勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま

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縁の決戦編

最強のコンビ

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「やったわね!」

 リュシアは思わず声を弾ませ、セレスティナへと勢いよく手を伸ばした。

「ええ……正直、結構ギリギリでしたけどね」

 セレスティナもそれを受け、疲労を滲ませながらも、ほっとしたように微笑む。
 ぱちんと、乾いた音が響く。

 二人の間に、確かな手応えと――勝利の余韻が広がった。
 あの七魔将を氷塊の中に封じた。
 そう、思った時だった。

「……ふふ……」

 空気そのものが、震えるような笑い声が響いた。

「……ッ!」

 リュシアとセレスティナは、同時に息を呑む。
 反射的に、視線が――巨大な氷塊へと向けられた。
 
 氷塊の中心から――黒い闇が、じわじわと滲み出している。
 まるで、氷を内側から腐食するかのように。

「……そ、そんな……」

 リュシアの喉から、かすれた声が零れる。

「……まさか……」

 セレスティナの顔から、血の気が引いた。
 闇は、徐々に広がっていき、凍てついた氷を、音もなく喰らい尽くしていく。
 
 バキバキバキ……!!

 嫌な音が、森に響き渡る。

「……ッ!」

 氷塊に、無数の亀裂が走る。

 ドンッ!!

 巨大な氷塊は、真っ二つに割れた。
 砕け散る氷片の中から、ゆっくりと――それが姿を現す。
 全身に、黒い闇を纏った男――ヴェイル。
 フードの奥で、不気味な笑みが浮かんでいた。

「見事……実に見事ですよ」

 愉悦に満ちた声が、氷の破片の中から響く。

「七魔将相手に、ここまでやるとは、ですが……やはり、この程度」

 ヴェイルの闇が、ゆらりと揺れる。

「さて……本当に――お遊びは、終わりにしましょうか」

 砕けた氷の残骸の中で、ヴェイルは静かに告げた。
 ヴェイルの闇の魔力が、一段階、否――別物へと変質する。
 濃く、重く、粘つくような闇が空気を圧し潰し、森全体が沈み込む。

「……ッ!」

 ぞくり、と背筋を凍らせる本能的な危機感に、リュシアとセレスティナは反射的に構えた。
 リュシアは両手に紅蓮の魔力を練り、セレスティナは即座に矢を番える。

「では……少々、手荒になりますが……失礼」

 ヴェイルの声が、耳元で響いたと思った瞬間、リュシアの目の前にいた。
 速い――そんな次元ではない。
 移動した、という認識すらできなかった。
 まるで、意識の“外側”から、突然現れたかのように。

「――ッ!!」

 リュシアが反射的に身構えようとした、その刹那、ヴェイルが、静かに手を翳す。
 そこから漏れ出したのは、闇の重圧がリュシアに重くのしかかる。

「……っ、う……!」

 リュシアは金縛りにあったかのように、体の自由を奪われる。

「離れなさい!!」

 叫びながら、セレスティナが弓を引き絞る。
 
「貴女も……そろそろ、黙ってもらいましょうか」

 ヴェイルの声が、冷たく響く。
 振り返りすらせず、リュシアを拘束したまま、もう一方の手を――セレスティナへ翳す。

「――冥柩の檻ノクターナル・カスク

 空間に、黒紫の魔法陣が描かれる。
 重厚で禍々しい紋様が回転し、閉じる。
 
 ガシャン!!

