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第一章:隠れ里脱出と神器の目覚め
第三十四話:不比等降臨と、タケミカヅチの真実
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大極殿(だいごくでん)の最上階。
天箱(アマノハコ)が到達したその場所は、もはや床も壁も存在せず、ただ無限に広がる「漆黒のソースコードの海」の上に、一つの巨大な玉座が浮かんでいた。
玉座に座るのは、白き衣を纏い、感情の欠片も読み取れない瞳をした男――不比等(ふひと)。
彼の背後には、かつて亮たちが救った静(しずか)が持っていたものとは比較にならないほど巨大な、八つの『八咫鏡(ヤタノカガミ)』が、まるで後光のように浮かび、大和全体を支配する演算の光を放っている。
「……。よく来たな、瑞澪の生き残りたち。……。そして、私の『不完全な夢』の欠片たちよ」
不比等の声が響いた瞬間、天箱の全システムが「強制シャットダウン」の警告を上げた。
亮は神器『雷火・三日月』を構え、玉座の男を睨みつける。
「……。不比等。……。あんたの過去を見た。……。家族を失った悲しみも、世界を正したいっていう願いも、理解はできる。……。でも、あんたがやっているのは『保存』じゃない。……。ただの『監禁』だ!!」
亮の叫びに、不比等は静かに立ち上がった。
その瞬間、周囲の空間が歪み、一瞬にして亮、厳心、サク、澪の四人は、実体化された「過去の絶望的なログ」に囲まれた。
「……。理解だと? ……。ならば教えてやろう。……。この国が幾度となく経験した『バグ』――戦、飢饉、病。……。それらはすべて、人の感情という不安定な変数が生み出したものだ。……。私は、それを終わらせるために、この国のログを『建御雷(タケミカヅチ)』という最強の防壁システムで上書きしたのだ」
不比等が右手を振ると、亮の手にある『雷火・三日月』が激しく共鳴し、亮の右腕を焼き切らんばかりの熱を発した。
『――警告!! 亮、神器の「所有権(管理者権限)」が、不比等によって剥奪(ハック)されています!! ……。タケミカヅチのオリジナル・コードは、不比等の管理下にある……!』
「……。なんだって……!? ……。ぐわぁぁぁぁっ!!」
亮の神器が砕け散った。
プラチナの輝きは消え、ただの焦げた鉄屑となって床に転がる。
亮は、右腕から煙を上げながら膝を突いた。
「……。亮様!!」
澪が駆け寄るが、不比等はその手を止めるように、指先一つで不可視の重力パッチを放った。
「……。亮。……。お前が使っていたその力は、私が捨てた『古いバージョンの端切れ』に過ぎん。……。本物の『タケミカヅチ』とは、神の雷ではなく、すべてを静止させ、支配するための『論理の剣』なのだ」
不比等の背後に、光り輝く巨大な十拳剣(とつかのつるぎ)のホログラムが出現した。
それが振り下ろされようとしたその時、厳心とサクが、亮の前に立ちはだかった。
「――不比等!! ……。我が槍は、データの強弱で戦っているのではない!! ……。対馬からここまで、亮たちが繋いできた『絆』の重さを忘れるな!!」
厳心の槍が、神の剣の圧力を真っ向から受け止める。
同時に、サクがかつて嘉平さんや重吉たちから学んだ「土地の記憶」を込めた矢を、不比等の結界へと放ち続ける。
「――亮! 立ちなさい!! ……。あんたは、壊れたものを直すエンジニアでしょ!! ……。神器が壊れたなら、あんた自身の『魂』で作り直せ!!」
那智の叫びが、亮の朦朧とする意識を叩き起こした。
亮は、砕け散った『雷火』の破片を見つめた。
