俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第1章 異世界転生

第1話 母と祖母

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大陸中央部に位置するネスジーナ王国。その西部を治めるホップス子爵。ホップス子爵領の西端には魔獣と呼ばれる通常の獣よりも強力な生き物が生息する魔の大森林がある。さらに魔の大森林の入り口には獣人族と分類される人族の体に一部、獣の特徴を生まれながらに備える人たちが営むラウ村という小さな村があった。

獣人族が大部分を占めるこの村に数か月前、唯一の人族の子が居住している。
アキ。それが新しく彼に名付けられた名前だった。宝石のような蒼い目で青い髪、綺麗な真ん丸い顔と真ん丸い目は、将来の美男子を予想させた。

猫人族のナディアという女の子がいた。顔のつくりは人族でも可愛いと評される美少女だが、顔の横に耳は無く、代わりに茶色のボブパーマの髪の上にある三毛柄の猫耳とお尻から生えた尻尾がピコピコ可愛らしく動いている。

身長は150cmくらいでこの世界では比較的高身長の女の子だ。
彼女がアキを拾い自分の子として育て始めてから400日が経とうとしていた。


7日に一度ナディアは近所の子供たちと同居人で親代わりでもあるリリを加えて近くの草原まで散歩に出掛ける。
今日もそんないつも通りのいいお天気な一日。

「リリさん、まだですか?早く行きましょう!子供たちが待ってますよ。」  

ナディアがそう言って急かすのは、エルフ族のリリ。アキの名付け親である。50歳くらいの見た目で、品のある美しい女性。森人族、別名エルフ族は人族よりも倍以上に生きる長命種である。
エルフの彼女の実年齢は実際見た目よりもはるかに上であり、人族の基準では測れないのだ。

ビュッ!!

ナディアの耳元を何かが高速で通り過ぎる。猫人族の高い動体視力を以ってしても捉えきらないもの。そうサンダルである。

「朝寝坊をし、水汲みを忘れてお昼のパンを焦がしたのはどこの誰かわかる?ナディア?」

サンダルが残していった鋭い風がナディアの髪を揺らし、リリが普段よりもちょっと低い声で問いかける。リリはいつも時間に厳しいらしい。

「にゃははは……。やだにゃ~。ちょっとした冗談じゃにゃいですか。」

猫人族特有の変な訛りを含んだ言葉でナディアは答える。既に背中は汗でびっしょりだ。後でまた着替えにゃいと。と今日2回目の着替えが確定する。
エルフはのんびり者のはずにゃのににゃ、リリさんは特別せっかち過ぎるにゃ。などとナディアが考えていると、

「ナディア?」
「はいっ!!!!」

まずい、顔に出てたかにゃ?と今度は額に汗をかく。

「サンダルがないのだけど」
「あんたが今投げたのですよ!!」
「あんたぁ?」
「にゃあ~~」
そして今日もまたいつものように子供たちとの待ち合わせに遅れるのだ。


ナディアの着替えが終わり、アキを抱いたリリと少し後ろから両頬を真っ赤に腫らして涙目のナディアが重そうに荷物の入った木籠を持って、村の中心にある古い井戸に到着する。

「「「リリばあたち、ちこく~~」」」

二人を出迎えるのは3人の子供たち。5才くらいの男の子、女の子である。
全人口が100人程度のこの村で数少ない年少組の子供グループだ。皆犬耳などの獣人族の特徴を備えていた。

「ナディ姉ぇかおまっか!」

そう言ってからかうのは3人のうち最年長の犬人族のタロアに揶揄われる。今年で6歳になる。ナディアの頬が真っ赤に腫れ上がっているのは村人の中ではもはや定番のことなのだが、子供たちがこれを揶揄うこともまた定番なのである。

「うるっさいわね!」

流石に自分がおしめを替えたこともあるタロアに揶揄われるのはプライドが許さないのか、軽くタロアの頭を小突くと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてナディアは怒る。



学校もないこの村ではまだ親の手伝いをするには幼い子供たちの面倒は持ち回りで大人たちが看ることになっている。

今日はリリたちの順番で、村で働く大人たちの邪魔にならないよう近くの東の草原で遊ぼうということになっていたのだ。

獣人族は身体能力が人族よりも高い。子供たちが思いっきり遊ぶにはこの村は少し狭いし、危ない。


「さあ行くわよ!」今年18歳を向かえたはずのナディアが先頭となって子供たちが駆け出す。ナディアが持参した籠とリリを置いて。
リリがそれに気付いた時には既にナディアはリリの声が届かないほどの距離をとっていた。獣人族ゆえの運動力である。

「あの小娘ぇ~」リリ、村の中心で怨嗟を叫ぶ。

頬をさらに腫らしたナディアが「着替え、籠に積んできてて良かった。」と思うのは、予定地点に全員が到着して直ぐのことだった。

ナディアが子供たちと遊んでいる間、リリはアキを籠に移し、岩陰に腰を下ろす。冬が終わって2か月しか経っていないが、直射日光が少しまぶしい。
アキの様子を時折眺めながらリリは小さな子供たちと大きな子供が遊ぶ様子を微笑みながら見守っていた。


自分の子も含めて育児経験が豊富なリリはアキの歳を大体ではあるが把握している。首が座りそろそろ立って歩こうという姿勢をみせてもおかしくない。離乳食こそ口の周りに近づければ食べてくれるが。


だがアキはハイハイをすることもなく、ほぼ一日中寝ており起きていても焦点の合わない目でジーとどこかをみているのである。そして時折、憑りつかれたかのように泣き叫ぶのだ。

アキが泣き叫ぶとき、普段は綺麗な青い目が真っ黒に変色するのである。ひょっとしたら、アキの実の両親はそれを気味悪がってヤマトを捨てたのではないかと推論立てていた。

ともあれ、2人とも既にアキに情がうつってしまっているし、何より元々子供を捨てる性分など2人は持ち合わせいない。
とうの昔に2人で話合い、どんなことがあってもアキの成長を見守っていこうと決めていたのである。

ナディアが大人気なく全力で子供たちを追いかけ回すのをリリは眺めながら、眠気を感じウトウトしていた。

ふと、近くから魔力の奔流を感じる。

エルフであるリリは魔力の流れを感じることに長けている。しかし、この辺りは村の若い奴らが頻繁に魔物狩りをしているはずだから、そんなに強力な魔物が出現する可能性は低い。

リリがその方向に目を向けるとアキしかいない。
ゆっくりとアキに近づくとアキは普通の赤ん坊のようにダ~、ダ~と声を発しているのだ。
今までとは明らかに違う。人間味が確かに感じられる。
リリがゆっくりと抱えあげると安心したかのように大声を挙げて泣き出し始めた。

リリはただただ嬉しかった。やっとアキが生まれてきてくれた、とそう思った。
あやしながら故郷の子守歌を歌う。生誕を祝う歌だ。



遊び疲れた子供たちがリリに寄ってくるのがいつもの帰宅の準備を始める合図である。まだ遊び足りない1人を除いて帰り支度を終わらせる。その際、リリは事の顛末をナディアに伝える。

「リリさん!アギがぁ~。アギがぁ~」

と、先ほどから涙と鼻水を蓄えて感激し、抱かせてくださいとナディアは大騒ぎするも、散々遊び回っていたその体である。汚いからダメとニヘラ顔のリリに一蹴され、キチンと荷物運びをさせられていた。

その周りでは子供たちが何かあったの?とリリやナディアに質問責めにしているのだが、なんでしょうね~とはぐらかしつつもリリはその胸に感じる暖かな体温に確かな幸せを感じていたのだ。
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