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第二章:出雲・八百万(やおよろず)リビルド:黄泉の残響編
第四十二話:黄泉の根源サーバーと、最古の管理者『イザナミ』
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富士の地下数万メートル。そこはもはや三次元の概念すら崩壊した、純粋な「論理の地獄」だった。
亮、サク、厳心、阿国の四人が辿り着いたのは、日本というシステムの最下層プロトコル。頭上を見上げれば、地上の景色が逆さまにレンダリングされ、そこから「不要」と判断された膨大なログが、灰のような雪となって降り注いでいる。
「……これが、この国の『ゴミ箱』の正体か」
亮の声が、反響せずに闇に吸い込まれる。
足元の床は、鏡のように滑らかな黒い結晶体でできていた。だが、その鏡面の下には、無数の人間の顔が苦悶に歪んだまま凍結されている。不比等の支配下で「非効率」として切り捨てられた、何百万人という人々の精神データだ。
「亮、見て……。壁一面に、私たちの知らない『歴史』が流れてる」
サクが指差す先、巨大なサーバーラックのような岩壁には、改竄される前の真実の記録が、ノイズまじりのホログラムとして明滅していた。
「……。不比等は、この『死者の記憶』を演算の潤滑油にしていたんだ。……。自分の理想郷(エデン)を創るために、この国の根源を腐らせ続けていた……。エンジニアとして、これ以上の冒涜はねえ」
亮の怒りに呼応するように、神器『雷火・真打』が激しく黄金の火花を散らす。だがその火花は、周囲を支配する「虚無の重圧」に圧され、すぐに消えかかってしまう。
湖の中心、そこに鎮座する【最古の管理者:イザナミ】がゆっくりと立ち上がった。
彼女の存在そのものが、この世界の「死」という名の関数だった。彼女が指を一振りするだけで、亮の視界にあるコマンドラインが次々と「ERROR: TARGET NOT FOUND」に書き換わっていく。
『――不比等の残滓を継ぎ足した、哀れな人形よ。……。お前が信じる「生の繋がり」など、この深淵の前では一瞬のバグに過ぎない』
イザナミの背後から、千本の黒い腕が伸び、それぞれが異なる「絶望のコード」を詠唱し始めた。
「――MI-Z-O!! 全防御バッファを前方に展開しろ!!」
『――亮、不可能です!! 彼女のアクセス権限は「ルート(最上位)」を超えています!! 私たちのコードが、触れるそばから「死(ヌル)」へ変換されている!!』
ドォォォォォォォォォォォォンッ!!
イザナミが放った「腐敗の波動」が一行を襲う。
厳心が咄嗟に『不動明王』の火炎翼を展開して盾となるが、その翼さえも瞬時に灰色に変色し、ボロボロと崩れ落ちた。
「……ぐ、あああああッ!! ……。なんという……なんという虚無の力だ……!!」
歴戦の猛者である厳心が膝をつく。阿国の三味線も、弦が凍りつき、音色さえも「音」としての定義を失い始めていた。
「……。まだだ。……。俺たちは、一人でここに立ってるんじゃねえ」
亮は、自らの意識を天箱(アマノハコ)を通じて、地上へと逆ダイブさせた。
今、日本各地では、亮たちが救い、共にリビルドを誓った人々が動いていた。
対馬では、サクが守った村人たちが、神社を拠点に「新しい農業プロトコル」を走らせている。
出雲では、徳蔵率いる『鉄錆団』が、ヒヒイロカネの炉に火を入れ、天箱を支えるための「希望のインフラ」を鍛え上げている。
そして各地の街角では、阿国の仲間である『舞歌衆』が、絶望を打ち消すための「生の祭(ノイズ)」を爆音で奏でていた。
「……。聞こえるか、イザナミ。……。あんたが『死』だと切り捨てた連中が、今、必死に『明日』をビルドしてる音がよ!!」
亮のガントレットに、日本全土から「応援ログ」が濁流のように流れ込んできた。
それは不比等のシステムには決して演算できなかった、不合理で、熱くて、泥臭い「人間の意志」。
「――MI-Z-O!! 各地の拠点をサーバー・ノードとして接続しろ!! 日本全土を一つの巨大な『分散コンピューティング・ネットワーク』に書き換える!!」
『――了解!! 実行キー、承認!! ……。亮、これこそが、あなたが夢見た「全員で作る街」の真の姿ですね!!』
「――サク!! あんたの弓で、地上の連中の『祈り』を束ねて、この暗闇に光の柱を立てろ!!」
「わかったわ!! ……。みんな、私に力を貸して!! 運命(コード)を……私が撃ち抜く!!」