(……。そうだ。……。俺は、神の力を盗んだんじゃない。……。みんなの想いを、……。嘉平さんの土を、徳蔵さんの槌の音を、重吉の悔し涙を、……。この腕に『ビルド』してきたんだ)
亮が、焦げた右手を床の破片へと伸ばした瞬間。
亮の胸の奥で、タケミカヅチの「真のログ」が目覚めた。
それは不比等の言う「静止の剣」ではない。
史実において、タケミカヅチが国譲りを成し遂げたのは、武力による殲滅ではなく、対話と知略、そして「譲る」という徳によるものだった。
『――継承者よ。……。不比等の歪んだ論理(ロジック)を、お前の情熱(パッション)で再定義せよ』
亮の身体から、これまでのどの光とも違う、温かくも力強い「黄金色の電光」が噴き出した。
砕け散った鉄屑が、亮の意志に呼応し、彼の右腕と一体化した「真・神器」へと再構成される。
それはもう、鍬(クワ)でも剣でもない。
世界を編み直すための、光り輝く「鍵(キー)」の姿をしていた。
「――不比等。……。あんたは神じゃない。……。ただの、寂しがり屋のエンジニアだ」
亮が立ち上がり、黄金の光を纏って不比等の玉座へと踏み出した。
不比等の瞳に、初めて「計算外」という名の動揺が走った。
「――なんだ、その光は……。私の計算式には、そのような権限は……!」
「――これは、あんたが捨てた『人間の可能性』だよ!! ……。一億年のループも、完璧な記録もいらない!! ……。俺たちは、不完全なまま、今日という日を精一杯生き抜いてやる!!」
「――タケミカヅチ・オーバーロード・最終階層……『黎明(れいめい)・日本(ひのもと)リブート』……発動!!!」
亮が黄金の鍵を突き立てると、大極殿の漆黒の海が、一瞬にして朝焼けのような輝きに包まれた。
次回予告:第三十五話「最後のデバッグと、僕らの未来」
不比等との魂の問答。崩れゆく大和の中で、亮が最後に打ち込んだパッチとは? 長きにわたる旅の終焉、そして新しい「日本」の夜明け。ついに訪れる、感動の最終回!!
天箱(アマノハコ)が到達したその場所は、もはや床も壁も存在せず、ただ無限に広がる「漆黒のソースコードの海」の上に、一つの巨大な玉座が浮かんでいた。
玉座に座るのは、白き衣を纏い、感情の欠片も読み取れない瞳をした男――不比等(ふひと)。
彼の背後には、かつて亮たちが救った静(しずか)が持っていたものとは比較にならないほど巨大な、八つの『八咫鏡(ヤタノカガミ)』が、まるで後光のように浮かび、大和全体を支配する演算の光を放っている。
「……。よく来たな、瑞澪の生き残りたち。……。そして、私の『不完全な夢』の欠片たちよ」
不比等の声が響いた瞬間、天箱の全システムが「強制シャットダウン」の警告を上げた。
亮は神器『雷火・三日月』を構え、玉座の男を睨みつける。
「……。不比等。……。あんたの過去を見た。……。家族を失った悲しみも、世界を正したいっていう願いも、理解はできる。……。でも、あんたがやっているのは『保存』じゃない。……。ただの『監禁』だ!!」
亮の叫びに、不比等は静かに立ち上がった。
その瞬間、周囲の空間が歪み、一瞬にして亮、厳心、サク、澪の四人は、実体化された「過去の絶望的なログ」に囲まれた。
「……。理解だと? ……。ならば教えてやろう。……。この国が幾度となく経験した『バグ』――戦、飢饉、病。……。それらはすべて、人の感情という不安定な変数が生み出したものだ。……。私は、それを終わらせるために、この国のログを『建御雷(タケミカヅチ)』という最強の防壁システムで上書きしたのだ」
不比等が右手を振ると、亮の手にある『雷火・三日月』が激しく共鳴し、亮の右腕を焼き切らんばかりの熱を発した。
