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星降る収穫祭編
星降る収穫祭
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「……まだ……っ」
膝をついたリュシアが、歯を食いしばりながら立ち上がろうとする。
身体は限界に近いが、だが――諦めるわけにはいかない。
「セリナを止めなきゃ……っ」
その前に――。
「もういい」
低く、静かな声が響いた。
リュシアが顔を上げると、そこにはバニッシュの背中があった。
「な……アンタ……」
「これ以上――お前たちを戦わせるわけにはいかん」
バニッシュは振り向かないまま、淡々と告げる。
その声は穏やかで、それでいて揺るぎない決意を帯びていた。
「何言ってんのよ! このままじゃ拠点が――!」
リュシアの叫びを、彼は短く遮った。
「わかってる」
淡い息が、夜の冷気に溶けて消える。
そして――彼は静かに言った。
「だから、俺がセリナを切る」
リュシアの瞳が大きく見開かれた。
「……っ!」
腰に下げた破邪の剣が、バニッシュの手によって抜かれる。
金属の擦れる音が夜に響き、次の瞬間、刀身が淡く光を帯びた。
それはまるで、バニッシュの覚悟に応えるようだった。
バニッシュは剣を握る手に力を込めた。
その横顔には、悲しみと覚悟が交錯していた。
「で、でも……!」
リュシアが一歩踏み出す。
その瞳には涙が滲んでいる。
「辛い思いをするのは――俺ひとりで十分だ。」
そう言って、振り向きざまに微笑んだ。
それはほんの一瞬、誰よりも優しい笑顔だった。
バニッシュは一歩、また一歩とセリナへ向かって踏み出す。
夜風が吹き、彼の外套をはためかせる。
その視線の先には――紅い双眸の少女。
「セリナ……!」
セリナの瞳が赤く光を放つ。
その両手が再び前に突き出され、魔力が渦巻く。
「断滅ノ業火!!!」
空気が裂け、無数の黒き光線が夜を駆けた。
まるで闇そのものが命を得たかのように、光がうねりながら襲いかかる。
「くっ……!」
バニッシュは剣を構え、前へと駆け出す。
剣身に淡い蒼光が灯る。
剣を振るたびに、光の軌跡が描かれ、飛来する黒光を弾き飛ばす。
しかし数は膨大で、攻撃の波は途切れない。
爆音、閃光、衝撃。
まるで夜空が崩壊するかのような連撃。
それでも――バニッシュは止まらなかった。
その歩みは遅くとも、確実にセリナへと近づいていく。
「セリナァァァァッ!!!」
叫びと共に、最後の光線を剣で切り裂く。
斬撃が残光を描き、黒い光を真っ二つに裂いた。
爆風が吹き荒れ、煙の中でバニッシュの姿が浮かび上がる。
その瞳に宿るのは――怒りでも、憐れみでもない。
ただひとつ、救うという覚悟だけだった。
剣閃が、夜を裂いた。
バニッシュの咆哮とともに、破邪の剣が光を放ち、一直線に振り下ろされる。
刃は確かに彼女をとらえた――そう、思った。
しかし、次の瞬間。
「……な、に……っ!?」
セリナの姿が黒い霧のように掻き消えた。
斬撃の感触も、血の気配もない。
そこにあったのはただ、ゆらめく闇の残滓だけ。
「幻影……!?」
背筋に寒気が走る。
その直後――背後から黒き光が閃いた。
「断罪ノ鎖!」
黒い十字架が地面から隆起するように現れ、
バニッシュの身体を貫き、そのまま拘束した。
「ぐっ……はぁっ――!」
焼けるような痛みが全身を走る。
力が抜け、膝をついたバニッシュの喉から息が漏れた。
「セリナ!」
「バニッシュ!!」
駆け寄ろうとしたリュシアとセレスティナの足元にも、同じ黒き十字架が現れる。
「断罪ノ鎖」
セリナの手がかざされると同時に、黒い光の柱が二人を襲う。
リュシアとセレスティナの身体が宙に浮き、十字に磔のように拘束された。