 黒鉄の檻が、突如として出現し、セレスティナを完全に閉じ込めた。

「……っ!!」

「セレス!!」

 リュシアは歯を食いしばり、全身の魔力を無理やり逆流させる。

「う……あぁぁっ!!」

 拘束を引き剥がすように、紅蓮の魔力を練り上げ――無理やり、身体を動かす。

「この……!」

 爆炎魔法を放とうと、腕を振り上げた、その瞬間。

「おっと……やめたほうが、よろしいですよ」

 楽しげな声が、耳に刺さる。
 ヴェイルは、フードの奥で愉悦に満ちた笑みを浮かべているのだろう。

「そうでないと――」

 セレスティナへ向けていた手を、ぐっと、握り締めた。

 ――ギギ……ッ。

 鈍く、不吉な音。
 黒鉄の檻が、内側へと収縮する。

「……うっ、ぁ……!」

「な……ッ!!」

 リュシアは、寸前で爆炎を止めた。
 一歩間違えば、セレスティナが――捻り潰される。

「……セレスを……離しなさい……!」

 リュシアの叫びは、怒りと恐怖が入り混じった、かすれた声だった。

「ええ、リュシア様が――私と共に来る、というのであれば、すぐにでも、解放して差し上げましょう」

「私は――!」

 リュシアが、必死に言葉を紡ごうとする。

「……よいのですか?」

 ヴェイルの声が、被せるように割り込む。

「大切なお仲間が――死んでしまいますよ」

 その言葉と同時に、ぎゅっ――ヴェイルの指が、さらに強く握られた。

「……っ、ぐ……!!」

 黒鉄の檻が、また一段階、内側へと収縮する。
 金属が悲鳴を上げるような音が響き、檻の隙間が狭まっていく。

「……っ、ダメです……!」

 苦しげな息の合間から、セレスティナの声が零れ落ちる。

「リュシア……! いけません……!!」

「……っ!」

 リュシアの喉が、ひくりと鳴った。
 どうすればいいのか、分からない。
 力を振るえば、セレスティナが死ぬ。
 従えば、自分が――居場所を失う。
 唇を、ぎりっと噛み締める。
 血の味が、口の中に広がった。

「……悩んでいる時間なんて、ありませんよ」

 ヴェイルの声は、どこまでも冷静だった。

「簡単な話です。私と共に来るか、仲間を見捨て、抗い続けるか、二つに一つです」

 檻が、さらに――ぎしり、と軋む。
 ヴェイルの闇が、リュシアを包み込むように迫る。

「……っ、はぁ……はぁ……」

 檻の中で、セレスティナは苦しげに肩で息をしながらも、
 必死にリュシアを見上げた。
 その瞳には――恐怖よりも、強い意志が宿っていた。

「……そんな……奴の……口車に……乗っては……いけません……!」

「……セレス……」

 リュシアの胸が、ぎゅっと締め付けられる。
 守りたい人が、自分を守ろうとしている。
 その事実が――リュシアの心を、さらに引き裂いた。
 ヴェイルは、その光景を見下ろしながら、満足そうに、静かに笑った。

「さあ……どうするのですか?」

 ヴェイルの声が、冷酷に響く。
 その問いと同時に、ぎし……ぎし……と、黒鉄の檻がさらに収縮した。

「……っ、ぐ……ぁ……」

 檻の中から、セレスティナの苦しげな声が漏れる。
 呼吸が乱れ、身体が限界に近づいていることが、はっきりと分かった。

「や……やめて……!!」

 リュシアの瞳から、涙が弾け飛ぶ。
 声は震え、懇願するように、叫ぶしかなかった。

「お願い……やめて……!!」

 だが、ヴェイルは止まらない。

「……わかった……」

 ぽつりと、リュシアは俯き、震える声でそう呟いた。
 両手を、ぎゅっと――痛みが走るほど、強く握り締める。
 これは、自分の意思に反した選択。
 誇りも、居場所も、未来も――失う選択。
 それでも、セレスティナを救うためなら。
 ヴェイルは、その気配を敏感に察し、フードの奥で――にやりと笑った気配を漂わせる。

「賢明なご判断です、リュシア様」

 その声が、最後の一押しとなる。
 檻の中で、セレスティナが必死に顔を上げた。

「……リュシア……」

 苦しさに耐えながらも、必死に、首を振る。

「……ダメ……です……」

 それでも、リュシアは――前を向いた。

「私は……」

 涙をこぼしたまま、それでも、言葉を紡ごうとする。

「私は……アンタに……つい――」

 ――その瞬間、凛とした声が響く。

「爆ぜぇ――」

バギィィイン――!!

