最弱の俺が神の血を継いで世界を救う旅に出る(仮)

RYOアズ

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第1話:トライザの叫び

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トライザ村は聖域大陸の北端、切り立った丘に囲まれた小さな集落だった。風が麦畑を優しく揺らし、鳥のさえずりが朝を告げる穏やかな場所。村人たちは質素に暮らし、争いとは無縁の日々を送っていた。ゼイク・ヴァルディスはそんな村で生まれた18歳の青年だ。農夫の息子で、背は細く、筋肉も乏しい。魔法の才能は皆無で、剣を手に持つことすらおぼつかない。村の子供たちからは「弱虫ゼイク」とからかわれることもあったが、彼の瞳には優しさが宿っていた。母からは「心だけは強い子」と褒められ、父からは「優しさも立派な力だ」と言われた。だが、ゼイク自身はその言葉を信じきれなかった。力も魔法もない自分が、誰かを守れるはずがない――そう思いながら、ただ毎日を生きていた。

その日は朝から不穏な空気が漂っていた。空は薄曇りで、風がいつもより強く吹き抜ける。ゼイクは母と一緒に納屋で干し草をまとめていた。汗が額を流れ、シャツが背中に張り付く。「今日、変な天気だな…」と呟きながら、束ねた干し草を積み上げる。母は笑顔で「そうね、でも雨さえ降らなきゃいいわ」と返す。その穏やかな時間が、永遠に続くと思っていた。

夕暮れが近づき、空が不気味な赤に染まり始めた頃、異変が起きた。遠くの丘から響く低い唸り声。ゼイクは手を止め、窓から外を覗いた。「何だ…?」母も顔を上げ、不安げに窓に近づく。すると、丘の向こうから黒い影が群れで迫ってくるのが見えた。角が鋭く、赤い目が爛々と光る魔物――「角狼」。普段は村外れをうろつく程度の獣だが、こんな数で押し寄せてくるのは初めてだった。ゼイクの胸に冷たいものが走る。「母さん、隠れて!」慌てて母の手を引いた瞬間、「ガシャン!」と納屋の壁が砕けた。角狼の一頭が突進してきたのだ。

木片が飛び散り、干し草が舞い上がる。ゼイクは母を庇い、「逃げてくれ!」と叫んだ。母は震える足で立ち上がり、「ゼイク、あんたが逃げなさい!」と押し返す。だが、その声をかき消すように、外から響く叫び声と炎の燃える音。「村が…襲われてる?」ゼイクの心臓が激しく鳴り、恐怖が全身を包む。納屋の奥に母を押し込み、近くにあった古い鍬を手に持った。手に汗が滲み、柄が滑りそうになる。「俺に何ができるんだ…?」自問するが、考える暇はなかった。角狼が再び突進してきたのだ。

「ガウッ!」咆哮が響き、ゼイクは咄嗟に鍬を振り上げる。だが、力不足で刃先は空を切り、角狼の爪が腕をかすめた。「うっ!」血が滲み、鋭い痛みが走る。よろめきながらも、母を守るため歯を食いしばった。「やらせない…!」叫ぶが、声は震え、足は地面に根を張ったように動かない。角狼が再び襲いかかろうとした瞬間、外から別の叫び声が聞こえた。「助けてくれ!」村人だ。ゼイクは母に「ここにいて!」と叫び、納屋の外へ飛び出した。

そこはすでに地獄だった。家々が炎に包まれ、村人たちが逃げ惑う中、次々と角狼に襲われている。屋根から火の粉が舞い落ち、煙が目に染みる。ゼイクの足は恐怖で震えていたが、家族の家に向かって走った。父と妹がまだそこにいるはずだ。「頼む、無事でいてくれ…!」息を切らし、燃える小屋の間を抜ける。熱気が肌を焼き、喉が焼けるように痛い。道すがら、幼馴染の少年が角狼に追い詰められているのを見た。「タリ!」ゼイクは叫び、鍬を手に駆け寄る。だが、タリが「逃げろ、ゼイク!」と叫んだ瞬間、角狼の爪が少年の体を切り裂いた。「やめろぉ!」ゼイクの叫びも虚しく、タリは血まみれで倒れる。

