俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

文字の大きさ
4 / 41
第1章 異世界転生

第3話 アキと魔法

しおりを挟む
アキの一日はディラによる魔法講座から始まる。

一度あまりにも目を覚まさないで寝ているナディアに業を煮やしたリリは、ナディアの頭上に水球を発生させて顔めがけて落下させているのをアキたちは見ていた。

魔法だ!!

地上で溺れるナディアを他所にアキは脳内会議を開催したところ、3人は手探りながら魔法を使おうと思い立った。

<ジブンのナカにシュウチュウする。モット>

ディラの異世界語習熟度はまだ不十分だったため、アニメで学んだ日本語でアキに指導は開始された。ディラによれば若干ではあるが、リリが魔法を使う前に魔力のようなものを感じとることができたらしい。

<チガウ。マワリのセイレイのコエをキク>

ディラは丁寧に教えてくれるのだが、アキにはさっぱり理解できない。特訓もすでに3カ月におよんでいるが、彼らには進歩が見られなかった。

「アキっ!!あなた!!」

アキの背後からリリは驚きの声を上げる。

「アキ、今魔法を使おうとしたわね?」

今日は本来ならリリは薬草医として開業している薬局に詰めているはずだった。リリの目を盗んで特訓をしていたアキは血の気が引くのを感じた。

「ばあちゃん……今日仕事は?」

「ちょっと忘れ物を取りに帰ったのよ。質問に答えなさい!あと、ナディアは、一体、どこに、いるの?」
怒気の孕んだ声でアキに問いかけるリリ。今までアキはリリに怒られたことはない。しかも普段ナディアに怒鳴る雰囲気とは明らかに異なる口調にアキは動揺を隠せないでいた。

「か、母さんなら井戸に水を汲みに行ったよ。」

絞るような声で弁明すると、ゆっくりと近づいてくるリリ。小さな溜息をつくと、先ほどとは異なる口調でアキに話しかける。

「アキ。ちょっと付いてきなさい。」

《アキ、っちょっと尋常じゃないね》

<ババサン、トテモコワイ>

リリに連れられ家を出るアキ。途中ですれ違ったナディアに「アキを預かるよ。」と一言リリは告げると村の井戸の近くにある建物の扉を開ける。リリが普段調合を行う薬屋である。

「適当に座りなさい。」

初めて来たなと思っているアキが来客用の椅子に腰かけると、リリは店の奥からビンに入った青色の液体を持ってきた。

「これは{魔解薬}と言ってね。簡単に説明すると、魔法が使えるようになる薬なの。…ただね、体が小さいうちは、魔法は体に毒になる。だから魔法を絶対に使ったらダメよ。いいね?」

アキはその迫力から心ならずも深く頷く。リリはアキを諭しながら説明を続ける。

・本来魔法は自分で使い始めることはできない。

・魔法が使えるようになるには10歳を過ぎたあたりで、薬品によって自分の魂との親和性を高めて使えるようにする。

・通常は魔法が使える大人が慣れるまで補助に付く。

・魔力の制御を誤ると死ぬ可能性もある。

「アキ。あなたが魔法を使おうとするのは嬉しいけれど、1つ間違えてしまうと死んでしまうの。だからお願い!今日みたいなことは絶対しないで!」

結局、アキはリリを説得することはできず、手を引かれて家へ連れて帰される。

《で?どうするの?諦めるつもり?》

(う~ん。糸口を掴んではいるんだけどね。ばあちゃんを心配させるのはちょっと嫌かな。)

《どういうこと?》

(家でばあちゃんが俺を怒鳴ったのは、魔力を感じたからだろ?きっとボクはあの時点で、魔法を使えていたはずなんだよ。)

アキたちは魔法の使用は保留にすることにした。さすがにあそこまで脅された上で、魔法の使用を強行することはできなかった。







虫たちが綺麗な鳴き声を披露し始め、空には星たちが色とりどりの光を放っている。
成長期真っ盛りのアキが深い眠りに就いた後、リリはナディアに声をかけ、外に呼びだした。
アキには聞かせられない話をするときはいつも家の裏の薪割り場がリリたちの会議場に変わる。

「今日アキが魔法を使おうとしていたわ。」

「えっ!リリさんどういうことですか?あの子はまだ2歳にゃんですよ?」

「そうよ。やっぱりあの子には何か特別な力があるのかもしれない。ナディア…、アキに魔法を教えてみようと思うの。」

ナディアにとって突拍子もない言葉に驚きの声を上げる。

「待ってください!そ、そんなことしたら魔力暴走でアキ死んじゃうかもしれにゃいじゃにゃいですか!絶対嫌です!そんにゃこと絶対させません。リリさん、どうしてそんにゃこと言うんですか?」

ナディアが怒ることなど滅多にあることではない。特に対象がナディアが尊敬して止まないリリであればなおさらである。

「いい?ナディア。アキはこの村で唯一の人族。いつも私やあなたが必ずアキを守れるとは限らないの。アキには正しい力を手に入れてもらいたいのよ。出来るだけ早く。」

「で、でもっ。それでもしアキが死んじゃったらわ、わたし…。」

リリはナディアの震え始めた体を包み込むように抱きしめ、話を続ける。

「もちろん、私が全力で傍にいてアキの魔力を抑え込むつもりよ。それに今日既にアキは魔力の解放を一部だけど成功させていたの。これは私の推測だけど、薬品の濃度を下げて段階的に投与すればアキに関しては成功するはずよ。」

ナディアもこの村の現状は知っているし、リリの言うことも理解できる。ただ、どうしても心が付いていかなかった。

「…少し、考えさせてください。」

「そうね。突飛なことを言って悪かったわね。もう夜も遅いし、早く寝ましょうか。」






朝になり鳥の鳴く声でリリは目を覚ます。すると、隣にいるはずのナディアがいないことに気付く。今までありえなかったことだ。寝間着のまま、急いで外套を羽織り外に出ようとすると台所の片隅の椅子に腰掛けるナディアを見つける。

「リリさん。お願いします。わたしの息子に魔法を教えてください。」

リリはナディアが昨夜から一度も眠りについていないことは目の下を見て直ぐにわかった。
その上で、

「わかりました。あなたの息子さんは私トスカトリリ=ラ=ガリアスが責任をもってお預かりいたします。」

エルフの名の下に正式にアキを弟子とすることにしたのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

処理中です...