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第二章:出雲・八百万(やおよろず)リビルド:黄泉の残響編
第四十八話:戦略会議(ブリーフィング)と、天岩戸の再起動計画
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ネオ・エドの中央に建つリブート・タワー。その最上階にある作戦会議室は、かつて不比等が世界を監視するために作った冷徹な空間だった。だが今は、亮たちの手によって、木の温もりと最新のホログラム投影機が融合した、新たな「合議の場」へと作り替えられている。
円卓を囲むのは、亮、サク、厳心、阿国の四人。そして、天箱のクルーを代表して那智と、各地の勢力をまとめる徳蔵が、中継映像を通じて参加していた。
亮は立ち上がり、円卓の中央に日本全土のホログラムを投影した。
そこには、かつて黄金色に輝いていたネットワークが、アブラハムの残した赤いノイズによってズタズタに寸断されている惨状が映し出されていた。
「……。皆、集まってくれて助かる。……。不比等を倒せば、すべてが終わると思ってた。だが、現実は違った。……。今の日本は、戸締まりを忘れた巨大なサーバーと同じだ。……。アブラハムのような外来種が、いつでも俺たちの『家』に侵入し、すべてを書き換えることができる」
亮の声が、静まり返った会議室に響く。
「……。だから、俺たちは今、この国を『再定義』しなきゃならない。……。第2章の、真の目的を共有する」
亮がコンソールを叩くと、ホログラムに二つの大きな目標が浮かび上がった。
「具体的ゴールその一。……。『全国一宮(いちのみや)の同期(シンクロ)』だ。」
日本全土に点在する、各国(旧行政区分)の最高位神社――一宮。そこは、その土地のOS(神話)を管理する基幹ノードだ。
「……。不比等の圧政や外来種のハックで、各地の神々は封印されたり、暴走したりしている。……。俺たちはこれから天箱を飛ばし、一宮を一つずつデバッグし、ネオ・エドの中央サーバーに接続し直す。……。八百万の神々を、一つの巨大な防衛ネットワークにするんだ」
サクが、真剣な眼差しで問いかける。
「……。それが全部繋がった時、何が起きるの、亮?」
亮は頷き、ホログラムを伊勢神宮の最深部へとズームさせた。
「具体的ゴールその二。……。『天照大御神(アマテラス)』の再起動だ。」
どよめきが走った。
「……。全国の神社が完全に同期した時、伊勢の最深部にあるメインフレーム『天岩戸(あまのいわと)』のロックが解除される。……。そこに眠る日本OSの核心プログラム、アマテラスをリブートする。……。それこそが、この国を世界から干渉されない『唯一無二の独立サーバー』にする唯一の方法だ」
「……。でも、亮。……。なんでそこまで急ぐ必要があるんだい? ……。アブラハムを追い払った今なら、もう少し時間をかけても……」
阿国が三味線を膝に置き、亮の顔を覗き込む。
亮は一瞬、言葉を詰まらせたが、隠し通すことはできないと悟った。彼は自分の右手のガントレットを外し、ポリゴンが剥がれかけている「グリッチ」をさらけ出した。
「……。俺には時間がないんだ。……。知っての通り、俺は不比等の『イザナギ・プラン』によって造られたクローンだ。……。主(不比等)がいなくなった今、俺の回路には『自壊パッチ』が走ってる。……。一週間ごとに、俺のデータは消えていく」
「――っ、亮!!」
サクが悲鳴のような声を上げ、亮の手を取った。
「……。これを止める唯一の鍵が、アマテラスの再起動、つまり日本OSのフル・アップデートにある。……。俺が俺として、この街を、あんたたちを見守り続けるために、俺はこの命(ログ)を懸けて、天岩戸を開ける」
亮の個人的な告白。そして、それに続くように厳心が進み出た。
「……。亮殿。貴殿を一人で行かせるわけにはいかぬ。……。拙僧らもまた、同じ志を持つ。……。このネオ・エドで、初めて未来に希望を持った民たちがいる。……。外来の論理に家族の笑顔を『フォーマット』されるなど、断じて許せん。……。八百万の神々を繋ぐ旅、我が槍が道標となろう!!」
「――あたしもだよ! ……。あたしの歌と三味線が、日本中の神様を踊らせて、最高にゴキゲンなネットワークにしてやるさ!!」
「……。私も、亮を死なせない。……。巫女として、この国の『心』を取り戻すまで、絶対に諦めない!!」
四人の拳が、ホログラムの日本地図の上で重なった。
