AIエンジニアが1300年前の日本に転移して、日本書紀をアップデートしちゃいました

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第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め

​第二十二話:造船の島と、徳蔵の過去

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​ 阿波の「偽装パッチ」を剥がし、ようやく人間らしい呼吸を取り戻した島を後にした天箱(アマノハコ)は、瀬戸内海の心臓部とも言える「大三島(おおみしま)」の港へと入港した。
 ここは古くから、瀬戸内を往来する船の守護神を祀る大山祇(おおやまづみ)神社の膝元であり、日の本一の造船技術を誇る島だ。

​ だが、港に降り立った亮たちの目に飛び込んできたのは、活気ある職人の街ではなく、重苦しい静寂と、あちこちで火花を散らす「工作機械のバグ」だった。

​「……。なんだありゃ。……。職人の街が、まるでガラクタ置き場じゃねえか」

​ 徳蔵(とくぞう)が、愛用の槌を握りしめ、苦々しい表情で周囲を睨みつけた。
 道端では、自動で木材を削るはずの「神代式旋盤」が制御不能になり、虚空を虚しく削り続けている。住人たちは家の中に閉じこもり、怯えたように窓から亮たちを伺っていた。

​「……。まずは情報収集だ。……。徳蔵さん、あんたの馴染みの店があるんだろ?」

​「……。ああ。……。あそこの角を曲がったところにある酒場『鉄錆(てつさび)亭』だ。……。生きてりゃいいがな」

​ 酒場の扉を開けると、ツンとしたオイルの匂いと、安酒の香りが混ざり合った独特の空気が漂っていた。
 カウンターの奥で力なくグラスを拭いていた老主人が、徳蔵の顔を見るなり、驚きでグラスを落とした。

​「……。と、徳蔵……! 瑞澪(みずみお)が滅んだ時、死んだとばかり思っていたぞ!」

​「……。へっ、地獄の閻魔様が俺の槌を怖がってよ、追い返されちまったんだ。……。それよりマスター、この街はどうなっちまったんだ。……。不比等の野郎が何かしたのか?」

​ 徳蔵がカウンターにドカッと座ると、亮、サク、澪、そしてメモ帳を構えた凛もそれに続いた。
 老主人は周囲を警戒するように見回してから、声を潜めて語り始めた。

​「……。徳蔵、お前の弟子だった『重吉(じゅうきち)』を覚えているか?」

​ その名が出た瞬間、徳蔵の眉間がピクリと跳ねた。

​「……。重吉だと? ……。あいつは筋は良かったが、効率ばかりを求めて、道具の『魂』を軽んじる節があった……」

​「……。あいつが、不比等に魂を売ったんだ。……。不比等から『高速演算造船コード』を与えられた重吉は、この島の神職権限を奪い取り、すべての職人を自分の支配下に置いた。……。今じゃ、島の神社にある『御神木のデータ』を勝手に書き換えて、不比等のための『暗黒戦艦』を作らされているんだ」

​ 老主人は震える手で、窓の外、島の頂上にそびえる神社を指さした。

​「……。それだけじゃない。……。重吉の作った『自動造船システム』が暴走して、街の生活機器をハッキングし始めたんだ。……。おかげで井戸のポンプは止まり、街灯は夜中に爆発する。……。みんな、今日明日をどう生きるかで精一杯だ」

​ 亮の眼鏡に、周囲の住人たちの「悩み」が、小さなクエスト・マーカーとなって無数に浮かび上がった。

​・【緊急クエスト:井戸の制御回路の復旧】
​・【サイドクエスト:暴走した自動薪割り機の停止】
​・【依頼:病床の子供に届けるための、電子冷蔵庫の修理】

​「……。亮。……。大和へ急ぐのはわかるが、このままじゃ……」
 澪が、不安げに亮の顔を覗き込んだ。

​「……。分かってる。……。不比等の息がかかった敵を倒す前に、まずはこの街の『バグ』を掃除する。……。それが、俺たちギルドのやり方だ」

​「……。へっ。……。お前がそう言うなら、付き合ってやるぜ。……。重吉のケツを叩く前に、まずはこの街を元通りにしなきゃ、酒が不味くてかなわねえからな」

​ それからの三日間、亮たちは島を奔走した。

​ 亮は神器(鍬)を使い、街中の制御回路に潜り込んだ「寄生プログラム」を次々と駆除。
 サクは、高い機動力を活かして、暴走して森へ逃げ込んだ「自動工作機」を、一本の矢で急所(リセットスイッチ)を射抜いて捕獲した。
 凛は、混乱した物資の流通を自慢の算術で整理し、食料が平等に住人へ届くよう「最適化(ロジック)」を組んだ。
 そして徳蔵は、壊れた道具を片っ端から叩き直し、職人たちに「道具の扱い方」を再び叩き込んだ。

​「……。お兄ちゃん、ありがとう! お水、いっぱい出るようになったよ!」
 井戸のポンプを直した亮に、小さな女の子が綺麗な花を差し出した。

​「……。ああ。……。もう大丈夫だ。……。これからは、自分たちでメンテナンスできるように、簡単なマニュアル(教本)を置いていくからな」

​『――亮、街の「信頼度(レピュテーション)」が最大値に達しました。……。隠し報酬の開放を確認。……。住人の一人が、重吉の工場の裏口を抜けるための「マスターキー」を所持しています』

​ 街を救った見返りは、単なる感謝だけではなかった。
 酒場のマスターが、店の奥から一本の古びた、だが強力なエネルギーを秘めた「レンチ」を持ってきたのだ。

​「……。これは、徳蔵が昔ここに忘れていったもんだ。……。不比等のコードに対抗できる、数少ない『物理デバッグ・ツール』だ。……。これで、あの馬鹿弟子を正気に戻してやってくれ」

​「……。マスター、恩に着るぜ」

​ 徳蔵はそのレンチを腰に差し、静かに立ち上がった。
 街は、亮たちの尽力によって活気を取り戻しつつある。だが、山の上の神社――重吉が支配する造船工場からは、今も不気味な黒い煙が立ち昇り、空間を汚染し続けていた。

​「……。亮、行くぞ。……。弟子に『職人の意地』ってやつを、分からせてやらなきゃならねえ」

​「……。ああ。……。徳蔵さんの槌(物理)と、俺のコード。……。どっちが強いか、不比等のシステムに見せつけてやりましょう」

​ 天箱の仲間たちは、街の人々の歓声に見送られながら、決戦の地へと続く石段を一段ずつ踏みしめていった。
 そこには、瀬戸内最強の「造船能力」を持った、重吉の罠が待ち構えている。



​次回予告:第二十三話 「泥と汗と、小さな約束(前編)」
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