俺の異世界家族戦記~憑いてる俺と最幸(さいこう)家族

高梨裕

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第3章 異世界レジスタンス

第1話 出発

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村の真ん中にある井戸の側でアキを囲み会議は進行していた。

「坊主、しかしその作戦はちょっと賭博が過ぎるんじゃねえのか?」

《アタイは悪くないと思うけどね。》

<…戦術の基本は押さえてる…>

皆、昼間に起きた惨事を引きずりながらも、知恵を出し合う。
時間との勝負なのだ。
必ずナディアたちを乗せた馬車は領都ホストラへと向かう。
もし時間が掛かってしまい、村人の誰かがホストラへのどこかに連れて行かれた場合、奪還或いは救助の難易度は跳ね上がる。ほぼ不可能と言っていい。
だからこそアキは作戦の立案、実行にあたり皆を焚き付けた。

「現時点で城壁内の不明な点が多いのでしょうがないと思います。ですから、状況に応じて俺が対処していきます。ですが、皆さんにやっていただくことは変わらないと思います。」

「ガキ!もし失敗したら…」

「その時は諦めてください。もう他に手はないです。」

パダイやワポルはどうしても不安になってしまう。10歳の子供に全てを託すということと、あまりにも自分たちが何もできないということに。

「俺は馬車が城壁の中に入るタイミングに近い時間帯に入場しなければなりません。コウさん!急いで俺の出発時刻の計算を!」

「ああ。任せてくれ」

村の中で唯一、領都に何度も足を運び交易をしてきたコウである。重い荷物を伴っての移動に関しては村で彼以上に詳しい者はいない。

「パザンさん、パダイの様子は?」

パダイは以前アキに作ってほしいものがあると言われて図面を引いていたのだ。しかし、緊急性がないため後回しになっていた物があるのだ。

「今、一生懸命作ってるよ!任せてやれ!!」

パダイもことの重要さは理解していた。鍛冶屋からは金槌の音が聞こえてくる。会議を始めてから休憩を取っていないのはアキらだけではないのだ。

「タロアさん、志願者の方は?」

「ああ、それは問題がないよ。ちょっと抵抗はあるみたいだけどね。今体を慣らしているところだ。ボクが責任を持って率いるよ。」

「よろしくお願いします。」

作戦の重要な点を確認し終えたアキは皆に一言告げると、薬屋に入る。
まだイズモはリリから離れようとはしていなかったが、そろそろリリを送ってあげなければならない。
アキはイズモを見るとどうやら泣き疲れて寝ているようだった。

クゥ~ン

ヒュウガがアキにすり寄ってくる。

「あぁ、そうだな、俺もどうしたらいいのかわかんないよ。」

アキの呟きが店に虚しく広がるのだった。




カチャン。カチャン。

ビン同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。いつも作業を見学していると聞こえてくる普段の音。おばあちゃんの音。

「おばあちゃん!!」

イズモが音に反応して飛び起きる。
しかしイズモのおばあちゃんはイズモの目の前で醒めない眠りに就いたままだった。

ぐすっ

散々泣きはらしたであろう真っ赤な目にまた涙が浮かぶ。
薬品ビンを整理していたアキも飛び起きたイズモに驚きながらも、ゆっくりイズモに近づいて行く。
イズモの目からまた涙がこぼれ始める。
こんなちいさな体のどこにこんな沢山の涙があるんだと思わせる程にイズモの下の床は涙で変色していた。

ビンを置き、イズモをそっと抱きしめるアキ。

「にいに、おばあちゃん。ぐすっ。ホントに。ずずっ、ほんどに、じんぢゃっだのぉ?」

鼻水に嗚咽が混じりながらイズモが絞り出す。
イズモはもう7歳である。ある程度の分別はつく。だからこそ、この平和だった村に突然やってきた死神に耐え切らないのであろう。

「ああ。そうだね。」

掛ける言葉が見付からない。この純粋な子に何と言えば救ってあげられるのか。アキはそればかり考える。

「イズモが、わ゛るいごだから?」

「それは違う!!」

助けてくれ。そう叫びたいアキだが、叫んだところでどうしようもないのはアキ自身が一番わかっていた。

<…アキ、手紙読んであげて…>

ディラはアキに助言を与える。

「イズモ、ちょっと待ってて。」

アキは床下から手紙を出す。

「おばあちゃんからの手紙だ。」

アキはイズモへのメッセージを読み上げる。イズモの嗚咽が激しさを増す。

「まだ、おばあ゛ぢゃんにあえ゛る?」

「ああ、もちろんだ。」

「ぼんどに?」

「おばあちゃんと兄ちゃんが嘘ついたことあるか?」

「な゛い!!」

「じゃあまた会えるよ。」

「じゃあイズモ゛なぐのや゛める。うっうっうわ~~~~~~~~~~~ん」

アキはまたイズモを抱え、頭を撫で続ける。

(ありがとう。ばあちゃん。)

イズモが落ち着いてきたところで誰かが店の扉をノックする。
アキがどうぞと言うと入ってきたのはコウであった。

「アキ。時間わかったぞ。明日の朝だ。」

「分かりました。任せてください。」

「ああ、頼むぞ。」

コウはゆっくり扉を閉めるとそう言い残していく。



「イズモ、おばあちゃんを送ってあげよう。」

イズモは狩人としてはまだ初心者だが、基本は全てナディアから習っている。
このままリリを寝かせたままではいけないことは理解していた。

「う゛ん。」

アキがリリを抱きかかえる。
店の前に精霊土魔法を使い開けて置いた穴にリリを寝かせてあげる。

「イズモ、お花を入れてあげよう。」

村の皆が持ち寄ってくれたであろう野花が玄関の隣に供えられていた。
アキとイズモ、そしてどこからか村の皆が集まりリリの周りを花でいっぱいにする。

アキは魔力を練る。周辺に火が存在していなければ精霊火魔法は使えない。
アキの体内に巡る魔力を火に変換させなければならない。
リリに精一杯の感謝を告げ、アキは魔法を放った。




夜を迎える。皆それぞれにやるべきことがあったが、アキには今夜中に終わらせておかなければならないことがある。

アキも薬屋の整理を続ける。
リリの残してくれたものを途絶えさせるわけにはいかない。
その一心だった。
イズモが店の片隅でリリの骨壺を抱いて寝ている。
その横で、大きなイビキをかきながらバサラも睡眠を取っていた。

今日の月は満月だ。ひと際大きい月が放つ光が雲ひとつない空からラウ村に差し込んでいた。
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