の心のゆとりがあったようだ。職場でのいい土産話になるかも…などと思っていたりする。


椅子に座りそんなことを考えていると、軍服姿の男数人が部屋に入って来る。
軍人の1人がそのまま男に手錠をかけた。
さらに呆然とする男に黒い頭巾のようなものをかぶせると、男を立たせ手錠を引っ張り連行するのであった。

混乱する男はふと我に返り拘束を解こうと暴れた。後頭部に鈍痛を感じ意識を失うまでは。

目を覚ました男は監獄のような部屋にいた。
窓はなく便器が一つあるだけ。

コンクリートで覆われている部屋に一つしかない金属製の扉にある覗き穴を開け、外の様子を確認してみると、廊下を挟んで壁があるだけであった。
出来うる限りの声を出し、人を呼ぼうと試みるも誰も来ない。



何時間たったのかわからない。一度だけ覗き穴から入れられた食事のようなものは、とてもじゃないが口にいれることができない見た目と臭いだった。


さらに時間が経ち、男は突然軍服の男に叩き起こされ、部屋に連れていかれた。部屋には同じ軍服を着た男が一対の椅子に座っており、机を挟んで対面に座るよう促される。

「ショウジキイエ、ドコノソシキダ?」

対面に座る将校と思われる中年の軍人は拙い日本語で男に問いかける。

「やっと言葉がわかる人が…、信じてください、僕は何もやってないんです。」

将校は少し俯き、男の後ろで待機していた若い軍人に目で合図する。

「ちょっと待ってください。本当に僕は何もしらない。嘘も言ってないんだ。」

若い軍人は将校に敬礼をし、男を連れていこうとする。何度も将校に向かって無実と解放を訴えかけるも男の言葉に誰も耳を傾けない。



1か月が過ぎた。

男の顔のいたるところに痣が見受けられるようになっていた。

いつものように軍人は男を連れ出すと黒い頭巾をかぶせ車に乗せ、地下室のような施設につれて来られる。男は固定された椅子に座らされ、ベルトで体中を縛りつけられた。
もはや男には抵抗する気力もなかった。軍人たちの足音が遠ざかっていく。

一瞬の強烈な光を感じ、男の意識は深く沈みこんだ。



沈みこんだ意識の中で男は夢をみる。
自分を殴る軍人。木槌を神経の通った指先に思いきり振り下ろす。
男が必死で叫ぶ。
「僕は何も知らない。なんでもするから許してください。」

だが軍人はその行動を止めようとはしない。
「あああああああああああああああああああああああ。」
何度も何度も同じ映像の繰り返し。




ふと、暗く冷たい海の底から少しずつ浮かびあがってくるような感覚があった。

体温が上がり浮遊感を感じたのだ。とても瞼が重かったのだが、目をなんとか開いてみると、どうやら男は10代後半の女の子に抱えられているようだった。

なんとか声を発してみようとするものの、上手く声は出ず、どうしようもなく眠いのだ。男は再度意識を失くすのだった。



ある時、ほんのりだが甘い匂いがして、耳に音が飛び込んでくる。

鳥の鳴き声、風が原っぱを駆け抜ける音、子供の笑い声、忘れて久しいものばかりだ。田舎の母親の顔を思い出した。

懐かしい。目を開けてみたくなった。



目を開く。
正面では数人の子供たちが遊んでおり、左手に映る木々は青々と生い茂り、地平線にの先にまで広がっていそうな緑色の絨毯は緩やかな風に撫でられてたわんでいる。

少しの間余韻に浸ってぼんやりと眺めていた男はあることに気付く。


少し離れたところで遊ぶ子供たちも尋常でないほどの跳躍を披露しており、一緒に遊んでいる子の身長を飛び越えんとするほどだ。そしてなにより尻尾らしきものが生えていた。



「一体何が起きたんだ。」

最後に覚えているのは、軍人に椅子に座らされたこと。
しかし今の自分は柔らかい白い布にくるまれてバスケット籠の中で寝ている。
体を確かめようとふと、自分の股間が生暖かいことに気付く。


「やってしまった」となんとか始末をつけようとした男は自分の手を見て唖然とする。


白粉を塗ったような可愛らしいプニプニの赤子の手だった。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
驚いた男が声を出そうとするも、上手く声が出ない。
耳に聞こえてくる自分の声は、ただの赤ん坊の声。


直ぐに人が近づいてくる気配があった。
人の気配に過敏になっていた男は「ビック!!」っと体を震わせてしまうが、目に飛び込んで来たのは、50歳くらいの美しい女性だった。



男はそのまま婦人にだっこ紐で結びつけられ移動中である。
ゆっくりと歩く婦人の傍らには先ほど草原で遊んでいた数人のケモノ耳付きの子供たちが先ほどから「抱かせてくれ!!」と言わんばかりに大騒ぎだった。
「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※!」

男の知らない言語だった。

10分ほど経つと一行は小さな集落にたどり着く。子供たちは「またね!」と蜘蛛の子を散らすように走り去って行き、抱えた婦人と1人のネコ耳のついた女の子が集落の中心部を通り外れの小さなボロ屋の前で立ち止まる。

先ほどから女性に抱えられるという貴重な体験をしていた男は集落を観察していた。
40軒ほどある家はかつてテレビで見たアフリカの部族のような様式で、明らかに生活水準は高くない。



生活している人?たちも皆ケモノ耳を生やしているし、身に付けているボロ布にはお尻部分に穴が開いており尻尾がフリフリと顔を出している。
試しに可愛いお手てで自分の頬をペシペシ叩くもキチンと痛い。
どうやら夢じゃないようだと確信する。

家の中に入ると婦人は奥の部屋に赤ん坊を下し、見上げてくる赤ん坊の頬を何かいいことでもあったように顔を破顔させツンツンと突く。赤ん坊がふと空腹を感じる。

「どうしよう…」
と、男は考えていると何かを察した婦人は部屋の外に向けて声を発する。



直ぐにネコ耳の女の子が部屋に入ってくると赤ん坊を両手に抱え、椅子に座った自分の膝の上に赤ん坊を載せると、「まさか…」という男の考えを裏付けるように自分の服をめくり上げその乳房をあらわにさせた。
思考が固まる男だったが、乳房を口元に押し付けてくる女の子の好意に甘えることにした。

おなか一杯になったところでゲップまでお世話になった男は婦人と女の子が部屋から出ていくのをベッドから見届けると、一応自分の体を確認する。
ケモノ耳も尻尾もない。
でもどうやら自分は地球じゃないどこかに転生したようだと。
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