ゼイクは立ちすくんだ。鍬を持つ手が震え、涙が溢れる。「俺…何もできない…」恐怖と無力感が心を締め付ける。だが、その時、遠くから父の声が聞こえた。「ゼイク、こっちだ!」自宅の方角だ。ゼイクは涙を拭い、走った。自宅にたどり着いた時、半壊した扉と焦げた木枠が目に飛び込んできた。中から聞こえるのは、剣のぶつかる音と妹の泣き声だった。

自宅の扉をくぐると、薄暗い居間で父――レオン・ヴァルディスが戦っていた。村一番の剣士だった彼が、古びた剣を手に角狼と対峙している。妹のミナは部屋の隅で縮こまり、泣き声を上げていた。レオンの左腕は血に染まり、息が荒い。「父さん!」ゼイクが叫ぶと、レオンは鋭い目で振り返った。「ゼイク、逃げろ!」その瞬間、角狼が飛びかかる。「ガキン!」剣と爪がぶつかり、火花が散る。レオンは老いた体に鞭を打ち、剣を振るうが、動きは鈍かった。

ゼイクは動けなかった。足が地面に縫い付けられたように固まり、鍬を持つ手が震える。「俺が…何かしなきゃ…!」思うのに、体が言うことを聞かない。角狼が再び突進し、レオンの剣を弾き飛ばした。「父さん!」ゼイクが叫んだ瞬間、レオンは咄嗟にゼイクを突き飛ばす。「グシャッ!」鈍い音が響き、角狼の爪がレオンの胸を貫いた。鮮血が床に飛び散り、レオンは膝をつく。「逃げろ…ゼイク…!」血を吐きながら、父は最後の力で角狼に体当たり。魔物はよろめき、レオンと共に壁を突き破って外へ転がった。

ゼイクは這うように父に近づいた。「父さん! だめだ、死なないでくれ!」涙が溢れ、声が震える。レオンは弱々しく微笑み、「お前は…優しい子だ…生きろ…」と呟くと、静かに目を閉じた。角狼が立ち上がり、再びゼイクに襲いかかろうとする。だが、その時、燃える家の柱が「ドガン!」と倒れ、魔物を下敷きにした。「ギャウウ!」断末魔が響き、炎が角狼を飲み込む。ゼイクは父の亡骸を抱きしめ、泣き叫んだ。「俺が…俺がもっと強ければ…!」嗚咽が止まらず、血と涙で顔が濡れる。

ミナが駆け寄り、ゼイクの腕の中で泣きじゃくった。「お兄ちゃん…父さん…!」小さな体が震え、ゼイクは妹を抱きしめる。「ミナ、大丈夫だ…俺が守るから…」そう呟くが、自分の言葉に力がないことを感じていた。村は炎と煙に覆われ、生き残った村人はわずかだった。焼け跡の中、ゼイクはミナを連れて母を探しに戻る。納屋にたどり着くと、母は無事だったが、呆然と座り込んでいた。「ゼイク…レオンは?」母の声に、ゼイクは首を振る。母は泣き崩れ、三人で抱き合った。

夜が明け、ゼイクは村外れの丘に立っていた。焼け落ちたトライザ村を見下ろし、拳を握り潰す。父の最後の言葉が頭を巡る。「生きろ…」その言葉が、重く胸に響く。「俺に何ができるかわからない…力もない、魔法もない…でも、もう誰も死なせたくない…!」涙を拭い、赤い朝焼けを見上げた。風が髪を揺らし、焼けた村の匂いが鼻を刺す。そこに、新たな決意が芽生えていた。ゼイクはミナの手を引き、母を支えながら丘を降りた。どこへ行くのか、何をすべきかもわからない。ただ、もう立ち止まらない――その思いだけが、彼を前に進ませていた。

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