「くっ……動けない……!」
「魔力の鎖……これでは……っ!」
バニッシュも剣を握り締めるが、身体が言うことをきかない。
セリナの力は圧倒的だった。
――リュシアの懐から、何かがこぼれ落ちる。
小さな音が、夜の静寂に響いた。
土の上で転がり、月光に照らされたそれは――クローヴァの印。
赤・青・緑・黄の魔鉱石が淡く輝きながら、静かに光を放っていた。
セリナが、ゆっくりと歩み寄る。
リュシアとセレスティナに止めを刺すために。
その瞳は赤く、理性の欠片もない――はずだった。
「や、やめるんだ……セリナ……っ!」
「お願い、戻ってきて!!」
叫ぶバニッシュとリュシアの声が、夜風にかき消される。
セリナは聞いていない。
ただ、手をかざし、黒い光を練り上げていく。
その時――
足元で、淡い光が瞬いた。
赤、青、緑、黄。
まるで四人の心が呼び合うように、クローヴァの印が柔らかく輝く。
セリナの赤い双眸が、その光をとらえた。
「……ア、アア……」
その瞬間、世界が止まったように見えた。
セリナの中に、流れ込む記憶。
――笑い合うリュシアたちの顔。
――屋台で手を取り合い、イヤリングを付け合った瞬間。
――“私たち、ずっと友達だよ”と微笑む声。
セリナは頭を抱え、膝をつく。
黒い瘴気がゆらぎ、身体の周囲で不安定に明滅を始めた。
「ウ……ア、アアァァァァッ!!!」
両手で顔を覆い、喉の奥から苦しげな呻きが漏れる。
闇の魔力と、人の心がせめぎ合っている。
「セリナ!!!」
「セリナさん!!!」
リュシアとセレスティナの声が重なる。
その声は、確かに届いていた。
セリナの身体が小刻みに震え、
やがて――ゆっくりと顔を上げる。
月光の下、その瞳に宿る光が変わっていた。
右の瞳は、まだ紅く。
だが――左の瞳は、確かに“セリナ”のまま。
涙がその頬を伝い、地面に一滴落ちる。
「リュシア……セレスティナ……」
その声は震えていた。
悲しみと、恐怖と、そして――覚悟を秘めた声だった。
「わたし……どうして……」
夜風が吹き抜ける。
黒い瘴気が少しずつ薄れ、代わりに淡い光がセリナの周囲を包む。
バニッシュは息を詰めて、その姿を見つめていた。
リュシアは涙を流しながら叫ぶ。
「セリナ!! 戻ってきて!! アンタは――私たちの友達でしょ!!」
セリナの唇が震える。
目元に浮かぶ涙が月光を反射した。
「……ごめんね……みんな……」
震える声。
頬を伝う涙が、月の光にきらめいて落ちた。
セリナの唇がかすかに笑う。
「セリナ! 戻ってきて! まだ間に合うから!」
リュシアの叫びが夜に響く。
その声に、セリナは小さく首を振った。
「……もう、戻れないの」
赤い双眸の片方に映る月が揺れる。
その瞳はもう、怒りでも恐怖でもなかった。
「私の魂は……もう、闇に囚われてる。このままじゃ……みんなを傷つけちゃう……」
バニッシュの目が見開かれる。
リュシアとセレスティナの顔から血の気が引く。
「だから――ここで、終わりにするね。」
その言葉は、震えながらも確かな覚悟を宿していた。
そして、セリナは懐に手を伸ばす。
月光を受けて、銀に光る短剣が姿を現した。
――聖女の短剣。
かつてグラドが、セリナを「見極めるため」に渡したもの。
だが今、それは彼女の魔力と心を映す最後の器となっていた。
「や……やめろ、セリナ!」
「セリナさん、ダメですっ!」
止めようとする声を背に、セリナは静かに笑う。
それは、涙に濡れながらもどこか穏やかで――救われた人の笑顔だった。
「みんな……大好きだよ」
そして――短剣の切っ先を自らの胸に向けた。
「やめろォォォォッ!!!」
バニッシュの叫びが響いた瞬間、
赤い光が弾け、黒い瘴気が空を突き破った。
――ズドンッ!!!