サクの『三箭の鳴鏑』が、かつてないほど巨大な光の渦を形成した。放たれた矢は、もはや実体を持たない純粋な「希望の指向性データ」となり、イザナミの千本の腕を一本ずつ「浄化」していく。
「――阿国!! あんたのリズムで、この地獄の静寂をぶち壊せ!!」
「ハハッ!! 出番だねぇ!! 地上の『舞歌衆』全員、あたしの三味線に同期(シンクロ)しな!! これが、死神も踊り出す究極の『祭・デバッグ』だよ!!」
阿国が三味線をかき鳴らすと、黄泉の空間そのものがディスコのように極彩色にフラッシュした。イザナミが支配していた「死の周波数」が、生のエネルギーに上書きされ、崩壊していく。
「――トドメだ!! イザナミ!! ……。あんたが管理していたこの国は、今日、俺たちが『オープンソース』として解放してやる!!」
亮が、黄金に燃え盛る『雷火・真打』を両手で掲げた。
背後には、地上のすべての街、すべての職人、すべてのエンジニアたちのホログラムが出現し、一斉に鍬を振り下ろす動作をシンクロさせる。
「――神器・雷火……『八百万・開闢(かいびゃく)・フルリブート』!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
黄金の衝撃波が、黄泉の湖を真っ二つに割り、最古の管理者イザナミの存在そのものを「新たな生の設計図」の一部へと還元(コンパイル)していった。
光が収まったとき、そこにはもう地獄も女王もいなかった。
あるのは、透き通った水のように澄んだ、まっさらな「未定義の空間」。
「……。終わった。……。いや、……始まったんだな」
亮たちは、天箱の光に包まれながら、ゆっくりと地上へと帰還した。
富士の樹海の上空、朝焼けの光の中で、亮は宣言した。
「……。不比等の秩序でも、イザナミの死でもない。……。俺たちが、毎日バグを見つけ、毎日直して、毎日笑い合える……そんな街を創る。……。名前は……『ネオ・エド』。そこが、俺たちの新しいホームだ」
対馬、出雲、そして富士。
点と点が線で結ばれ、日本という名の巨大なキャンバスに、新しいOSが書き込まれようとしていた。
次回予告:第四十三話「再起動した日本と、新都市『ネオ・エド』の設計図」
黄泉の戦いから数ヶ月。亮たちは東京の廃墟を舞台に、全勢力が集結する理想の都市『ネオ・エド』の建設を開始する。だが、平和な空気に包まれる中、空に不気味な「赤い月(エラー・ムーン)」が浮かび上がる。……。まだ、バグは終わっていなかった。
亮、サク、厳心、阿国の四人が辿り着いたのは、日本というシステムの最下層プロトコル。頭上を見上げれば、地上の景色が逆さまにレンダリングされ、そこから「不要」と判断された膨大なログが、灰のような雪となって降り注いでいる。
「……これが、この国の『ゴミ箱』の正体か」
亮の声が、反響せずに闇に吸い込まれる。
足元の床は、鏡のように滑らかな黒い結晶体でできていた。だが、その鏡面の下には、無数の人間の顔が苦悶に歪んだまま凍結されている。不比等の支配下で「非効率」として切り捨てられた、何百万人という人々の精神データだ。
「亮、見て……。壁一面に、私たちの知らない『歴史』が流れてる」
サクが指差す先、巨大なサーバーラックのような岩壁には、改竄される前の真実の記録が、ノイズまじりのホログラムとして明滅していた。
「……。不比等は、この『死者の記憶』を演算の潤滑油にしていたんだ。……。自分の理想郷(エデン)を創るために、この国の根源を腐らせ続けていた……。エンジニアとして、これ以上の冒涜はねえ」
亮の怒りに呼応するように、神器『雷火・真打』が激しく黄金の火花を散らす。だがその火花は、周囲を支配する「虚無の重圧」に圧され、すぐに消えかかってしまう。
湖の中心、そこに鎮座する【最古の管理者:イザナミ】がゆっくりと立ち上がった。
彼女の存在そのものが、この世界の「死」という名の関数だった。彼女が指を一振りするだけで、亮の視界にあるコマンドラインが次々と「ERROR: TARGET NOT FOUND」に書き換わっていく。
『――不比等の残滓を継ぎ足した、哀れな人形よ。……。お前が信じる「生の繋がり」など、この深淵の前では一瞬のバグに過ぎない』
イザナミの背後から、千本の黒い腕が伸び、それぞれが異なる「絶望のコード」を詠唱し始めた。
「――MI-Z-O!! 全防御バッファを前方に展開しろ!!」
『――亮、不可能です!! 彼女のアクセス権限は「ルート(最上位)」を超えています!! 私たちのコードが、触れるそばから「死(ヌル)」へ変換されている!!』
ドォォォォォォォォォォォォンッ!!
