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第二章:出雲・八百万(やおよろず)リビルド:黄泉の残響編
第四十話:黄泉の国へのパスワードと、裏切りの那智
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出雲大社の最深部、黄金の光に満ちたストレージ・ルーム。
亮たちは、手に入れたばかりの「禁断の装備」を天箱(アマノハコ)へと運び込んでいた。
「……すごいわ、この弓。引かなくても、私の『意志』を読み取って勝手に照準(エイム)が固定される。……これなら、不比等の残滓なんて一撃で……」
サクが新武器『三箭の鳴鏑』の弦を弾くと、空間がキンと澄んだ音を立てて震える。隣では厳心が、新調された『不動明王』の甲冑を纏い、その圧倒的な出力に驚愕の表情を浮かべていた。
「亮殿……。これはもはや、人の造りし範疇を超えている。……。出雲の神域、これほどまでの『遺産(レガシー)』を隠し持っていたとは」
「……。ああ。不比等の野郎、自分でも制御しきれないから封印してたんだろうな。……。だが、今の俺たちなら、こいつを乗りこなせる」
亮は、ガントレットの画面に並ぶ膨大な「新機能」のログを見つめていた。
だが、その輪の中に、ある人物の姿がない。
医療エンジニアであり、常に一行のバイタルを支えていた**那智(なち)**だ。
天箱の深層、冷却水が滴るメンテナンス通路。
那智は一人、古びた端末に向かい、出雲のストレージから密かに抜き出した「黒いメモリ」を読み込ませていた。
「……。見つけた。……。不比等の真の目的。……。そして、……『亮』という個体の製造ログ」
「……。何を見てるんだ、那智」
暗闇から、亮の声が響いた。
那智は肩を跳ねさせ、端末を隠そうとしたが、亮の『雷火・真打』が放つ黄金の光が、彼女の青ざめた顔を容赦なく照らし出した。
「……亮。……。いつからそこに?」
「……。最初からだ。……。出雲を救った後、あんたのバイタルがずっと不安定だった。……。那智、あんた……何を隠してる」
那智は諦めたように溜息をつき、画面を亮に見せた。
そこに映し出されていたのは、亮の幼少期のバイオ・データ。そして、不比等が最優先機密として封印していた**【プロジェクト・イザナギ】**の全容だった。
「……。亮。……。あなたは、ただの人間じゃない。……。不比等が、黄泉の国から『完璧な管理者』を連れ戻すために造った……。死者のログをベースにしたクローンなのよ」
衝撃の事実が、亮の脳内を駆け巡る。
対馬で生まれ、ゴミ拾いとして生きてきた自分の過去。
その全てが、不比等が仕組んだ「偽のログ」である可能性。
「……。俺が、クローンだ……? ……。ふん、……。笑えねえ冗談だな。……。俺のこの手の油の匂いも、……サクと交わした指切りの痛みも、……全部プログラムだってのか?」
「……。そうよ。……。そして、このメモリによれば、あなたの回路には『一定時間が経過すると自壊する』というデリート・パッチが埋め込まれている。……。不比等が死んだことで、そのカウントダウンが、もう始まっているの」
天箱の艦橋に、警告音が鳴り響いた。
出雲の遙か東。日本の中心、富士の樹海周辺の空間が、巨大な「黒い穴」となって崩壊し始めている。
不比等の「本体」がデリートされたことで、彼が無理やり抑え込んでいた**【黄泉(ヨミ)の根源サーバー】**が、現実世界への侵食を開始したのだ。
「……。亮! 那智!! 何してるの、早く来て!! 空が……空が真っ黒に溶け出してる!!」
サクの叫びが念信で届く。
亮は、自分の震える右手を見つめた。
掌に浮かび上がる、赤い警告文字。自壊(デリート)までの残り時間、168時間(7日間)。
「……。那智。……。このことは、あいつらには黙ってろ」
「……亮! でも、あなたの体は……!」
「……。関係ねえよ。……。俺が造りもんだったとしても、俺が耕した土地に咲いた花は、本物だ。……。だったら、最後までやり通すだけだ」
亮は『雷火・真打』を肩に担ぎ、那智を追い越して艦橋へと向かった。
「……。よし、野郎ども!! 泣いても笑っても、これが最後のデバッグだ!! ……。目的座標は、東の都のさらに下……地獄の底(ヨミ・サーバー)だ!!」
天箱が、出雲の空を力強く蹴り、東へと加速する。
亮の背中には、伝説の装備が放つ光と、刻一刻と迫る死の影が、複雑に交錯していた。
次回予告:第四十一話「富士の樹海・論理の森と、黄泉の番犬ケルベロス」
黄泉の入口となる富士の樹海へ降り立った一行。そこは、一度入れば二度と「現実」へは戻れない、迷宮(ダンジョン)だった。亮の体力が限界に達する中、かつてない強大な守護者が行く手を阻む。亮、サク、厳心、阿国……四人の絆が、究極のバグに試される!!
