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星降る収穫祭編
祝福の光と、過去からの影
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しかし――。
バニッシュは腕を組み、眉間に皺を寄せていた。
「どうするかな……。実際問題、畑の実りだけじゃ収穫祭をやるには少なすぎる。かといって、今から新しい作物を育てる暇もない。どうせやるなら、中途半端じゃなく、しっかり準備したいしな……」
ぶつぶつと独り言を漏らし、考えに沈むバニッシュ。
その姿に気づいたセラが、ぱっと笑顔を向けた。
「大丈夫だよ!」
意表を突くような明るい声。
バニッシュは思わず目を瞬かせ、彼女を見返す。
「……大丈夫?」
「うん! 今、この場所には活力が満ちてるんだもん!」
セラは両手を広げ、くるりと一回転。
その仕草に合わせるように、柔らかな光が畑一帯を包み込む。
気づけば――畑の作物だけではなかった。
周囲の土は力を取り戻したように黒々とし、草花は瑞々しく葉を伸ばし、木々の梢にまで淡い光が灯っている。
拠点全体が、まるで春を迎えたかのような温もりに包まれていた。
「……こ、これは……」
バニッシュは思わず息を呑む。
「祝福の恵光。――女神様の祈りによる奇跡です」
隣を飛んでいた神鳥パグが、低く厳かに告げた。
「祝福の恵光……」
バニッシュはその言葉を噛みしめるように繰り返す。
パグはふうっと小さく息をつき、遠くを見るような瞳を細めた。
「どうやらセラ様は、この地に……未来を視たのでしょう。この世界が持つ可能性を」
その視線の先には、鼻歌交じりに畑の間を歩き、リュシアやライラたちと共に光を取り戻した作物を眺めるセラの姿があった。
無邪気に笑うその横顔は、確かに「未来そのもの」を映しているかのように見えた。
収穫祭の話をメイラ、ザイロ、グラドにも伝えると、
「いいじゃねぇか!」とグラドが笑い飛ばし、
「楽しそうね」とメイラが頬をほころばせ、ザイロも無言でうなずいた。
準備は明日から少しずつ始めるとして、その夜は皆で夕食を囲むことにした。
冬が近づくにつれて日も短くなり、外はすでに群青の闇に沈んでいる。
灯りの下、あたたかな湯気を立てる鍋の匂いが漂い、和やかな笑い声が広がっていた。
――ただひとり。
セラだけが席に着かず、少し離れた場所で立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
ライラが首をかしげ、声をかける。
セラは俯き、白銀の裾をぎゅっと握りしめた。
きゅ~……とお腹が鳴る。
その瞬間、彼女の肩に乗っていたパグが慌てて言った。
「セラ様は……女神様は下界の食べ物を口にしてはいけないのです!」
「なんでよ?」
とリュシアが眉を吊り上げる。
「そ、それが掟だからです! そうしなければ――」
必死に説明を続けようとするパグ。だが――
「はぁ……そんなの関係ないでしょ」
リュシアはため息をつき、真っ直ぐにセラを見た。
「いい掟じゃお腹は膨れないのよ。ここに一緒に住むんでしょ? だったら、みんなと一緒に食べなさいよ」
強いながらも、優しさを含んだ眼差し。
その言葉に、セラの顔がぱっと明るくなる。
「うんっ!」
嬉しそうに頷くと、セラはリュシアの隣の席にちょこんと座った。
「セ、セラ様……!」
とパグは止めようとするが、口が続かない。
そこにあったのは、女神を恐れも崇めもせず、ただ一人の少女として温かく迎え入れる仲間たちの姿だった。
パグは言葉を失い、ただ大きく目を見開いたまま、その光景を見つめるしかなかった。
「さあ、召し上がれ」
メイラが柔らかな笑顔を浮かべながら、セラの前に一皿を差し出した。
セラは嬉しそうに目を輝かせ、ふわりと漂う湯気に顔を近づける。
「わぁ……いい匂い……!」
そして一口、口に含んだ。
「すっごく美味しい!」
頬をほころばせ、ぱあっと花が咲くような笑顔を見せる。
その笑顔につられるように、皆の顔にも自然と笑みが広がった。