大地が震え、森の木々がたわみ、夜風が悲鳴を上げる。
セリナの絶叫が、全てを貫いた。
「――あああああああああああああッ!!!」
禍々しい瘴気が噴き上がり、
その中心で、セリナの身体が光と闇の境を揺らめく。
リュシアとセレスティナは拘束から解かれ、地に崩れ落ちた。
バニッシュも剣を支えに立ち上がり、目を見開いたまま、その光景を見つめていた。
やがて――瘴気が霧散する。
残ったのは、一人の少女の姿。
血に染まった白い衣と、胸から溢れる赤。
セリナは人の姿のまま、地に倒れていた。
「セリナ……っ!」
バニッシュが駆け寄り、その身体を抱き上げる。
胸元から流れる血が彼の腕を濡らす。
「おい、しっかりしろ! 今すぐ治療を――!」
彼の叫びに、セリナは首を振った。
その動きさえ、もう力が入っていなかった。
「……私……みんなと……会えて……よかったよ……」
微笑みながら、息を整えようとする。
バニッシュは唇を噛みしめ、声が震える。
「何言ってやがる! 助ける! まだ間に合う!」
その言葉に、セリナはかすかに笑った。
「……もう、いいの」
そして視線を、リュシアとセレスティナへ向ける。
「ねぇ……私たち……ずっと、友達だよね?」
リュシアは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んだ。
「当たり前でしょ……!!!」
セレスティナも震える声で言う。
「ずっと……ずっと友達です……!」
セリナの瞳に涙が溢れ、頬を伝った。
「……よかっ――」
その言葉は、最後まで続かなかった。
バニッシュの腕の中で、セリナの身体から力が抜ける。
彼女の唇からは、もう言葉は出なかった。
その顔は穏やかで、まるで眠っているようだった。
「……セリナ……?」
リュシアの震える声が、夜の静寂に溶ける。
答えは、返らない。
セレスティナの頬を伝う涙が、セリナの手の上に落ちた。
その瞬間、クローヴァの印が淡く光を放ち――四色の輝きが夜空に舞い上がった。
満月が照らす森の中、バニッシュの嗚咽、リュシアの叫び、セレスティナの祈りが重なり合う。
――静寂。
バニッシュの腕の中で、セリナの身体は静かに息を潜めていた。
その顔は穏やかで、まるで眠っているようだった。
リュシアが震える手でセリナの頬に触れる。
温もりは、もうほとんど残っていなかった。
「……セリナ……」
リュシアの声が、月夜の空気に溶けて消える。
その瞬間――。
セリナの身体が淡く光を帯びた。
「……え?」
バニッシュの腕の中で、彼女の髪がほどけるように揺らぎ、その肌が、衣が、ゆっくりと霧のように崩れていく。
「な、なんだこれはっ……!? セリナっ!!」
彼女の身体は光の粒となり、やがて禍々しい瘴気に混じりながら、風に溶けていった。
「やだ……やだよ!! 消えないでよっ!!」
リュシアが涙を振り乱して手を伸ばす。
だが、その手は虚空をすり抜ける。
「セリナぁぁぁぁ!!!」
セレスティナの悲鳴が夜空に響く。
バニッシュは歯を食いしばり、消えゆく瘴気に手を伸ばすが――
「……っ!」
指先をすり抜け、光は風に運ばれて遠ざかっていく。
まるで誰かの手を振りほどくように、静かに、優しく。
やがて――闇の中で、ひとつの光が生まれた。
蛍のように淡く揺らめき、それは風に逆らうようにゆっくりと戻ってくる。
「……なんだ……?」
バニッシュたちの肩をかすめ、
その光は彼らの背後へ――そこに、いつの間にか彼女がいた。
「……セラ……?」
月の光を背に受け、白衣の裾を風に揺らしながら、セラフィ=リュミエールは静かにその手を差し伸べた。
小さな光は、彼女の掌にそっと舞い降りる。
「この人の魂は……はじめから、闇に呑まれていたの」
セラの声は、悲しみではなく――祈りに似ていた。
「ど、どういうことですか……?」
涙で濡れた目をこすりながら、セレスティナが問う。
セラの隣で羽ばたく神鳥パグが、静かに答える。
「彼女はここに来た時から、すでに人としての魂を失っていました。……もう戻せなかったのです」
