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第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め
第十八話:瀬戸内ハッキング航路と、海賊王のバグ
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天箱(アマノハコ)が瀬戸内海の「無限迷宮(ループ・シー)」へと踏み込んだ瞬間、世界の解像度が目に見えて落ちていった。
波の飛沫は四角いポリゴンとなって砕け、空の色は不気味な紫色のグラデーションに固定されている。
「……亮、見て! 前方の霧が……裂けていくわ!」
澪(みお)の叫びと共に、天箱の正面にある「空間」が、まるで古い布を切り裂くようにして上下に分かれた。
その裂け目から姿を現したのは、数百隻にも及ぶ「亡霊船」を引き連れた、一隻の巨大な関船(せきぶね)だった。
船体には、不比等の「黒いコード」を編み込んだ呪術的な装甲が施され、マストの頂点には、髑髏(どくろ)ではなく**「バグった瑞澪の紋章」**を掲げている。
「――ようこそ、迷える子羊ども。いや……『デバッグ・キット』の皆様方かな?」
敵旗艦の船首に立ち、悠然と酒を煽っている男がいた。
真っ赤な陣羽織を羽織り、右目にはガラス製のデバイスを嵌めた男。彼こそが、瀬戸内を恐怖で支配する海賊王――**藤原 純友(ふじわらのすみとも)**だ。
『――亮、警告! 対象の周囲の空間定数が完全に破壊されています。……純友は不比等から「空間干渉権限」を付与されており、彼の視界に入るものは全て、座標を自由に書き換えられます!』
「……空間干渉権限だと? つまり、あいつの前では『距離』なんて意味をなさないってことか!」
亮がそう叫んだ瞬間、純友が腰の長刀を、何もない空中に向かって一閃させた。
――パリンッ!!
空気がガラスのように砕け、次の瞬間、純友の刀の切っ先が、百メートル以上離れた天箱の甲板にいる「亮の喉元」に突き出していた。
「……なっ!? 空間を……ワープさせたのか!?」
「亮、危ないっ!!」
サクが反射的に矢を放つ。だが、その矢も純友の目の前で空間が歪み、逆に亮の背後から飛び出してくるという異常事態が起きた。
「がははは! 無駄だ無駄だ! この海域の座標は全て俺様の掌の上よ。……お前たちの心臓の座標を、この海の底に『書き換え』てやってもいいんだぜ?」
純友が刀を振るうたび、天箱の装甲が物理的な接触なしに切り刻まれていく。
「……くっ、MI-Z-O! あいつの干渉アルゴリズムを解析しろ! 何か規則性があるはずだ!」
『――解析中。……亮、純友は「三次元座標」を「二次元の配列」として処理しています。……彼にとってこの世界は、ただの平面図に過ぎません。……だからこそ、絵を描き変えるように距離を無視できるのです』
「……平面、だと? ……だったら、こっちの次元を一つ増やして、あいつの処理能力をパンクさせてやる!」
亮は神器(鍬)を高く掲げ、天箱のメインエンジンと直結させた。
「――徳蔵(とくぞう)さん! 船の動力、全部こっちに回せ! ……凛(りん)、在庫にある『月光藻(げっこうそう)』の粉末を、消火用の高圧ポンプで海一面に撒け!!」
「おうよ! 炉が溶けても文句言うなよ!」
「えぇー、せっかく採取したレア素材をそんな無駄遣い……でも、亮様がそう言うなら、一気にブチまけますぅ!」
天箱から大量の銀色の粉末が噴射され、周囲の海面を白銀に染め上げた。
月光藻は、バグによる「空間の歪み」を可視化する性質を持っている。純友が書き換えている「座標の継ぎ目」が、青いグリッド線となって空中に浮かび上がった。
「……見えたぞ。あいつが空間を斬る瞬間の『パケット』の通り道だ!」
亮は神器をキーボードを叩くように激しく振り、空中に浮かび上がった青いグリッドに、直接「ゴミデータ(ジャンク・パケット)」を流し込み始めた。
「……何をしている、小僧!?」
純友の顔から余裕が消える。彼が刀を振るおうとしても、座標がノイズで汚染され、思うように空間が裂けないのだ。
「――多重レイヤー展開、開始!! ……純友、お前の処理が追いつかないほどの『嘘の座標』で、この海を埋め尽くしてやる!」
海面に映る天箱の影が、十個、百個、千個へと増殖していく。
それは単なる幻影ではない。亮が座標データを一時的に複製した「ダミー・オブジェクト」だ。
「……どれだ! どれが本物だぁぁぁ!!」
純友が狂ったように刀を振り回すが、斬り裂くのは全てダミーばかり。
「――今だ、サク!! 座標(ターゲット)、固定完了だ!」
「……待ってました! ……不比等の犬に、対馬の風を喰らわせてあげるわ!!」
サクが放った特大の「追尾パッチ付き」の矢が、座標の乱れを突っ切って、純友の胸元へと一直線に突き刺さった。
――ドォォォォォォォォォンッ!!
