AIエンジニアが1300年前の日本に転移して、日本書紀をアップデートしちゃいました

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第二章：出雲・八百万（やおよろず）リビルド：黄泉の残響編

第四十九話：石鎚の重力操作（グラビティ・ハック）と、空飛ぶ鉄錆団

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　四国の霊峰・石鎚山。古くから修験の地として知られるその峻険な山容は、今や「物理法則の墓場」と化していた。
　天箱（アマノハコ）から飛び出した亮、サク、厳心、阿国の四人は、空中に浮遊する巨大な岩塊――「浮島」を足場に、山頂を目指して跳躍を繰り返していた。

「――っ、何だこの感覚は！？足が地面に吸い付いたかと思えば、次の瞬間には宇宙まで放り出されそうだぜ！！」
　厳心が漆黒の槍を浮島に突き立て、逆さまにぶら下がりながら叫ぶ。

「厳心さん、落ち着いて！空間の『重力ベクトル』が、あの大天狗ウイルスの羽ばたきに同期して書き換えられてるわ！！」
　サクは豊玉姫の加護によって、空気中の水分を小さな足場に変え、軽やかに空を舞っている。

　上空を見上げれば、漆黒の怪鳥**【大天狗・ソウボウ】**が、その数キロメートルに及ぶ翼をゆっくりと動かしていた。翼が打たれるたびに、周囲の重力定数が「G=9.8」から「G=-15.0」へと乱高下し、地上の森から吸い上げられた岩や樹木が、亮たちの行く手を阻む弾丸となって降り注ぐ。

「……MI-Z-O、解析を急げ！この重力異常の『根源（ルート）』はどこだ！？」

『――解析完了！！亮、山頂の『石鎚神社・頂上社』のアクセスコードが、ソウボウによって完全にバイパスされています！！石鎚山の神、**石鎚毘古命（イシヅチビコノミコト）**の権能が、重力を生み出す「質量サーバー」として悪用されているのです！！』

「……。神様を電池代わりにしてやがるのか。……。許せねえな」

　その時、ソウボウの背後から、無数の「爆音」が響いた。
　
「――おらおらおらぁ！！余所者のバグ風情が、四国の空でデカい顔してんじゃねえぞ！！」

　雲を割って現れたのは、ボロボロのプロペラ機や、ハンググライダーにジェットエンジンを強引に括り付けたような、異形の飛行集団だった。
　機体には、使い込まれたスパナのマークと、**『鉄錆団・四国支部（シコク・ジャンク・ウィングス）』**の文字が刻まれている。

「亮さん！！徳蔵の親父から話は聞いてるぜ！！ネオ・エドのチーフ・エンジニアだろ！？」
　先頭の機体から、ゴーグルをかけた一人の少年が身を乗り出して叫ぶ。

「……。鉄錆団か！ ……。四国にも仲間がいたのかよ！！」

「当たり前だ！！俺たちは、この石鎚の神様が作る『適度な重力』のおかげで、自由に空を飛べてたんだ！！ ……。あいつを助け出すまで、俺たちがソウボウのヘイト（標的）を買ってやる！！亮さんは、頂上社（サーバー）へ走れ！！」
　四国支部の連中が、死を恐れぬアクロバット飛行でソウボウの周囲を撹乱し始める。
　彼らの機体は重力異常に振り回され、今にも空中分解しそうだが、それでも彼らは笑いながら、手製の電磁ネットを怪鳥の翼へと放ち続けた。

　鉄錆団が作ってくれた隙を突き、亮たちはついに、空に浮かぶ断崖絶壁――石鎚山頂上社へと辿り着いた。
　そこには、全身を真っ白な「重力定数（G）の鎖」で縛られ、虚空に吊るされた一人の屈強な男がいた。
　
　【石鎚毘古命（イシヅチビコノミコト）】。
　彼は、自らの体から溢れ出す重力エネルギーをソウボウに吸い取られ、もはや声も出せないほどに衰弱していた。