「じゃあ、知ってて見過ごしてたっていうの……?」
リュシアが歯を食いしばり、涙を落とす。
パグは小さく首を振った。
「セラ様は女神です。たとえどんなことがあっても、直接、運命に干渉することはできません」
「そ、そんな……!」
セレスティナの声が震える。
セラはその二人を見て、優しく微笑んだ。
「でもね――あなたたちのおかげで、この人は人の心の欠片を、最後まで失わずにいられた」
その言葉に、リュシアは息を詰まらせる。
セラは手のひらの小さな光を見つめ、そっと胸に抱きしめるように目を閉じた。
「次に生まれてくる時は……」
ゆっくりと、光を空へと掲げる。
「どうか――幸あらんことを」
その祈りの言葉と共に、セラの身体は淡い金の光に包まれ、空中に浮かび上がった。
掌から解き放たれた光は夜空へと昇り――やがて一筋の流れ星となった。
ひとつ、またひとつ。
それは連なるように空を横切り、やがて空全体を覆う流星群となる。
「……きれい……」
リュシアが涙を拭いながら空を見上げた。
セレスティナも、バニッシュも、言葉を失っていた。
その頃、拠点では――祭りを楽しんでいた人々が、夜空を指さして歓声を上げていた。
「わぁ! 流れ星だ!」
「願い事しなきゃ!」
笑顔と歓喜の声が広場に満ちる。
誰も知らない――その星々が、一人の少女の涙であることを。
その夜、空には星が降った。
それは、悲しみと感謝、別れと祈りが交差する夜――後に、星降る収穫祭と呼ばれる夜だった。
膝をついたリュシアが、歯を食いしばりながら立ち上がろうとする。
身体は限界に近いが、だが――諦めるわけにはいかない。
「セリナを止めなきゃ……っ」
その前に――。
「もういい」
低く、静かな声が響いた。
リュシアが顔を上げると、そこにはバニッシュの背中があった。
「な……アンタ……」
「これ以上――お前たちを戦わせるわけにはいかん」
バニッシュは振り向かないまま、淡々と告げる。
その声は穏やかで、それでいて揺るぎない決意を帯びていた。
「何言ってんのよ! このままじゃ拠点が――!」
リュシアの叫びを、彼は短く遮った。
「わかってる」
淡い息が、夜の冷気に溶けて消える。
そして――彼は静かに言った。
「だから、俺がセリナを切る」
リュシアの瞳が大きく見開かれた。
「……っ!」
腰に下げた破邪の剣が、バニッシュの手によって抜かれる。
金属の擦れる音が夜に響き、次の瞬間、刀身が淡く光を帯びた。
それはまるで、バニッシュの覚悟に応えるようだった。
バニッシュは剣を握る手に力を込めた。
その横顔には、悲しみと覚悟が交錯していた。
「で、でも……!」
リュシアが一歩踏み出す。
その瞳には涙が滲んでいる。
「辛い思いをするのは――俺ひとりで十分だ。」
そう言って、振り向きざまに微笑んだ。
それはほんの一瞬、誰よりも優しい笑顔だった。
バニッシュは一歩、また一歩とセリナへ向かって踏み出す。
夜風が吹き、彼の外套をはためかせる。
その視線の先には――紅い双眸の少女。
「セリナ……!」
セリナの瞳が赤く光を放つ。
その両手が再び前に突き出され、魔力が渦巻く。
「断滅ノ業火!!!」
空気が裂け、無数の黒き光線が夜を駆けた。
まるで闇そのものが命を得たかのように、光がうねりながら襲いかかる。
「くっ……!」
バニッシュは剣を構え、前へと駆け出す。
剣身に淡い蒼光が灯る。
剣を振るたびに、光の軌跡が描かれ、飛来する黒光を弾き飛ばす。
しかし数は膨大で、攻撃の波は途切れない。
爆音、閃光、衝撃。
まるで夜空が崩壊するかのような連撃。
それでも――バニッシュは止まらなかった。
その歩みは遅くとも、確実にセリナへと近づいていく。
「セリナァァァァッ!!!」
叫びと共に、最後の光線を剣で切り裂く。
斬撃が残光を描き、黒い光を真っ二つに裂いた。
爆風が吹き荒れ、煙の中でバニッシュの姿が浮かび上がる。
その瞳に宿るのは――怒りでも、憐れみでもない。
ただひとつ、救うという覚悟だけだった。
剣閃が、夜を裂いた。
バニッシュの咆哮とともに、破邪の剣が光を放ち、一直線に振り下ろされる。