純友の旗艦から、膨大なエラーログと共に黒い煙が噴き出す。空間の支配が解け、霧が晴れていく。
「……お、俺様の……俺様の完璧な海が……! ぐ、あああああ……!」
崩れ落ちる純友。だが、彼は消滅する直前、不敵な笑みを亮に向けた。
「……ひ、ひひ。……亮よ。……俺を倒したくらいで、勝ったつもりか? ……この瀬戸内には、俺以上に『バグ』に魅入られた、化け物がまだ五人いる……。……そいつらを全員倒さなきゃ、大和への門(ゲート)は開かねえぞ……!」
純友の身体がバイナリの粒子となって消えた後、海には一冊の「黒い航海日誌」が浮いていた。
戦いが終わり、静寂が戻った甲板。
亮は、拾い上げた日誌を広げ、絶句した。
「……これ、は……」
日誌には、瀬戸内海の各地に隠された、大和へ続く「封印されたノード」の座標と、そこに潜む不比等の配下たちの情報が、事細かに記されていた。
「……。やっぱり、一筋縄じゃいかないな。……。瀬戸内の『六大海賊』を全員デバッグしないと、大和へは辿り着けない仕組みになってやがる」
「……。ふふ。……。面白くなってきたじゃない。……。まずは一番近い、あの『鳴門の渦潮』の中に隠された祠から、攻略していく?」
澪が、亮の隣で凛とした瞳で海を見つめた。
海賊王の一人を倒し、亮たちはついに「大和への攻略本(日誌)」を手に入れた。
しかし、それは同時に、これまで以上に過酷な「寄り道」と「修行」の始まりを意味していた。
次回予告:第十九話「鳴門の渦潮と、回転する呪術コード」
純友の日誌に記された第一の試練。そこには、あらゆるデータを吸い込み消去する、巨大な「ごみ箱(ブラックホール)」と化した鳴門の渦潮が待っていた。亮は天箱に「対・重力装甲」を施すべく、新たな素材を求めて未知の島へ……!
波の飛沫は四角いポリゴンとなって砕け、空の色は不気味な紫色のグラデーションに固定されている。
「……亮、見て! 前方の霧が……裂けていくわ!」
澪(みお)の叫びと共に、天箱の正面にある「空間」が、まるで古い布を切り裂くようにして上下に分かれた。
その裂け目から姿を現したのは、数百隻にも及ぶ「亡霊船」を引き連れた、一隻の巨大な関船(せきぶね)だった。
船体には、不比等の「黒いコード」を編み込んだ呪術的な装甲が施され、マストの頂点には、髑髏(どくろ)ではなく**「バグった瑞澪の紋章」**を掲げている。
「――ようこそ、迷える子羊ども。いや……『デバッグ・キット』の皆様方かな?」
敵旗艦の船首に立ち、悠然と酒を煽っている男がいた。
真っ赤な陣羽織を羽織り、右目にはガラス製のデバイスを嵌めた男。彼こそが、瀬戸内を恐怖で支配する海賊王――**藤原 純友(ふじわらのすみとも)**だ。
『――亮、警告! 対象の周囲の空間定数が完全に破壊されています。……純友は不比等から「空間干渉権限」を付与されており、彼の視界に入るものは全て、座標を自由に書き換えられます!』
「……空間干渉権限だと? つまり、あいつの前では『距離』なんて意味をなさないってことか!」
亮がそう叫んだ瞬間、純友が腰の長刀を、何もない空中に向かって一閃させた。
――パリンッ!!