和やかな笑い声が飛び交い、温かい団欒の時間が流れていく。
――だが。
その輪から一羽、そっと抜け出した影があった。
バニッシュはすぐに気づいた。
窓の外、夜風を受ける小さな背中。
神鳥パグは外のテーブルに舞い降り、静かに夜空を仰いでいた。
「どうしたんだ?」
背後から声をかけると、パグは振り返らず、ただ天を仰いだまま低くつぶやいた。
「……どうしてあなた方は、種族の垣根を超えるのですか?」
「……?」
意外な問いに、バニッシュはきょとんと目を瞬かせる。
「本来、どの種族も掟や理に縛られ、互いに理解することなどできない……できなかったのです。なのにここでは――人も、獣人も、エルフも、ドワーフも、魔族すらも……垣根を越えて共存している。そして……セラ様までも」
吐息のような声に、夜風が混ざる。
バニッシュは少しの間黙り、それから口を開いた。
「不思議か?」
「……理解はできません」
「そうだな」
バニッシュは頭をかきながら、夜空を見上げる。
「でも……たぶん、みんな“知らない”だけなんだと思う」
「知らない……?」
ようやくパグが振り返り、瞳を見開く。
「ああ。本当は分かり合えるはずなのに、掟や理に縛られて“知ろうとしなかった”んだ。だから壁があると思い込んで、超えられないって決めつけてきた。……まあ、俺もよく分かってるわけじゃないがな」
バニッシュは苦笑を浮かべ、再び空を仰ぐ。
月光がその横顔を淡く照らした。
パグも、同じように夜空を見上げる。
二人の視線が交わることはなく、ただ同じ星々の瞬きを静かに追っていた。
翌朝――。
畑に立った皆は、目を疑った。
昨日、セラが祈りを捧げた畑は、一夜にして活力を取り戻し、青々とした葉を茂らせ、瑞々しい実をつけていたのだ。
「うそでしょ……!」
リュシアが両手を腰に当て、目を丸くする。
「まるで何ヶ月も経ったかのようですね……」
セレスティナは感嘆を漏らし、輝く作物にそっと手を伸ばした。
「すごい……」
ライラが思わず微笑み、フォルは「やったー!」と飛び跳ねてはしゃぐ。
セラはにこにこと胸を張り、どこか得意げな顔を見せていた。
「これなら……」
バニッシュは頷き、畑を見渡す。
「新しい畑を広げて、さらに作物を増やすぞ」
さっそく役割が分けられた。
メイラ、ライラ、フォル、セレスティナ、リュシアは実った作物の収穫に。
ザイロ、グラド、そしてバニッシュは畑の拡張と種の植え付けに取りかかる。
額に汗を浮かべながら、皆の手は休むことなく動き続けた。
鎌の音、土を耕す音、笑い声。拠点は生き生きとした空気に包まれていた。
――その時。
バニッシュは、背筋を駆け抜けるような“違和感”を覚えた。
はっと顔を上げる。
「どうしたの?」
すぐ傍にいたリュシアが気づき、問いかける。
「ああ……誰かが、結界に入ってきた」
「本当ですか……?」
セレスティナの瞳が揺れる。
「とにかく確認してくる」
バニッシュは土を払って立ち上がった。
「私も行くわ!」
リュシアが鋭い声で言うが、バニッシュは首を横に振った。
「いや、今は畑を頼む。収穫を進めてくれ」
「……っ!」
リュシアは納得いかない顔をするが、それ以上は追わなかった。
バニッシュは駆けだす。
警戒を解かず、剣に手をかけながら結界の端へ向かう。
息を潜め、感覚を辿る。
森のざわめき、鳥の羽音。すべてを聞き分けながら進む。
そして、見つけた。
地面に横たわる……人影。
一瞬ぼろ布かと思った。だが、近づくと違った。
「人……?」
急いで駆け寄る。
そして、その姿を見た瞬間――バニッシュの胸が強く打った。
「……セリナ?」
かつて共に戦った、勇者一行の仲間。
今はボロボロに汚れ、痩せ細ったその体。だが間違いなく、彼女だった。
半信半疑で名を呼ぶと、セリナのまぶたがわずかに震え、か細い瞳がこちらを映した。
「……バニ……ッ」
声にならない声が零れ、次の瞬間、彼女は力尽きるように意識を失った。
バニッシュは、息を呑む。
心臓が高鳴り、喉が詰まる。
「セリナ……!」
その名を呼びながら、バニッシュは彼女を抱き起こした。