刃は確かに彼女をとらえた――そう、思った。
しかし、次の瞬間。
「……な、に……っ!?」
セリナの姿が黒い霧のように掻き消えた。
斬撃の感触も、血の気配もない。
そこにあったのはただ、ゆらめく闇の残滓だけ。
「幻影……!?」
背筋に寒気が走る。
その直後――背後から黒き光が閃いた。
「断罪ノ鎖!」
黒い十字架が地面から隆起するように現れ、
バニッシュの身体を貫き、そのまま拘束した。
「ぐっ……はぁっ――!」
焼けるような痛みが全身を走る。
力が抜け、膝をついたバニッシュの喉から息が漏れた。
「セリナ!」
「バニッシュ!!」
駆け寄ろうとしたリュシアとセレスティナの足元にも、同じ黒き十字架が現れる。
「断罪ノ鎖」
セリナの手がかざされると同時に、黒い光の柱が二人を襲う。
リュシアとセレスティナの身体が宙に浮き、十字に磔のように拘束された。
「くっ……動けない……!」
「魔力の鎖……これでは……っ!」
バニッシュも剣を握り締めるが、身体が言うことをきかない。
セリナの力は圧倒的だった。
――リュシアの懐から、何かがこぼれ落ちる。
小さな音が、夜の静寂に響いた。
土の上で転がり、月光に照らされたそれは――クローヴァの印。
赤・青・緑・黄の魔鉱石が淡く輝きながら、静かに光を放っていた。
セリナが、ゆっくりと歩み寄る。
リュシアとセレスティナに止めを刺すために。
その瞳は赤く、理性の欠片もない――はずだった。
「や、やめるんだ……セリナ……っ!」
「お願い、戻ってきて!!」
叫ぶバニッシュとリュシアの声が、夜風にかき消される。
セリナは聞いていない。
ただ、手をかざし、黒い光を練り上げていく。
その時――
足元で、淡い光が瞬いた。
赤、青、緑、黄。
まるで四人の心が呼び合うように、クローヴァの印が柔らかく輝く。
セリナの赤い双眸が、その光をとらえた。
「……ア、アア……」
その瞬間、世界が止まったように見えた。
セリナの中に、流れ込む記憶。
――笑い合うリュシアたちの顔。
――屋台で手を取り合い、イヤリングを付け合った瞬間。
――“私たち、ずっと友達だよ”と微笑む声。
セリナは頭を抱え、膝をつく。
黒い瘴気がゆらぎ、身体の周囲で不安定に明滅を始めた。
「ウ……ア、アアァァァァッ!!!」
両手で顔を覆い、喉の奥から苦しげな呻きが漏れる。
闇の魔力と、人の心がせめぎ合っている。
「セリナ!!!」
「セリナさん!!!」
リュシアとセレスティナの声が重なる。
その声は、確かに届いていた。
セリナの身体が小刻みに震え、
やがて――ゆっくりと顔を上げる。
月光の下、その瞳に宿る光が変わっていた。
右の瞳は、まだ紅く。
だが――左の瞳は、確かに“セリナ”のまま。
涙がその頬を伝い、地面に一滴落ちる。
「リュシア……セレスティナ……」
その声は震えていた。
悲しみと、恐怖と、そして――覚悟を秘めた声だった。
「わたし……どうして……」
夜風が吹き抜ける。
黒い瘴気が少しずつ薄れ、代わりに淡い光がセリナの周囲を包む。
バニッシュは息を詰めて、その姿を見つめていた。
リュシアは涙を流しながら叫ぶ。
「セリナ!! 戻ってきて!! アンタは――私たちの友達でしょ!!」
セリナの唇が震える。
目元に浮かぶ涙が月光を反射した。
「……ごめんね……みんな……」
震える声。
頬を伝う涙が、月の光にきらめいて落ちた。
セリナの唇がかすかに笑う。
「セリナ! 戻ってきて! まだ間に合うから!」
リュシアの叫びが夜に響く。
その声に、セリナは小さく首を振った。
「……もう、戻れないの」
赤い双眸の片方に映る月が揺れる。
その瞳はもう、怒りでも恐怖でもなかった。
「私の魂は……もう、闇に囚われてる。このままじゃ……みんなを傷つけちゃう……」
バニッシュの目が見開かれる。
リュシアとセレスティナの顔から血の気が引く。
「だから――ここで、終わりにするね。」
その言葉は、震えながらも確かな覚悟を宿していた。
そして、セリナは懐に手を伸ばす。
月光を受けて、銀に光る短剣が姿を現した。
