俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第2章 異世界家族

第8話 トスカトリリ=ラ=ガリアス

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「えっ、お断りします。」

バサラの突拍子もないお願いにアキは素直に断りを入れた。

「何故であるか?見たところ、お主の体捌きはかなりのもの。不幸にも吾輩、手合わせが十分に出来る御仁が海の民にはおらず、燻っていた次第。伏して願う。何卒!」

頭を下げ始めるバサラ。困ったなとこめかみを掻きながらアキは提案をする。

「これから村に戻るのには時間が掛かります。バサラさんと剣を交えるのに異論はありませんが、夜になる前に森を抜けたいんです。」

「では、吾輩同行してもいいだろうか?」

「どうしてですか?」

「ここで別れても、後程合流することなど難儀なだけではないか。」

迂闊なことを聞いたなと納得するアキ。承諾の意思を伝えると、バサラは素直に喜びを示す。

「では、早速参ろうぞ!いざ!ラウ村へ!!」

先頭を切って進もうとするバサラ。

「いや、バサラさん。逆方向です。」

「ははは、おじちゃん。おもしろ~い。」

ちょっと先行きが不安になるアキであった。



アキたちは村に向かって歩を進める。バサラの体力も相当なもので、獲物を持って駆けるアキたちと何とか同じ速度で付いていくことができていた。

「いや、しかし、吾輩驚きを隠せないのである。お主らのような幼子がこのような速度で走ることができようとは…」

「え~、おじちゃん、イズモたちほんとはもっとはやいよ~」

「なんと!!世界はやはり広いのであるな。」

「バサラさん気にしないで下さい。僕たちは普段からこうやって生活しているんで、慣れているんです。」

文化水準でいえば前世のアフリカの原住民と張り合えるレベルである。足腰など生活するだけで強くなる。ましてや、魔法がある以上、その枠組みからも外れるのだ。簡単にアキたちに張り合えるはずもない。

すんすん「にいに。なんかへんなにおいがする。ママのりょうりとおんなじ。」

村が近くなってきたところでイズモが不吉なことを言い出す。

「皆、止まって!!」

アキは皆に静止を促すと、獲物をバサラに預け、木に登り辺りの様子を窺う。
アキの視線の先には黒煙が上がっており、その場所は村の位置と相違なかった。

「バサラさん。ヒュウガ!!イズモを頼む!!」

状況を説明している余裕などアキにはない。同意も得ぬまま、持ちうる全ての力を発揮し村へと向かう。
想定しうるあらゆる最悪な状況がアキの脳裏をよぎった。他国の侵略。スタンピート。盗賊。単なる家事かもしれない。
だが、それを確かめるには一歩でも早く足を動かすこと以外出来なかった。

==================================================

「この村に謀反の疑いがある。」
30人ほどの甲冑を身に付けた騎士たちの先頭で隊長格の男が、村に着くなり宣言をする。

「よって事情聴取を行うため、幾人かの村人を連行する。取り押さえろ!!」

そう言うと後ろに控えた騎士たちが行動を開始しだす。

「お待ちください!村長のジンと申します!騎士様のおっしゃること、我々には心当たりがございませぬ。」

「ふんっ!獣がっ!よかろう。説明をくれてやる。先日、この村の代理を名乗る女が領都に交易に来たそうだ。だがその際、その女こともあろうに、名誉ある我らが騎士団の一員に弓を引き、怪我を負わせたとのこと。これらの容疑により子爵様の命を以ってお主らを拘束する。やれ!!」

村に悲鳴が響き渡った。

===================================================

アキが村に到着すると、そこはいつもの村の様相を呈しておらず、地獄絵図となっていた。

顔見知り程度であったが、挨拶をすれば必ず笑顔で返してくれた犬人族のコウさん。最近腰が痛いとよく薬屋に鎮痛薬をもらいに来ていた犀(さい)人族のタカ婆。少し離れた場所には、いつも声を掛けてくれた村長のジン。皆声を出さぬ骸と化していた。

呆然とするアキ。

きゃああああああ!!アキの耳に飛び込んできた声の方向を向くと甲冑が豚人族のオールに斬りかかろうとしている。

番えていた矢を放つアキ。ほぼ反射のような行動であった。

刃はオールに届くことはなく、矢は胸を貫通する。崩れ落ちる甲冑。
残る甲冑は5。
アキは目に光を浮かべぬまま次々に矢を番え放っていった。

5秒も経たず、甲冑はみな動かなくなった。

アキが村を見渡すと、そこら中に血だまりができており、村人たちがいたるところで死体を抱え、悲痛な声を上げている。

アキの目が一つの体を見つける。

「ば、ばあちゃん!!!!!!」

薬屋の隣、パザンの鍛冶屋の壁にもたれ掛かるように座っているリリ。袈裟切りにされた傷口からはおびただしい量の血が流れ出ていた。
リリに駆け寄るアキ。

「ア……キ………?」

「良……かっ……た。無事…だった……ん…だ…ね。」

「ばあちゃん。血が、もう喋らないで。今薬を。」

荷物をひっくり返し、傷薬を探すアキ。涙で目の前がぼやけ、直ぐに見つからない。
リリが血の塊を吐き出す。

「ゴフッ…もう…いい…よ。助…かる…傷じゃ…な…い。それ…よ…りナ…ディア…が」

懸命に言葉を繋げるリリ。アキはまだ必死に薬を探していた。

《耳を向けろ!アキ!》

<戦士の最後の言葉。聞かないのは無礼にあたる。>

「うるさい!うるさい!うるさい!あった!!」

薬の蓋を取り、リリの傷に振りかけるアキ。刺激が強く、大の大人でも声を漏らす薬品にリリはピクリとも反応を示さない。

「おばあちゃん!!」

アキの後ろからイズモとヒュウガが駆け寄ってくる。
その後ろではバサラが立ち尽くしていた。

「あぁ…イ…ズモ。無…事?怪…我は…な…い?」

「おばあちゃん、ちがたくさん。にいに…」

すがるようにアキに視線を送るイズモ。

「あぁ…。もっと…顔を…よく…み…せて」

血塗れた手をイズモとアキの頬に置くリリ。

「イズ…モ。お兄ち…ゃんの言…うこ…とをよ…く聞…くの…よ。」

「ア…キ。復…讐に囚…われ…ない…で。ナ…ディ…アの…こと…おね…が…いね。店…の…床…下を…見な…さ…い」

「ヒュ…ウ…ガ。お…兄…ちゃ…ん…たち…を守っ…て…あげ…て」

「ばあちゃん。」「おばあちゃん。」「クゥ~ン」

「ふ…ふっ。私…のか…わ…いい…家族。だ…いす…き…よ。あぁ…幸せ…またね……。」

リリは笑いながらそう言い残すと、閉じた目を開くことは二度と無かった。

トスカトリリ=ラ=ガリアス。享年162歳。
大森林の北。エルフ族の集落、ガリアス村にて生を受ける。幼い頃から好奇心が旺盛で、集落の中では異端児とされていた。
両親が決めた結婚相手と無理矢理結婚させられると、その男との間に2子を儲けるが、その後離縁される。
男に子供を取り上げられるも、村で慎ましく暮らし、子供が成人すると同時に村から失踪。
その後の消息は不明。
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