『――警告!! 亮、神器の「所有権(管理者権限)」が、不比等によって剥奪(ハック)されています!! ……。タケミカヅチのオリジナル・コードは、不比等の管理下にある……!』
「……。なんだって……!? ……。ぐわぁぁぁぁっ!!」
亮の神器が砕け散った。
プラチナの輝きは消え、ただの焦げた鉄屑となって床に転がる。
亮は、右腕から煙を上げながら膝を突いた。
「……。亮様!!」
澪が駆け寄るが、不比等はその手を止めるように、指先一つで不可視の重力パッチを放った。
「……。亮。……。お前が使っていたその力は、私が捨てた『古いバージョンの端切れ』に過ぎん。……。本物の『タケミカヅチ』とは、神の雷ではなく、すべてを静止させ、支配するための『論理の剣』なのだ」
不比等の背後に、光り輝く巨大な十拳剣(とつかのつるぎ)のホログラムが出現した。
それが振り下ろされようとしたその時、厳心とサクが、亮の前に立ちはだかった。
「――不比等!! ……。我が槍は、データの強弱で戦っているのではない!! ……。対馬からここまで、亮たちが繋いできた『絆』の重さを忘れるな!!」
厳心の槍が、神の剣の圧力を真っ向から受け止める。
同時に、サクがかつて嘉平さんや重吉たちから学んだ「土地の記憶」を込めた矢を、不比等の結界へと放ち続ける。
「――亮! 立ちなさい!! ……。あんたは、壊れたものを直すエンジニアでしょ!! ……。神器が壊れたなら、あんた自身の『魂』で作り直せ!!」
那智の叫びが、亮の朦朧とする意識を叩き起こした。
亮は、砕け散った『雷火』の破片を見つめた。
(……。そうだ。……。俺は、神の力を盗んだんじゃない。……。みんなの想いを、……。嘉平さんの土を、徳蔵さんの槌の音を、重吉の悔し涙を、……。この腕に『ビルド』してきたんだ)
亮が、焦げた右手を床の破片へと伸ばした瞬間。
亮の胸の奥で、タケミカヅチの「真のログ」が目覚めた。
それは不比等の言う「静止の剣」ではない。
史実において、タケミカヅチが国譲りを成し遂げたのは、武力による殲滅ではなく、対話と知略、そして「譲る」という徳によるものだった。
『――継承者よ。……。不比等の歪んだ論理(ロジック)を、お前の情熱(パッション)で再定義せよ』
亮の身体から、これまでのどの光とも違う、温かくも力強い「黄金色の電光」が噴き出した。
砕け散った鉄屑が、亮の意志に呼応し、彼の右腕と一体化した「真・神器」へと再構成される。
それはもう、鍬(クワ)でも剣でもない。
世界を編み直すための、光り輝く「鍵(キー)」の姿をしていた。
「――不比等。……。あんたは神じゃない。……。ただの、寂しがり屋のエンジニアだ」
亮が立ち上がり、黄金の光を纏って不比等の玉座へと踏み出した。
不比等の瞳に、初めて「計算外」という名の動揺が走った。
「――なんだ、その光は……。私の計算式には、そのような権限は……!」
「――これは、あんたが捨てた『人間の可能性』だよ!! ……。一億年のループも、完璧な記録もいらない!! ……。俺たちは、不完全なまま、今日という日を精一杯生き抜いてやる!!」
「――タケミカヅチ・オーバーロード・最終階層……『黎明(れいめい)・日本(ひのもと)リブート』……発動!!!」
亮が黄金の鍵を突き立てると、大極殿の漆黒の海が、一瞬にして朝焼けのような輝きに包まれた。
次回予告:第三十五話「最後のデバッグと、僕らの未来」
不比等との魂の問答。崩れゆく大和の中で、亮が最後に打ち込んだパッチとは? 長きにわたる旅の終焉、そして新しい「日本」の夜明け。ついに訪れる、感動の最終回!!
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