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かつてグラドが、セリナを「見極めるため」に渡したもの。
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「や……やめろ、セリナ!」
「セリナさん、ダメですっ!」
止めようとする声を背に、セリナは静かに笑う。
それは、涙に濡れながらもどこか穏やかで――救われた人の笑顔だった。
「みんな……大好きだよ」
そして――短剣の切っ先を自らの胸に向けた。
「やめろォォォォッ!!!」
バニッシュの叫びが響いた瞬間、
赤い光が弾け、黒い瘴気が空を突き破った。
――ズドンッ!!!
大地が震え、森の木々がたわみ、夜風が悲鳴を上げる。
セリナの絶叫が、全てを貫いた。
「――あああああああああああああッ!!!」
禍々しい瘴気が噴き上がり、
その中心で、セリナの身体が光と闇の境を揺らめく。
リュシアとセレスティナは拘束から解かれ、地に崩れ落ちた。
バニッシュも剣を支えに立ち上がり、目を見開いたまま、その光景を見つめていた。
やがて――瘴気が霧散する。
残ったのは、一人の少女の姿。
血に染まった白い衣と、胸から溢れる赤。
セリナは人の姿のまま、地に倒れていた。
「セリナ……っ!」
バニッシュが駆け寄り、その身体を抱き上げる。
胸元から流れる血が彼の腕を濡らす。
「おい、しっかりしろ! 今すぐ治療を――!」
彼の叫びに、セリナは首を振った。
その動きさえ、もう力が入っていなかった。
「……私……みんなと……会えて……よかったよ……」
微笑みながら、息を整えようとする。
バニッシュは唇を噛みしめ、声が震える。
「何言ってやがる! 助ける! まだ間に合う!」
その言葉に、セリナはかすかに笑った。
「……もう、いいの」
そして視線を、リュシアとセレスティナへ向ける。
「ねぇ……私たち……ずっと、友達だよね?」
リュシアは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んだ。
「当たり前でしょ……!!!」
セレスティナも震える声で言う。
「ずっと……ずっと友達です……!」
セリナの瞳に涙が溢れ、頬を伝った。
「……よかっ――」
その言葉は、最後まで続かなかった。
バニッシュの腕の中で、セリナの身体から力が抜ける。
彼女の唇からは、もう言葉は出なかった。
その顔は穏やかで、まるで眠っているようだった。
「……セリナ……?」
リュシアの震える声が、夜の静寂に溶ける。
答えは、返らない。
セレスティナの頬を伝う涙が、セリナの手の上に落ちた。
その瞬間、クローヴァの印が淡く光を放ち――四色の輝きが夜空に舞い上がった。
満月が照らす森の中、バニッシュの嗚咽、リュシアの叫び、セレスティナの祈りが重なり合う。
――静寂。
バニッシュの腕の中で、セリナの身体は静かに息を潜めていた。
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リュシアが震える手でセリナの頬に触れる。
温もりは、もうほとんど残っていなかった。
「……セリナ……」
リュシアの声が、月夜の空気に溶けて消える。
その瞬間――。
セリナの身体が淡く光を帯びた。
「……え?」
バニッシュの腕の中で、彼女の髪がほどけるように揺らぎ、その肌が、衣が、ゆっくりと霧のように崩れていく。
「な、なんだこれはっ……!? セリナっ!!」
彼女の身体は光の粒となり、やがて禍々しい瘴気に混じりながら、風に溶けていった。
「やだ……やだよ!! 消えないでよっ!!」
リュシアが涙を振り乱して手を伸ばす。
だが、その手は虚空をすり抜ける。
「セリナぁぁぁぁ!!!」
セレスティナの悲鳴が夜空に響く。
バニッシュは歯を食いしばり、消えゆく瘴気に手を伸ばすが――
「……っ!」
指先をすり抜け、光は風に運ばれて遠ざかっていく。
まるで誰かの手を振りほどくように、静かに、優しく。
やがて――闇の中で、ひとつの光が生まれた。
