俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第2章 異世界家族

第9話 狂気

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アキはリリの遺体を抱えると薬屋に運び込み、ゆっくりと床に下した。
ばあちゃん、冷たいだろうけどごめんね。そう言い残して店にある薬をかき集める。村ではまだ命を取り留める可能性がある人がいるかも知れないからだ。
イズモとヒュウガはリリにしがみ付き離れようとはしない。

「今度こそイズモのこと、お願いしますよ!」

アキは冷たくバサラに言い放つ。とても初対面の相手に言うセリフではないが、アキの感情は既にボロボロになっており、それを理解できたバサラも承知と言うだけに留めた。

店を飛び出したアキは、村中を駆け巡った。

傷が浅い人には薬を手渡し、次に回る。

重症の人には、薬をぶちまけ、開いた傷口を無理矢理閉めた。痛みで暴れ、アキを殴る者もいたが、アキは何も感じなかった。
傍にいる人に縫合の説明をし、次の人のところに回った。

手遅れの者もいた。近親者からは「なんとかしろよ!!」と詰め寄られ、「できない」と答えるとまた殴られる。それの繰り返し、アキの顔はパンパンに腫れていた。

アキは医者ではない、簡単な体の仕組みは知っていても、設備も無ければ環境も悪い。ましてや薬屋の孫でしかないのだ。

皆がそれをわかっている。理解はできても納得はできない。
行き場のない怒りだけが村に漂っていた。

村の人口は多くない。一通り回ったところでアキは甲冑らの隣に立つ。
アキの矢に貫かれた彼らは物言わぬ骸と化しており、アキがそれを足蹴にすると、甲冑に紋章が入っているのを発見する。

(まさか…)

という思いと共に他の甲冑を確認すると、やはり他の甲冑にも紋章が刻まれていた。
つまり彼らが正規兵だということだ。

最後の甲冑を足蹴にしたところで甲冑が生体反応を示した。

アキを怒りが支配する。
そのまま両の腕を両足で踏みつけると、仰向けとなった甲冑のバイザーを上げ、顔を拝んだ。
アキが知っている顔がそこにあった。

数日前、リリと共に領都に向かう途中に捕縛した野盗の1人であったのだ。

口から血を噴き出した男はアキの顔を見るといやらしく笑う。

「何だ、お前、あの時のガキじゃねえか、うぅん、お前人族かっ!!」

どうやら矢は貫通したようだが、動脈などは傷つけずにいたようで、奇跡的にこの男は助かったものの痛みで気絶したようだった。

「質問に答えろ」

アキは冷たくそう言い放つと、貫通してある傷口に指を突っ込む。
ぎゃあああと男の叫び声が響き、その声に反応した村人たちがアキと男を取り囲み始めた。

「へっへへ、、答えたら助けてくれるのかよ。」

アキは無言で指を再度突っ込む。

ぐあああああああ。

「質問に答えろ」

アキは再度冷たく言い放つ。男は知らないがアキほど拷問に詳しい者などこの村にいないのだ。

アキは男から全てを聞き出す。
男たち野盗が牢屋に入っていると、子爵の代理を名乗る者から取引を持ち掛けられたとのことであった。内容は男たちを捕縛した生意気な亜人が憎くないか。奴隷狩りをするから無償で手伝え。手伝えば今回の罪は見逃してやると。

アキは頭を働かせる。子爵、野盗のメリット、デメリットを考え出す。
少し考えれば全容は理解できた。

要は、奴隷が必要になった子爵が野盗を利用し、奴隷狩りを行った。
子爵は野盗を担ぎ上げることで奴隷狩りの大義名分を手に入れられ、町に奴隷を連れ帰った後は、野盗は口封じに処刑すればいい。
また仰々しくも領内を騎士たちが行進するのも野盗退治と銘打てば、領都に戻って来た時に騎士がつれているのは、野盗と獣人族。話などどうにも作りあげられる。

現にこの男の甲冑には紋章が刻まれていない。なるほど醜い作戦だ。そうアキは感じた。
こんな奴らにばあちゃんが殺されたのか…。
どうやって殺そう。アキはそればかり考えていた。

アキが考えこんでいると、群がっている人の中から声が上がる。
アキの尋問が終わったことに気がついたのであろう。

どうした!早く殺せ!!

最初の声に続けとばかりに別の声が上がる。

そうだ!殺せ!!

殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!

大合唱。流石のアキも戸惑う。

やめえぇぇぇぇんかあぁああ!!!ばぁかどもぉがあぁ!!!

助け船を出したのは鍛冶屋のパザンであった。

「貴様ら、幼い子になんという業を背負わせようとしておる!!先ほど口を開いた者、前に出よ!!儂が責任を持って叩き潰す!!」

静まり返る一同。

「いいか!!その野盗の処遇、儂が預かる!!異議があるもの名乗り出よ!!アキもそれで良いな!!」

パザンは皆に有無も言わせぬまま野盗をどこかに連れて行った。
アキは先ほどパザンを治療していた。決して浅くない傷を負い、それでも孫のパダイとその母親を守っていたらしい。
野盗を肩に担いでいく、パザンの腰に巻かれた包帯からは血がにじんでいた。

アキは手に着いた血を井戸から汲んだ水で洗い流し、店に戻る。

「バサラさん、有難うございました。それと、先ほどは失礼なことを言い申し訳ありませんでした。」

「栓無きことである。お気になさるな。」

少し冷静になったアキ。ジッとイズモらの様子を見守ってくれていたバサラに感謝と謝罪を伝え、バサラもそれを素直に受け取る。
イズモらは相も変わらずリリにしがみ付き、嗚咽を漏らしていた。

「すみません、バサラさん。母さんの行方がわからないのです。もう少し妹らをお願いしてもいいでしょうか?」

「もちろんである。」

アキは一礼すると、家を出て状況を聞いて回る。
直ぐに事態を把握している者と話すことができた。村長の息子、狐人族のコウである。

コウによると、
村に押し寄せた騎士団は、直ぐに小さな子供たちを奪取。大人たちに降伏を勧めた。
ナディアを含むほとんどの大人が抵抗を止め、素直に枷をはめたという。
しかし、事はそれで終わらず、何人かの騎士が剣を抜き村人を斬り始めたという。恐らく、快楽目的だとコウは言う。笑いながら人を斬っていたと。
パザンやリリもナディアや子供たちが人質になっている以上、過度な反撃ができず、それがまた狂人らの欲を刺激したようだと。

結局、アキが射殺した5人を除いて、騎士団は人質を牢馬車に放り込むとそのまま帰っていったという。
リリが斬られた姿を見たナディアの叫び声が忘れられないとコウはアキに教えてくれた。

《アキ…アンタ》

「分かってる…やりすぎるつもりはないよ。…でもこのままでは終わらせない。絶対に」

《そうかい。ならアタイは何も言わない。》

<…そう。クズ共と同じになっちゃダメ…>

アキの目には決意じみた灯が灯っていた。



アキはまた店に戻る。店の扉を開けるとバサラと目が合う。
お互いに小さく頷いただけで意思の疎通ができていた。

リリの最期の言葉。

アキは店にある床の隠し扉を開いた。
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