AIエンジニアが1300年前の日本に転移して、日本書紀をアップデートしちゃいました

第二章：出雲・​八百万（やおよろず）リビルド：黄泉の残響編

​第四十七話：鹿島と香取、不屈の武神と地震のバグ

​　伊勢の猿田彦によって「道」が示された直後、亮のガントレットに緊急のアラートが突き刺さった。
　震源地は関東の東端、千葉と茨城の境界に位置する**【鹿島神宮】および【香取神宮】**。

​「……。MI-Z-O、なんだこの震動（バイブレーション）は。……。地脈のログが完全に断裂してやがる」

​『――深刻です、亮。……。東国の地底深くに眠る巨大なバグ……、古来「大鯰（おおなまず）」と隠語で呼ばれた「地殻変動エラー」が、不比等の管理権限消失によって暴走を開始しました。……。現在、二人の守護神が、自らの身を削ってこれを抑え込んでいます』

​　亮たちは天箱を駆り、激震に揺れる鹿島の杜へと降り立った。
　そこで見たのは、衝撃の光景だった。
　鹿島神宮の奥宮、古びた石の杭――**【要石（かなめいし）】**の上に、ボロボロになった二人の男が立っていた。

​　一人は、荒々しい雷の鎧を纏った武神、建御雷神（タケミカヅチ）。
　もう一人は、鋭利な剣の意志を体現したような、経津主神（フツヌシ）。

​　二人の足元からは、ドス黒いマグマのような「エラー・データ」が噴き出し、二人の神の肉体を侵食していた。

​「――っ、来るな！！ 小童（こわっぱ）ども！！ ここは今、理（ことわり）が崩壊している！！」
　タケミカヅチが叫ぶ。彼の右腕はすでにデータ崩壊（ロスト）し、ノイズの火花を散らしていた。

​　鹿島と香取の両神は、日本書紀において「国譲り」を成し遂げた最強の武神コンビだ。彼らは不比等の圧政下でも、その誇りを捨てず、日本の土台が崩れないよう、数千年にわたって地底のバグを抑え続けてきた。

​「……。フツヌシ、まだいけるか」
「……。ふん、タケミカヅチ。貴殿に背中を見せるわけにはいかぬからな。……。だが、……この『大鯰』の出力、もはや我らの限界を超えている」

​　地底から、数百万テラバイトに及ぶ「破壊の意志」が咆哮を上げる。
　震動がネオ・エドにまで伝わり、建設中のビルが音を立てて軋む。

​「……。厳心さん、サク。……。神様たちを助けるぞ。……。武神が倒れたら、この国の土台がなくなる」

​　亮が『雷火・真打』を掲げた。
　
「――大国主よ！！ あんたがかつてこの二人に譲ったこの国を、今度は一緒に支えてやれ！！ 『国譲り・共生パッチ』、適用！！」

​　亮の中から、大国主の温かな黄金の光が溢れ出し、タケミカヅチとフツヌシの傷ついた肉体を包み込んだ。
　
「……。な、……大国主の力だと！？ ……。まさか、あの『未練の王』が、人間に力を貸しているというのか！？」

​「――未練じゃねえよ。……。愛着だ！！」
　亮の叫びに呼応し、厳心とサクも動く。

​「――カグツチ、我が魂を熱源（ソース）に変えよ！！ 『火神・要石溶接』！！」
　厳心が地底へ向けて槍を突き立て、漏れ出す黒いエラー・データを火炎で焼き固めていく。

​「――豊玉姫、震動の波紋を打ち消して！！ 『水神・沈静の漣（さざなみ）』！！」
　サクが放つ水の矢が、激しい揺れを「静寂」へと上書きしていく。

​　そして、亮は二人の武神の間に割り込んだ。
　
「――タケミカヅチ！！ フツヌシ！！ あんたたちの剣（コード）を俺に貸せ！！ ……。この国の土台を、新しくビルドし直すんだ！！」
​　二人の武神が、亮の意志に共鳴した。
　タケミカヅチの雷（電撃）と、フツヌシの剣（鋭利な論理）が、『雷火・真打』へと流れ込む。
　
「――神器・雷火……『東国双神（とうごくそうしん）・要石フルアクセス』！！！」

​　亮が鍬を要石の根元へ振り下ろした。
　黄金の光が地底へと貫通し、暴走していた「大鯰（エラー）」を、強固な「インフラ・データ」へと変換（コンパイル）していく。
　
　激震が止まり、鹿島の森に静寂が戻った。
　要石は以前よりも眩い白銀の光を放ち、日本の東の境界を盤石なものへと変えていた。

​「……。見事だ、若きエンジニア。……。我ら武神が、人間に救われる日が来るとはな」

​　タケミカヅチが、再生した右腕で亮の肩を叩いた。
　フツヌシもまた、剣を鞘に収め、涼やかな風を纏って微笑む。

​『――鹿島と香取。……。我ら二柱の神が繋がったことで、日本の「東の門」は開かれた。……。亮よ、次は西だ。……。出雲と伊勢、そしてこの東国が結ばれた今、次は四国、そして九州へとネットワークを広げるがよい』

​　亮は、鹿島神宮の壮大な鳥居を見上げた。
　ここは、何かを始める者が「武運」を祈る場所。
　
「……。ああ。……。あんたたちの不屈の意志、しっかりインストールしたぜ」

​　読者は、この不屈の二神の物語を読み、鹿島の「要石」をその目で見たいと願うだろう。
　亮たちの手によって、全国一宮の神々が一人、また一人と「新しい日本のOS」へと合流していく。

​　鹿島でのデバッグを終えた亮たちが天箱に戻った時、那智が青ざめた顔で待っていた。

​「亮……。空を見て。……。ネオ・エドの上空に、……不気味な『影』が現れたわ」

​　モニターには、ネオ・エドの黄金のネットワークを侵食するように浮かぶ、巨大な**「赤い月」**のホログラムが映し出されていた。
　それは、アブラハムの残した「最後のエラー」か、それとも新たな勢力の……。

​「……。プロジェクト・アマテラス。……。急がなきゃ、この国が完全に『夜』に閉ざされる前に」

​　亮の瞳に、使命の炎がかつてないほど激しく燃え上がった。


　
​次回予告：第四十八話​｢戦略会議（ブリーフィング）と、天岩戸の再起動計画｣