蛍のように淡く揺らめき、それは風に逆らうようにゆっくりと戻ってくる。
「……なんだ……?」
バニッシュたちの肩をかすめ、
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「……セラ……?」
月の光を背に受け、白衣の裾を風に揺らしながら、セラフィ=リュミエールは静かにその手を差し伸べた。
小さな光は、彼女の掌にそっと舞い降りる。
「この人の魂は……はじめから、闇に呑まれていたの」
セラの声は、悲しみではなく――祈りに似ていた。
「ど、どういうことですか……?」
涙で濡れた目をこすりながら、セレスティナが問う。
セラの隣で羽ばたく神鳥パグが、静かに答える。
「彼女はここに来た時から、すでに人としての魂を失っていました。……もう戻せなかったのです」
「じゃあ、知ってて見過ごしてたっていうの……?」
リュシアが歯を食いしばり、涙を落とす。
パグは小さく首を振った。
「セラ様は女神です。たとえどんなことがあっても、直接、運命に干渉することはできません」
「そ、そんな……!」
セレスティナの声が震える。
セラはその二人を見て、優しく微笑んだ。
「でもね――あなたたちのおかげで、この人は人の心の欠片を、最後まで失わずにいられた」
その言葉に、リュシアは息を詰まらせる。
セラは手のひらの小さな光を見つめ、そっと胸に抱きしめるように目を閉じた。
「次に生まれてくる時は……」
ゆっくりと、光を空へと掲げる。
「どうか――幸あらんことを」
その祈りの言葉と共に、セラの身体は淡い金の光に包まれ、空中に浮かび上がった。
掌から解き放たれた光は夜空へと昇り――やがて一筋の流れ星となった。
ひとつ、またひとつ。
それは連なるように空を横切り、やがて空全体を覆う流星群となる。
「……きれい……」
リュシアが涙を拭いながら空を見上げた。
セレスティナも、バニッシュも、言葉を失っていた。
その頃、拠点では――祭りを楽しんでいた人々が、夜空を指さして歓声を上げていた。
「わぁ! 流れ星だ!」
「願い事しなきゃ!」
笑顔と歓喜の声が広場に満ちる。
誰も知らない――その星々が、一人の少女の涙であることを。
その夜、空には星が降った。
それは、悲しみと感謝、別れと祈りが交差する夜――後に、星降る収穫祭と呼ばれる夜だった。
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“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
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無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
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かつて勇者パーティーに所属していたジル。
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クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
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「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
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スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
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※小説家になろうにて掲載中
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