亮たちは、手に入れたばかりの「禁断の装備」を天箱(アマノハコ)へと運び込んでいた。
「……すごいわ、この弓。引かなくても、私の『意志』を読み取って勝手に照準(エイム)が固定される。……これなら、不比等の残滓なんて一撃で……」
サクが新武器『三箭の鳴鏑』の弦を弾くと、空間がキンと澄んだ音を立てて震える。隣では厳心が、新調された『不動明王』の甲冑を纏い、その圧倒的な出力に驚愕の表情を浮かべていた。
「亮殿……。これはもはや、人の造りし範疇を超えている。……。出雲の神域、これほどまでの『遺産(レガシー)』を隠し持っていたとは」
「……。ああ。不比等の野郎、自分でも制御しきれないから封印してたんだろうな。……。だが、今の俺たちなら、こいつを乗りこなせる」
亮は、ガントレットの画面に並ぶ膨大な「新機能」のログを見つめていた。
だが、その輪の中に、ある人物の姿がない。
医療エンジニアであり、常に一行のバイタルを支えていた**那智(なち)**だ。
天箱の深層、冷却水が滴るメンテナンス通路。
那智は一人、古びた端末に向かい、出雲のストレージから密かに抜き出した「黒いメモリ」を読み込ませていた。
「……。見つけた。……。不比等の真の目的。……。そして、……『亮』という個体の製造ログ」
「……。何を見てるんだ、那智」
暗闇から、亮の声が響いた。
那智は肩を跳ねさせ、端末を隠そうとしたが、亮の『雷火・真打』が放つ黄金の光が、彼女の青ざめた顔を容赦なく照らし出した。
「……亮。……。いつからそこに?」
「……。最初からだ。……。出雲を救った後、あんたのバイタルがずっと不安定だった。……。那智、あんた……何を隠してる」
那智は諦めたように溜息をつき、画面を亮に見せた。
そこに映し出されていたのは、亮の幼少期のバイオ・データ。そして、不比等が最優先機密として封印していた**【プロジェクト・イザナギ】**の全容だった。
「……。亮。……。あなたは、ただの人間じゃない。……。不比等が、黄泉の国から『完璧な管理者』を連れ戻すために造った……。死者のログをベースにしたクローンなのよ」
衝撃の事実が、亮の脳内を駆け巡る。
対馬で生まれ、ゴミ拾いとして生きてきた自分の過去。
その全てが、不比等が仕組んだ「偽のログ」である可能性。
「……。俺が、クローンだ……? ……。ふん、……。笑えねえ冗談だな。……。俺のこの手の油の匂いも、……サクと交わした指切りの痛みも、……全部プログラムだってのか?」
「……。そうよ。……。そして、このメモリによれば、あなたの回路には『一定時間が経過すると自壊する』というデリート・パッチが埋め込まれている。……。不比等が死んだことで、そのカウントダウンが、もう始まっているの」
天箱の艦橋に、警告音が鳴り響いた。
出雲の遙か東。日本の中心、富士の樹海周辺の空間が、巨大な「黒い穴」となって崩壊し始めている。
不比等の「本体」がデリートされたことで、彼が無理やり抑え込んでいた**【黄泉(ヨミ)の根源サーバー】**が、現実世界への侵食を開始したのだ。
「……。亮! 那智!! 何してるの、早く来て!! 空が……空が真っ黒に溶け出してる!!」
サクの叫びが念信で届く。
亮は、自分の震える右手を見つめた。
掌に浮かび上がる、赤い警告文字。自壊(デリート)までの残り時間、168時間(7日間)。
「……。那智。……。このことは、あいつらには黙ってろ」
「……亮! でも、あなたの体は……!」
「……。関係ねえよ。……。俺が造りもんだったとしても、俺が耕した土地に咲いた花は、本物だ。……。だったら、最後までやり通すだけだ」
亮は『雷火・真打』を肩に担ぎ、那智を追い越して艦橋へと向かった。
「……。よし、野郎ども!! 泣いても笑っても、これが最後のデバッグだ!! ……。目的座標は、東の都のさらに下……地獄の底(ヨミ・サーバー)だ!!」
天箱が、出雲の空を力強く蹴り、東へと加速する。
亮の背中には、伝説の装備が放つ光と、刻一刻と迫る死の影が、複雑に交錯していた。
次回予告:第四十一話「富士の樹海・論理の森と、黄泉の番犬ケルベロス」
黄泉の入口となる富士の樹海へ降り立った一行。そこは、一度入れば二度と「現実」へは戻れない、迷宮(ダンジョン)だった。亮の体力が限界に達する中、かつてない強大な守護者が行く手を阻む。亮、サク、厳心、阿国……四人の絆が、究極のバグに試される!!
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