空気がガラスのように砕け、次の瞬間、純友の刀の切っ先が、百メートル以上離れた天箱の甲板にいる「亮の喉元」に突き出していた。
「……なっ!? 空間を……ワープさせたのか!?」
「亮、危ないっ!!」
サクが反射的に矢を放つ。だが、その矢も純友の目の前で空間が歪み、逆に亮の背後から飛び出してくるという異常事態が起きた。
「がははは! 無駄だ無駄だ! この海域の座標は全て俺様の掌の上よ。……お前たちの心臓の座標を、この海の底に『書き換え』てやってもいいんだぜ?」
純友が刀を振るうたび、天箱の装甲が物理的な接触なしに切り刻まれていく。
「……くっ、MI-Z-O! あいつの干渉アルゴリズムを解析しろ! 何か規則性があるはずだ!」
『――解析中。……亮、純友は「三次元座標」を「二次元の配列」として処理しています。……彼にとってこの世界は、ただの平面図に過ぎません。……だからこそ、絵を描き変えるように距離を無視できるのです』
「……平面、だと? ……だったら、こっちの次元を一つ増やして、あいつの処理能力をパンクさせてやる!」
亮は神器(鍬)を高く掲げ、天箱のメインエンジンと直結させた。
「――徳蔵(とくぞう)さん! 船の動力、全部こっちに回せ! ……凛(りん)、在庫にある『月光藻(げっこうそう)』の粉末を、消火用の高圧ポンプで海一面に撒け!!」
「おうよ! 炉が溶けても文句言うなよ!」
「えぇー、せっかく採取したレア素材をそんな無駄遣い……でも、亮様がそう言うなら、一気にブチまけますぅ!」
天箱から大量の銀色の粉末が噴射され、周囲の海面を白銀に染め上げた。
月光藻は、バグによる「空間の歪み」を可視化する性質を持っている。純友が書き換えている「座標の継ぎ目」が、青いグリッド線となって空中に浮かび上がった。
「……見えたぞ。あいつが空間を斬る瞬間の『パケット』の通り道だ!」
亮は神器をキーボードを叩くように激しく振り、空中に浮かび上がった青いグリッドに、直接「ゴミデータ(ジャンク・パケット)」を流し込み始めた。
「……何をしている、小僧!?」
純友の顔から余裕が消える。彼が刀を振るおうとしても、座標がノイズで汚染され、思うように空間が裂けないのだ。
「――多重レイヤー展開、開始!! ……純友、お前の処理が追いつかないほどの『嘘の座標』で、この海を埋め尽くしてやる!」
海面に映る天箱の影が、十個、百個、千個へと増殖していく。
それは単なる幻影ではない。亮が座標データを一時的に複製した「ダミー・オブジェクト」だ。
「……どれだ! どれが本物だぁぁぁ!!」
純友が狂ったように刀を振り回すが、斬り裂くのは全てダミーばかり。
「――今だ、サク!! 座標(ターゲット)、固定完了だ!」
「……待ってました! ……不比等の犬に、対馬の風を喰らわせてあげるわ!!」
サクが放った特大の「追尾パッチ付き」の矢が、座標の乱れを突っ切って、純友の胸元へと一直線に突き刺さった。
――ドォォォォォォォォォンッ!!
純友の旗艦から、膨大なエラーログと共に黒い煙が噴き出す。空間の支配が解け、霧が晴れていく。
「……お、俺様の……俺様の完璧な海が……! ぐ、あああああ……!」
崩れ落ちる純友。だが、彼は消滅する直前、不敵な笑みを亮に向けた。
「……ひ、ひひ。……亮よ。……俺を倒したくらいで、勝ったつもりか? ……この瀬戸内には、俺以上に『バグ』に魅入られた、化け物がまだ五人いる……。……そいつらを全員倒さなきゃ、大和への門(ゲート)は開かねえぞ……!」
純友の身体がバイナリの粒子となって消えた後、海には一冊の「黒い航海日誌」が浮いていた。
戦いが終わり、静寂が戻った甲板。
亮は、拾い上げた日誌を広げ、絶句した。
「……これ、は……」
日誌には、瀬戸内海の各地に隠された、大和へ続く「封印されたノード」の座標と、そこに潜む不比等の配下たちの情報が、事細かに記されていた。
「……。やっぱり、一筋縄じゃいかないな。……。瀬戸内の『六大海賊』を全員デバッグしないと、大和へは辿り着けない仕組みになってやがる」
「……。ふふ。……。面白くなってきたじゃない。……。まずは一番近い、あの『鳴門の渦潮』の中に隠された祠から、攻略していく?」
澪が、亮の隣で凛とした瞳で海を見つめた。
海賊王の一人を倒し、亮たちはついに「大和への攻略本(日誌)」を手に入れた。
しかし、それは同時に、これまで以上に過酷な「寄り道」と「修行」の始まりを意味していた。
次回予告:第十九話「鳴門の渦潮と、回転する呪術コード」
純友の日誌に記された第一の試練。そこには、あらゆるデータを吸い込み消去する、巨大な「ごみ箱(ブラックホール)」と化した鳴門の渦潮が待っていた。亮は天箱に「対・重力装甲」を施すべく、新たな素材を求めて未知の島へ……!
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