「……。石鎚の神様、……。待たせたな。……。今、その汚ねえパッチを剥がしてやる」

　亮が『雷火・真打』を振り上げた。
　だが、その瞬間。ソウボウが叫びを上げ、頂上社周辺の重力を「無限大」へと引き上げた。

　ドォォォォォォンッ！！
　
「……っ、が……。……。体が、……一トンくらいに感じる……！！」
　亮の膝が折れる。サクや厳心も、地面に叩きつけられ、指一本動かすことができない。

『――少年よ。……。無駄な……。抵抗……を……やめろ……。……。私は……この国の……「重み」そのものに……。変質したのだ……』
　ソウボウの声が、地鳴りのように響く。

「……。ふざけんな。……。あんたが背負ってるのは『重み』なんかじゃねえ。……。ただの『執着』だ！！」

　亮は、重圧の中で、自分のポケットに入っていた「あるもの」を握りしめた。
　それは、伊勢で猿田彦から受け取った「導きのコンパス」。
　そして、石鎚山を登るために地上の人々が亮に託した、使い古された「鉄の鎖（石鎚の鎖禅）」の欠片。

「……。石鎚毘古命！！見ろよ！！あんたを助けるために、地上の人間たちが、自分の意思でこの高い山を見上げてる！！ ……。重力ってのは、人を縛るためのもんじゃねえ！！ ……。地に足をつけて、空へ飛び上がるための『バネ』なんだよ！！」

　亮の叫びに、石鎚毘古命の瞳がカッと見開かれた。
　
「――……。その通りだ、エンジニア！！ ……。我が重力、……貴様に託す！！耕せ！！この汚れた天空を！！」

　石鎚毘古命が咆哮すると、彼を縛っていた白い鎖が黄金色に輝き、亮の『雷火・真打』へと収束した。
　
「――神器・雷火……『石鎚・天昇開墾（てんしょうかいこん）』！！！」

　亮は、無限の重圧を「反発エネルギー」へと変換し、弾丸のようにソウボウの脳門へと飛び上がった。

　空中で重力をゼロにし、さらに加速。
　
　ガギィィィィィィィィィィィィンッ！！！！！
　
　『雷火』の刃がソウボウの頭部の管理権限を粉砕する。
　
「――厳心さん！！サク！！阿国！！ ……。仕上げだ！！」

「――カグツチ、太陽の重力をここに！！『火神・重圧落とし』！！」
「――豊玉姫、天の水を星のように降らせて！！『水神・メテオ・ストライク』！！」
「――アメノウズメ、重力なんて笑い飛ばしな！！『神代・無重力ディスコ』！！」

　三人の神威が合わさり、漆黒の怪鳥ソウボウは、純粋な「質量データ」へと還元され、四国の美しい海へと消えていった。

　重力異常が収まり、石鎚山は再び、厳かで美しい静寂を取り戻した。
　浮いていた岩塊は元の場所へと戻り、天空の回廊は消滅した。

　石鎚毘古命は、亮の前に立ち、その大きな手で亮の頭を撫でた。

『――よくやった、若人。……。四国の山々は、今この瞬間からお前たちの「ネットワーク」と同期した。……。私が司る「重力」があれば、天箱の移動速度はさらに上がるだろう』

「……。ありがとう、神様。……。でも、一番頑張ったのは、あの空を飛んでた『鉄錆団』の連中だよ」

　亮は、無事に着陸した四国支部の少年たちに、親指を立てて見せた。
　彼らが守りたかったのは、単なる山ではない。神様と共にある「自分たちの生活」そのものだったのだ。
　読者は、この不屈の山頂と、そこから見える瀬戸内海の絶景を想像し、実際に「石鎚の鎖」を掴んで登りたいと思うだろう。
　一宮の同期は、着実に進んでいる。

次回予告：第五十話「阿波の鳴門（なると）と、渦巻くデータの迷宮」
四国の東、鳴門海峡に巨大な「データの渦」が発生！海の神、**大綿津見神（オオワタツミノカミ）**が、深海に沈んだ「失われた記憶」を求めて暴走している。亮は、渦潮の深淵で、日本OSの「最初のバグ」を目撃することになる……！！

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