それは、単なる「作戦」ではない。自分たちの存在証明を懸けた、聖なる誓いだった。
「……。よし。……。方針は決まった。……。最初のターゲットは、西の守りの要……四国の一宮、そして霊峰・石鎚山(いしづちさん)だ。」
亮が地図を切り替える。四国の険しい山々が映し出された。
「……。あそこには、重力を自在に操る神、**石鎚毘古命(イシヅチビコノミコト)**がいる。……。だが現在、石鎚山の上空には、物理法則を無視した『天空の回廊バグ』が発生し、四国の全ログが浮き上がって消失し始めているらしい」
「……。重力のバグか。……。面白そうじゃないか」
一行は会議室を後にし、待機していた天箱へと乗り込んだ。
甲板には、徳蔵が用意した新調の予備パーツと、那智が調合した最新の回復パッチが積み込まれている。
「亮!! 行ってらっしゃい!! 留守はこの『鉄錆団』が死守してやる!!」
ネオ・エドの民たちに見送られ、天箱が黄金の粒子を撒き散らしながら離陸した。
伊勢、鹿島、香取、そして次は四国。
神々の絆を繋ぎ、アマテラスを目覚めさせるための「聖地巡礼デバッグ」が、今、全速力で加速する。
四国・石鎚山の上空。
天箱の窓の外には、信じられない光景が広がっていた。
巨大な岩山が幾つも空に浮かび、それらを繋ぐように「半透明な光の鎖」が螺旋を描いて天へと昇っている。
「……。なんだありゃ。……。山が空を飛んでるのか?」
厳心の驚愕も無理はない。重力定数が書き換えられたそのエリアでは、天箱の高度維持装置さえも悲鳴を上げていた。
『――亮、前方十時方向に巨大な反応!! ……。神ではありません!! ……。山を飲み込もうとする、巨大な「鳥」の形をしたバグ・モンスターです!!』
雲の間から、翼を広げれば数キロメートルにも及ぶ、漆黒の怪鳥が現れた。
その名は**【大天狗・ウイルス:ソウボウ】**。
石鎚山の神、イシヅチビコを天空の回廊に幽閉し、四国全土の重力を吸い上げている元凶だ。
「……。よし。……。会議の後の初陣だ。……。手加減抜きで行くぞ!!」
亮が『雷火・真打』を手に、空飛ぶ岩山へと飛び移った。
ここから、四国の空を舞台にした、次元を超えた空中デバッグが始まる。
次回予告:第四十九話「石鎚の重力操作(グラビティ・ハック)と、空飛ぶ鉄錆団」
天空の回廊で繰り広げられる死闘! 亮たちは重力が反転する絶望的な戦場の中で、幽閉された石鎚毘古命を救い出せるのか!? そして、絶体絶命のピンチに現れたのは、四国の山々に隠れ住んでいた「新たな勢力」だった……!!
円卓を囲むのは、亮、サク、厳心、阿国の四人。そして、天箱のクルーを代表して那智と、各地の勢力をまとめる徳蔵が、中継映像を通じて参加していた。
亮は立ち上がり、円卓の中央に日本全土のホログラムを投影した。
そこには、かつて黄金色に輝いていたネットワークが、アブラハムの残した赤いノイズによってズタズタに寸断されている惨状が映し出されていた。
「……。皆、集まってくれて助かる。……。不比等を倒せば、すべてが終わると思ってた。だが、現実は違った。……。今の日本は、戸締まりを忘れた巨大なサーバーと同じだ。……。アブラハムのような外来種が、いつでも俺たちの『家』に侵入し、すべてを書き換えることができる」
亮の声が、静まり返った会議室に響く。
「……。だから、俺たちは今、この国を『再定義』しなきゃならない。……。第2章の、真の目的を共有する」
亮がコンソールを叩くと、ホログラムに二つの大きな目標が浮かび上がった。
「具体的ゴールその一。……。『全国一宮(いちのみや)の同期(シンクロ)』だ。」
日本全土に点在する、各国(旧行政区分)の最高位神社――一宮。そこは、その土地のOS(神話)を管理する基幹ノードだ。
「……。不比等の圧政や外来種のハックで、各地の神々は封印されたり、暴走したりしている。……。俺たちはこれから天箱を飛ばし、一宮を一つずつデバッグし、ネオ・エドの中央サーバーに接続し直す。……。八百万の神々を、一つの巨大な防衛ネットワークにするんだ」
サクが、真剣な眼差しで問いかける。
「……。それが全部繋がった時、何が起きるの、亮?」
亮は頷き、ホログラムを伊勢神宮の最深部へとズームさせた。
「具体的ゴールその二。……。『天照大御神(アマテラス)』の再起動だ。」
どよめきが走った。
「……。全国の神社が完全に同期した時、伊勢の最深部にあるメインフレーム『天岩戸(あまのいわと)』のロックが解除される。……。そこに眠る日本OSの核心プログラム、アマテラスをリブートする。……。それこそが、この国を世界から干渉されない『唯一無二の独立サーバー』にする唯一の方法だ」