イザナミが放った「腐敗の波動」が一行を襲う。
厳心が咄嗟に『不動明王』の火炎翼を展開して盾となるが、その翼さえも瞬時に灰色に変色し、ボロボロと崩れ落ちた。
「……ぐ、あああああッ!! ……。なんという……なんという虚無の力だ……!!」
歴戦の猛者である厳心が膝をつく。阿国の三味線も、弦が凍りつき、音色さえも「音」としての定義を失い始めていた。
「……。まだだ。……。俺たちは、一人でここに立ってるんじゃねえ」
亮は、自らの意識を天箱(アマノハコ)を通じて、地上へと逆ダイブさせた。
今、日本各地では、亮たちが救い、共にリビルドを誓った人々が動いていた。
対馬では、サクが守った村人たちが、神社を拠点に「新しい農業プロトコル」を走らせている。
出雲では、徳蔵率いる『鉄錆団』が、ヒヒイロカネの炉に火を入れ、天箱を支えるための「希望のインフラ」を鍛え上げている。
そして各地の街角では、阿国の仲間である『舞歌衆』が、絶望を打ち消すための「生の祭(ノイズ)」を爆音で奏でていた。
「……。聞こえるか、イザナミ。……。あんたが『死』だと切り捨てた連中が、今、必死に『明日』をビルドしてる音がよ!!」
亮のガントレットに、日本全土から「応援ログ」が濁流のように流れ込んできた。
それは不比等のシステムには決して演算できなかった、不合理で、熱くて、泥臭い「人間の意志」。
「――MI-Z-O!! 各地の拠点をサーバー・ノードとして接続しろ!! 日本全土を一つの巨大な『分散コンピューティング・ネットワーク』に書き換える!!」
『――了解!! 実行キー、承認!! ……。亮、これこそが、あなたが夢見た「全員で作る街」の真の姿ですね!!』
「――サク!! あんたの弓で、地上の連中の『祈り』を束ねて、この暗闇に光の柱を立てろ!!」
「わかったわ!! ……。みんな、私に力を貸して!! 運命(コード)を……私が撃ち抜く!!」
サクの『三箭の鳴鏑』が、かつてないほど巨大な光の渦を形成した。放たれた矢は、もはや実体を持たない純粋な「希望の指向性データ」となり、イザナミの千本の腕を一本ずつ「浄化」していく。
「――阿国!! あんたのリズムで、この地獄の静寂をぶち壊せ!!」
「ハハッ!! 出番だねぇ!! 地上の『舞歌衆』全員、あたしの三味線に同期(シンクロ)しな!! これが、死神も踊り出す究極の『祭・デバッグ』だよ!!」
阿国が三味線をかき鳴らすと、黄泉の空間そのものがディスコのように極彩色にフラッシュした。イザナミが支配していた「死の周波数」が、生のエネルギーに上書きされ、崩壊していく。
「――トドメだ!! イザナミ!! ……。あんたが管理していたこの国は、今日、俺たちが『オープンソース』として解放してやる!!」
亮が、黄金に燃え盛る『雷火・真打』を両手で掲げた。
背後には、地上のすべての街、すべての職人、すべてのエンジニアたちのホログラムが出現し、一斉に鍬を振り下ろす動作をシンクロさせる。
「――神器・雷火……『八百万・開闢(かいびゃく)・フルリブート』!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
黄金の衝撃波が、黄泉の湖を真っ二つに割り、最古の管理者イザナミの存在そのものを「新たな生の設計図」の一部へと還元(コンパイル)していった。
光が収まったとき、そこにはもう地獄も女王もいなかった。
あるのは、透き通った水のように澄んだ、まっさらな「未定義の空間」。
「……。終わった。……。いや、……始まったんだな」
亮たちは、天箱の光に包まれながら、ゆっくりと地上へと帰還した。
富士の樹海の上空、朝焼けの光の中で、亮は宣言した。
「……。不比等の秩序でも、イザナミの死でもない。……。俺たちが、毎日バグを見つけ、毎日直して、毎日笑い合える……そんな街を創る。……。名前は……『ネオ・エド』。そこが、俺たちの新しいホームだ」
対馬、出雲、そして富士。
点と点が線で結ばれ、日本という名の巨大なキャンバスに、新しいOSが書き込まれようとしていた。
次回予告:第四十三話「再起動した日本と、新都市『ネオ・エド』の設計図」
黄泉の戦いから数ヶ月。亮たちは東京の廃墟を舞台に、全勢力が集結する理想の都市『ネオ・エド』の建設を開始する。だが、平和な空気に包まれる中、空に不気味な「赤い月(エラー・ムーン)」が浮かび上がる。……。まだ、バグは終わっていなかった。
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