勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま

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縁の決戦編

静かな転換点

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「まずは――ミスティリアでのフリーマーケット……露店での収支についてだ」

 バニッシュはそう切り出し、円卓を囲む皆を見渡した。

「結論から言うと、持っていった物は……すべて完売した」

 一瞬の沈黙。

「全部……?」

 グラドが目を瞬かせ、ライラが驚いたように口を開き、フォルが「すごい!」と小さく声を上げる。

「ああ。ポンさんとゴンタのおかげだ」

 バニッシュはそう言って、少しだけ表情を緩める。

「商売の段取り、挨拶回り、売るタイミング……全部がかみ合うように動いてくれた。正直、俺たちだけだったら、あそこまで上手くはいかなかったと思う」

 そしてバニッシュは、自然と視線をツヅラへと向ける。

「……それと、二人を紹介してくれたツヅラには、本当に感謝している」

「ふふ」

 ツヅラは扇で口元を隠し、妖艶に目を細める。

「お役に立てて何よりや。ウチは縁を繋いだだけやさかい。それをものにしたんはあんたらや。結果としては、上出来やったんやろ?」

「まあ……予想以上にな」

 バニッシュが苦笑混じりにそう答えると、グラドが腕を組んだまま口を開いた。

「……で?」

 片眉をつり上げ、じっとバニッシュを見る。

「道具の仕入れはどうしたんだ。帰ってきたとき、何も持ってなかったが」

 その言葉に、場の空気がわずかに変わる。

 メイラが不安そうにザイロを見る。
 ザイロは無言のまま、だが真剣な眼差しをバニッシュに向けていた。
 フィリアも、ツヅラも、セレスティナも――皆、続きを待っている。

「……それについてだが」

 バニッシュは一度、言葉を切った。
 そして、頭をかきながら、少し困ったように息を吐く。

「正直に言う。話は、ちょっと……いや、だいぶ複雑だ」

 バニッシュは一呼吸置き、ゆっくりと続ける。

「――露店が終わったあと、俺たちは商業ギルドに呼ばれたんだ」

 バニッシュがそう切り出すと、広間に集まる面々の視線が一斉に集まった。

「呼ばれた……?」

 グラドが目を丸くして問い返す。

「どういうことだ?」

「原因は単純だ。持っていった品が、どれも希少性が高くて、入手困難な物ばかりだったからだ」

 バニッシュの説明に、ツヅラが軽く扇を開き、納得したように頷く。

「なるほどなぁ。ザキュロの実に魔紅果の酒――それだけでも十分目立つのに、ウチらが出した米もルガンディアそのものが消えてもうた今、市場に出回っとらん。そんなもん持ち込んだら、そら疑われるわなぁ」

「当然だな」

 フィリアが眼鏡を指で押し上げ、冷静に言い切る。

「そもそもエルフはザキュロの実を市場になど出さない。……女狐にうまく丸め込まれて提供したのが、そもそもの間違いだったな」

 一瞬、空気が止まる。
 ツヅラが楽しそうに目を細め、わざとらしくため息をついた。

「おーおーまだ好物取られたこと、根に持っとるんかいな。堅物なだけやのうて、心まで狭いんは難儀やなぁ」

「……なんだと!?」

 フィリアがガタンと身を乗り出し、額に青筋を浮かべる。

「誰が心が狭いだ! あれは誇りだと言っているだろう!」

「はいはい、誇り誇り」

 ツヅラは扇でひらひらと手を振り、完全に面白がっている。

「せやけど結果的に売れて、拠点のためになったんやからええやろ?」

「理屈の問題だ!」

「そんな感情むき出しに言われてもなぁ」

「貴様……!」

 火花が散りそうな二人の間に、バニッシュが慌てて割って入る。

「おいおい、ケンカするなって。どっちの言い分もわかるけど、今はそこが問題じゃない」

 二人は一瞬だけ睨み合い、ふん、と同時に顔を背けた。
 その様子に、ライラが小さく苦笑し、フォルは「またやってる……」と小声で呟く。

「……とにかくだ」

 バニッシュは一度、咳払いをして場の空気を引き締めた。

「ギルド側から、入手経路について説明を求められた。だから俺は――全部、拠点での収穫物だと説明した」

 その言葉に、広間の空気がわずかに張り詰める。

「だが当然、そう簡単に信じてもらえる話じゃない。だから、その信憑性を確かめるために……拠点の視察を行うことになった」

「なるほどな」

 フィリアが顎に指を当て、静かに問いかける。

「それは、いつ頃になるのだ?」

「一日の猶予をもらった。だから――明後日には、ミスティリア側の人間がここに来るはずだ」

 バニッシュの言葉に、ツヅラが扇を軽く叩きながら苦笑する。

「なんやそれ。ずいぶん急ぎ足やないか」

「そりゃそうでしょ」

 リュシアが肩をすくめて言う。

「今回の商売、かなり話題になったみたいだし――しかも、商会も動いてるって話も出てたんだから、放っといたら、大変なことになるわ」

「……確かにな」

 グラドが腕を組み、低く唸る。

「連中は、匂いを嗅ぎつけたら容赦なく群がってくる。希少な商材があると知れ渡れば、なおさらだ」

「だからこそ」

 バニッシュは一人ひとりの顔を見渡し、ゆっくりと言葉を続ける。

「今回の視察は避けられない。隠し立てするつもりもないし、俺たちがここで何をしてきたのか――そのまま、見てもらうしかない」

 広間に、短い沈黙が落ちる。
 魔の森の拠点で多種族が共に暮らし、力を寄せ合って築いてきた場所。
 それを、外の世界の目に晒すという意味を、誰もが理解していた。

「……面白なってきたやないの」

 沈黙を破ったのは、ツヅラだった。
 扇の奥で口元を隠しながら、愉しげに目を細める。

「ウチらが信じて積み上げてきたもんが、本物かどうか見てもらおうやないか」

「不安もあるが……」

 フィリアが静かに言葉を継ぐ。

「同時に、誇るべきことでもある。我々が成してきたことに、やましい点はない」

 リュシアは胸の前で拳を握りしめ、真っ直ぐに頷いた。

「そうよ! だったら、ちゃんと見せてあげればいいのよ! 私たちの拠点が、どんな場所か」

 その言葉に、バニッシュは小さく笑う。

「……ああ。そうだな」

 そうして彼は、決意を込めて言い切った。

「明後日までに、できる準備は全部やろう。俺たちの今を、そのまま胸を張って見せるためにな」

 おお!という掛け声と共に皆が視察に向けて意気投合する。
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