「……。でも、亮。……。なんでそこまで急ぐ必要があるんだい? ……。アブラハムを追い払った今なら、もう少し時間をかけても……」
阿国が三味線を膝に置き、亮の顔を覗き込む。
亮は一瞬、言葉を詰まらせたが、隠し通すことはできないと悟った。彼は自分の右手のガントレットを外し、ポリゴンが剥がれかけている「グリッチ」をさらけ出した。
「……。俺には時間がないんだ。……。知っての通り、俺は不比等の『イザナギ・プラン』によって造られたクローンだ。……。主(不比等)がいなくなった今、俺の回路には『自壊パッチ』が走ってる。……。一週間ごとに、俺のデータは消えていく」
「――っ、亮!!」
サクが悲鳴のような声を上げ、亮の手を取った。
「……。これを止める唯一の鍵が、アマテラスの再起動、つまり日本OSのフル・アップデートにある。……。俺が俺として、この街を、あんたたちを見守り続けるために、俺はこの命(ログ)を懸けて、天岩戸を開ける」
亮の個人的な告白。そして、それに続くように厳心が進み出た。
「……。亮殿。貴殿を一人で行かせるわけにはいかぬ。……。拙僧らもまた、同じ志を持つ。……。このネオ・エドで、初めて未来に希望を持った民たちがいる。……。外来の論理に家族の笑顔を『フォーマット』されるなど、断じて許せん。……。八百万の神々を繋ぐ旅、我が槍が道標となろう!!」
「――あたしもだよ! ……。あたしの歌と三味線が、日本中の神様を踊らせて、最高にゴキゲンなネットワークにしてやるさ!!」
「……。私も、亮を死なせない。……。巫女として、この国の『心』を取り戻すまで、絶対に諦めない!!」
四人の拳が、ホログラムの日本地図の上で重なった。
それは、単なる「作戦」ではない。自分たちの存在証明を懸けた、聖なる誓いだった。
「……。よし。……。方針は決まった。……。最初のターゲットは、西の守りの要……四国の一宮、そして霊峰・石鎚山(いしづちさん)だ。」
亮が地図を切り替える。四国の険しい山々が映し出された。
「……。あそこには、重力を自在に操る神、**石鎚毘古命(イシヅチビコノミコト)**がいる。……。だが現在、石鎚山の上空には、物理法則を無視した『天空の回廊バグ』が発生し、四国の全ログが浮き上がって消失し始めているらしい」
「……。重力のバグか。……。面白そうじゃないか」
一行は会議室を後にし、待機していた天箱へと乗り込んだ。
甲板には、徳蔵が用意した新調の予備パーツと、那智が調合した最新の回復パッチが積み込まれている。
「亮!! 行ってらっしゃい!! 留守はこの『鉄錆団』が死守してやる!!」
ネオ・エドの民たちに見送られ、天箱が黄金の粒子を撒き散らしながら離陸した。
伊勢、鹿島、香取、そして次は四国。
神々の絆を繋ぎ、アマテラスを目覚めさせるための「聖地巡礼デバッグ」が、今、全速力で加速する。
四国・石鎚山の上空。
天箱の窓の外には、信じられない光景が広がっていた。
巨大な岩山が幾つも空に浮かび、それらを繋ぐように「半透明な光の鎖」が螺旋を描いて天へと昇っている。
「……。なんだありゃ。……。山が空を飛んでるのか?」
厳心の驚愕も無理はない。重力定数が書き換えられたそのエリアでは、天箱の高度維持装置さえも悲鳴を上げていた。
『――亮、前方十時方向に巨大な反応!! ……。神ではありません!! ……。山を飲み込もうとする、巨大な「鳥」の形をしたバグ・モンスターです!!』
雲の間から、翼を広げれば数キロメートルにも及ぶ、漆黒の怪鳥が現れた。
その名は**【大天狗・ウイルス:ソウボウ】**。
石鎚山の神、イシヅチビコを天空の回廊に幽閉し、四国全土の重力を吸い上げている元凶だ。
「……。よし。……。会議の後の初陣だ。……。手加減抜きで行くぞ!!」
亮が『雷火・真打』を手に、空飛ぶ岩山へと飛び移った。
ここから、四国の空を舞台にした、次元を超えた空中デバッグが始まる。
次回予告:第四十九話「石鎚の重力操作(グラビティ・ハック)と、空飛ぶ鉄錆団」
天空の回廊で繰り広げられる死闘! 亮たちは重力が反転する絶望的な戦場の中で、幽閉された石鎚毘古命を救い出せるのか!? そして、絶体絶命のピンチに現れたのは、四国の山々に隠れ住んでいた「新たな勢力」だった……!!
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