鼓動の確かさを感じ、安堵と混乱が入り混じる。
森の静寂の中、再会の衝撃だけが強く響いていた。
バニッシュは腕を組み、眉間に皺を寄せていた。
「どうするかな……。実際問題、畑の実りだけじゃ収穫祭をやるには少なすぎる。かといって、今から新しい作物を育てる暇もない。どうせやるなら、中途半端じゃなく、しっかり準備したいしな……」
ぶつぶつと独り言を漏らし、考えに沈むバニッシュ。
その姿に気づいたセラが、ぱっと笑顔を向けた。
「大丈夫だよ!」
意表を突くような明るい声。
バニッシュは思わず目を瞬かせ、彼女を見返す。
「……大丈夫?」
「うん! 今、この場所には活力が満ちてるんだもん!」
セラは両手を広げ、くるりと一回転。
その仕草に合わせるように、柔らかな光が畑一帯を包み込む。
気づけば――畑の作物だけではなかった。
周囲の土は力を取り戻したように黒々とし、草花は瑞々しく葉を伸ばし、木々の梢にまで淡い光が灯っている。
拠点全体が、まるで春を迎えたかのような温もりに包まれていた。
「……こ、これは……」
バニッシュは思わず息を呑む。
「祝福の恵光。――女神様の祈りによる奇跡です」
隣を飛んでいた神鳥パグが、低く厳かに告げた。
「祝福の恵光……」
バニッシュはその言葉を噛みしめるように繰り返す。
パグはふうっと小さく息をつき、遠くを見るような瞳を細めた。
「どうやらセラ様は、この地に……未来を視たのでしょう。この世界が持つ可能性を」
その視線の先には、鼻歌交じりに畑の間を歩き、リュシアやライラたちと共に光を取り戻した作物を眺めるセラの姿があった。
無邪気に笑うその横顔は、確かに「未来そのもの」を映しているかのように見えた。
収穫祭の話をメイラ、ザイロ、グラドにも伝えると、
「いいじゃねぇか!」とグラドが笑い飛ばし、
「楽しそうね」とメイラが頬をほころばせ、ザイロも無言でうなずいた。
準備は明日から少しずつ始めるとして、その夜は皆で夕食を囲むことにした。
冬が近づくにつれて日も短くなり、外はすでに群青の闇に沈んでいる。
灯りの下、あたたかな湯気を立てる鍋の匂いが漂い、和やかな笑い声が広がっていた。
――ただひとり。
セラだけが席に着かず、少し離れた場所で立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
ライラが首をかしげ、声をかける。
セラは俯き、白銀の裾をぎゅっと握りしめた。
きゅ~……とお腹が鳴る。
その瞬間、彼女の肩に乗っていたパグが慌てて言った。
「セラ様は……女神様は下界の食べ物を口にしてはいけないのです!」
「なんでよ?」
とリュシアが眉を吊り上げる。
「そ、それが掟だからです! そうしなければ――」
必死に説明を続けようとするパグ。だが――
「はぁ……そんなの関係ないでしょ」
リュシアはため息をつき、真っ直ぐにセラを見た。
「いい掟じゃお腹は膨れないのよ。ここに一緒に住むんでしょ? だったら、みんなと一緒に食べなさいよ」
強いながらも、優しさを含んだ眼差し。
その言葉に、セラの顔がぱっと明るくなる。
「うんっ!」
嬉しそうに頷くと、セラはリュシアの隣の席にちょこんと座った。
「セ、セラ様……!」
とパグは止めようとするが、口が続かない。
そこにあったのは、女神を恐れも崇めもせず、ただ一人の少女として温かく迎え入れる仲間たちの姿だった。
パグは言葉を失い、ただ大きく目を見開いたまま、その光景を見つめるしかなかった。
「さあ、召し上がれ」
メイラが柔らかな笑顔を浮かべながら、セラの前に一皿を差し出した。
セラは嬉しそうに目を輝かせ、ふわりと漂う湯気に顔を近づける。
「わぁ……いい匂い……!」
そして一口、口に含んだ。
「すっごく美味しい!」
頬をほころばせ、ぱあっと花が咲くような笑顔を見せる。
その笑顔につられるように、皆の顔にも自然と笑みが広がった。
和やかな笑い声が飛び交い、温かい団欒の時間が流れていく。
――だが。
その輪から一羽、そっと抜け出した影があった。
バニッシュはすぐに気づいた。
窓の外、夜風を受ける小さな背中。
