AIエンジニアが1300年前の日本に転移して、日本書紀をアップデートしちゃいました

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第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め

​第十六話:対馬の宴と、新たなギルドメンバー

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​ 対馬の空に、1300年ぶりとなる「本物の朝日」が昇った。
 『天箱(アマノハコ)』は対馬の港に接岸し、船から降りた瑞澪の民と、ループから解放された対馬の民が、互いの生存を確かめ合うように抱き合っている。

​「……おい、亮! いつまで寝てやがる、このモヤシ野郎!」

​ 亮の耳元で、爆音のような怒鳴り声が響いた。
 目を開けると、そこには煤(すす)だらけの顔をした徳蔵が、亮の胸ぐらを掴んでいた。

​「……徳蔵さん……。うるさいなぁ、まだ脳がオーバーヒートしてるんだよ……」

​「知るか! お前が勝手に島のエネルギーを船に繋いだおかげで、俺の炉が火を吹きやがった! おかげで、最高の鋼(はがね)が打てちまったじゃねえか、この変態野郎!」

​ 徳蔵はそう言いながら、亮の膝の上に、一本の漆黒の小刀を放り出した。
 それは対馬のバグエネルギーを吸収し、亮の「冷却コード」で鍛え上げられた、対バグ用暗殺刀だった。

​「……。へぇ、いい仕事するじゃない。……。これなら不比等の雑魚兵くらい、紙みたいに切れるよ」

​ 背後から、皮肉めいた、だがどこか楽しげな声が聞こえた。サクだ。
 彼女は、天箱から支給された「保存食のチョコバー」を幸せそうに頬張りながら、亮を見下ろしている。

​「あ、サク。お父さんは?」

​「あぁ、あのアホ親父? 『管理を怠った罰だ』って言って、早速神社の掃除を始めてるわよ。……。それより亮、私に言いたいことがあるんじゃないの?」

​「……。何が?」

​「『仲間になってください、サク様』……でしょ? この島が直っても、不比等がのさばってたらまた同じことの繰り返し。……。あんたみたいな危なっかしいエンジニア、私が横で射掛けてあげないと三日も持たないわ」

​ サクはそう言うと、そっぽを向いて、真っ赤になった耳を隠すように髪を弄った。

​「……。助かるよ。サクの『弓(遠隔物理)』と俺の『コーディング(魔法)』。……。これでようやく、パーティー構成(編成)がまともになったな」

​ そこへ、一人の少女が「記録用の木簡」を抱えて走ってきた。

​「はいはい! そこまでですぅ! 亮様、イチャイチャしてる暇があったら、これにサインしてください。……。天箱の『復旧予算』が赤字でパンクしそうですぅ!」

​ 彼女は巫女見習いの凛。天箱の資材管理を一手に引き受ける、計算の鬼だ。

​「凛、今それどころじゃ……」

​「いいえ! 『どんぶり勘定はバグの元』って、亮様が教えたんでしょう? 今すぐこの『ギルド酒場兼・資材置き場』の建設プランを承認してください。そうしないと、今夜の祝宴の酒が配給制になりますよ?」

​「……。酒がねえのは困る! 亮、さっさとハンコ押しやがれ!」
 徳蔵が亮の背中を叩く。

​「……。分かったよ、承認(アプルーブ)するよ。……。凛、ついでに『訓練場』のエリアも確保しておいてくれ。サクに、ギルドの連中の射撃指導を頼みたい」

​「了解ですぅ! 効率的な育成カリキュラム、秒で組みますね!」

​ 対馬の浜辺に、急造の宴席が設けられた。
 天箱のキッチンから運び出された温かい飯と、対馬で採れたばかりの新鮮な魚。
 不比等の脅威は去ったわけではない。大和への道のりは、まだ始まったばかりだ。
 だが、この夜、亮は確信していた。

​ ただの「逃亡者」だった瑞澪の民は、今、亮を筆頭とした「専門家集団(ギルド)」へと生まれ変わりつつある。

​「……。ねぇ、亮。……。大和に行ったら、もっと強い奴らがいるのよね」
 サクが、月光に照らされた海を見つめて呟いた。

​「ああ。……。でも、俺たちの『アップデート』は止まらない。……。歴史の正解が不比等にあるって言うなら、俺たちは新しい『世界線』をここでビルドしてやるだけだ」

​ 亮は、隣で静かに酒を飲む澪(みお)と目を合わせた。
 澪は、何も言わずに盃を亮に向けた。
 その瞳には、かつての孤独ではなく、仲間と共に戦う「指揮官」としての覚悟が宿っていた。

​ 宴の喧騒の中、亮の眼鏡には、次の目的地へのルートが力強く表示されていた。



​次回予告:第十七話 「失われたソースコードと、大和への指針」
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