神鳥パグは外のテーブルに舞い降り、静かに夜空を仰いでいた。
「どうしたんだ?」
背後から声をかけると、パグは振り返らず、ただ天を仰いだまま低くつぶやいた。
「……どうしてあなた方は、種族の垣根を超えるのですか?」
「……?」
意外な問いに、バニッシュはきょとんと目を瞬かせる。
「本来、どの種族も掟や理に縛られ、互いに理解することなどできない……できなかったのです。なのにここでは――人も、獣人も、エルフも、ドワーフも、魔族すらも……垣根を越えて共存している。そして……セラ様までも」
吐息のような声に、夜風が混ざる。
バニッシュは少しの間黙り、それから口を開いた。
「不思議か?」
「……理解はできません」
「そうだな」
バニッシュは頭をかきながら、夜空を見上げる。
「でも……たぶん、みんな“知らない”だけなんだと思う」
「知らない……?」
ようやくパグが振り返り、瞳を見開く。
「ああ。本当は分かり合えるはずなのに、掟や理に縛られて“知ろうとしなかった”んだ。だから壁があると思い込んで、超えられないって決めつけてきた。……まあ、俺もよく分かってるわけじゃないがな」
バニッシュは苦笑を浮かべ、再び空を仰ぐ。
月光がその横顔を淡く照らした。
パグも、同じように夜空を見上げる。
二人の視線が交わることはなく、ただ同じ星々の瞬きを静かに追っていた。
翌朝――。
畑に立った皆は、目を疑った。
昨日、セラが祈りを捧げた畑は、一夜にして活力を取り戻し、青々とした葉を茂らせ、瑞々しい実をつけていたのだ。
「うそでしょ……!」
リュシアが両手を腰に当て、目を丸くする。
「まるで何ヶ月も経ったかのようですね……」
セレスティナは感嘆を漏らし、輝く作物にそっと手を伸ばした。
「すごい……」
ライラが思わず微笑み、フォルは「やったー!」と飛び跳ねてはしゃぐ。
セラはにこにこと胸を張り、どこか得意げな顔を見せていた。
「これなら……」
バニッシュは頷き、畑を見渡す。
「新しい畑を広げて、さらに作物を増やすぞ」
さっそく役割が分けられた。
メイラ、ライラ、フォル、セレスティナ、リュシアは実った作物の収穫に。
ザイロ、グラド、そしてバニッシュは畑の拡張と種の植え付けに取りかかる。
額に汗を浮かべながら、皆の手は休むことなく動き続けた。
鎌の音、土を耕す音、笑い声。拠点は生き生きとした空気に包まれていた。
――その時。
バニッシュは、背筋を駆け抜けるような“違和感”を覚えた。
はっと顔を上げる。
「どうしたの?」
すぐ傍にいたリュシアが気づき、問いかける。
「ああ……誰かが、結界に入ってきた」
「本当ですか……?」
セレスティナの瞳が揺れる。
「とにかく確認してくる」
バニッシュは土を払って立ち上がった。
「私も行くわ!」
リュシアが鋭い声で言うが、バニッシュは首を横に振った。
「いや、今は畑を頼む。収穫を進めてくれ」
「……っ!」
リュシアは納得いかない顔をするが、それ以上は追わなかった。
バニッシュは駆けだす。
警戒を解かず、剣に手をかけながら結界の端へ向かう。
息を潜め、感覚を辿る。
森のざわめき、鳥の羽音。すべてを聞き分けながら進む。
そして、見つけた。
地面に横たわる……人影。
一瞬ぼろ布かと思った。だが、近づくと違った。
「人……?」
急いで駆け寄る。
そして、その姿を見た瞬間――バニッシュの胸が強く打った。
「……セリナ?」
かつて共に戦った、勇者一行の仲間。
今はボロボロに汚れ、痩せ細ったその体。だが間違いなく、彼女だった。
半信半疑で名を呼ぶと、セリナのまぶたがわずかに震え、か細い瞳がこちらを映した。
「……バニ……ッ」
声にならない声が零れ、次の瞬間、彼女は力尽きるように意識を失った。
バニッシュは、息を呑む。
心臓が高鳴り、喉が詰まる。
「セリナ……!」
その名を呼びながら、バニッシュは彼女を抱き起こした。
鼓動の確かさを感じ、安堵と混乱が入り混じる。
森の静寂の中、再会の衝撃だけが強く響いていた。
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