 耳をつんざく破砕音と共に、黒鉄の檻が内側から粉々に砕け散った。

「……っ!」

 衝撃に弾かれるように、セレスティナの身体が解放され、
 そのまま地面へと倒れ込む。

「これは……!?」

 ヴェイルは、思わず声を上げた。
 冥柩の檻――七魔将の拘束魔法が、強引に破壊されたという事実。
 それは、ヴェイルにとっても予想外だった。
 
「吹き飛び――」

 鋭い声が、森を裂く。

 ドゴォンッ!!

 凄まじい衝撃が、ヴェイルの身体を正面から捉えた。
 闇の魔力が弾け、空気が爆ぜる。

「――ぐっ!?」

 ヴェイルは為す術もなく、数十メートル先まで吹き飛ばされる。
 地面に着地した直後も勢いは止まらず、ずざざざざっと土を抉りながら踏ん張り、ようやく体勢を立て直した。

「……はぁ……はぁ……」

 解放されたセレスティナは、荒く息を吐きながら、震える腕で地面を押し、なんとか上半身を起こす。

「セレス……!」

 リュシアはすぐさま駆け寄り、その身体を支える。

「大丈夫……です……まだ……」

 気丈に微笑もうとするセレスティナの姿に、リュシアの胸が強く締め付けられた。

「……この力……まさか……」

 土煙の向こうで、ヴェイルがゆっくりと顔を上げる。
 その声には――これまで一切なかった警戒の色が混じっていた。

「危ないとこやったなぁ」

 聞き慣れた妖艶な声が、森の奥から響く。
 闇に覆われた木立の影から――しゃなりと、一人の人物が姿を現した。

「……ツヅラ……!?」

 リュシアは、思わず目を見開く。
 胸の奥に張り詰めていた何かが、わずかに緩む。

「私もいるぞ」

 頭上からも声が聞こえる。

「――ッ!」

 直後、風を圧縮した弾丸が、数発――ヴェイルめがけて降り注いだ。

 ドン! ドン! ドン!

「ちっ……!」

 ヴェイルは即座に跳び退き、闇の霧を散らしながらそれを回避する。
 彼が上空を見上げた、その先――風を纏い、まるで羽根のように軽やかにフィリアが、ふわりと地へと降り立った。

「……フィリア――!」

 リュシアの声に、彼女は軽く視線を向ける。
 短いが、確かな頷き応える。

「……どうやって……ここが分かったのですか……?」

 息を切らせながら、セレスティナは顔を上げ、ツヅラとフィリアを見つめた。
 拘束から解放されたばかりの身体はまだ重く、それでも、その瞳には確かな疑問と安堵が宿っている。

「そないなもん、簡単や、ウチの群律の導きで、居場所を掴んだだけや」
 ツヅラは、ぱちりと扇を開き、口元を隠すようにして――金の瞳を細めて微笑んだ。
 
「後は、そこの堅物が――空、飛べる言うから、運んでもろうただけや」

「……誰が、堅物だ」

 即座に、低く不機嫌そうな声が返る。
 フィリアは腕を組み、眼鏡の奥で鋭い視線を光らせた。

「キャンキャン喚く女狐がいたから、仕方なく――運んでやっただけだ」

 ――バチバチと、二人の視線が、火花を散らすように交錯する。

「……ちょ、ちょっと……!」

 リュシアが慌てて間に割って入り、
 両手を広げて二人を制する。
 呆れと安堵が入り混じった声。
 それを聞いて、ツヅラはふっと肩の力を抜いた。

「まあまあ、分かっとる分かっとる」

 軽く扇で風を送りながら、セレスティナとリュシアを一瞥する。

「アンタらは、もう休んどき」

 その声は、冗談めいていながらも――確かな信頼を含んでいた。

「ここから先は――我らが、引き受ける」

 隣で、フィリアが一歩前へ出る。

 その瞬間、ツヅラとフィリアの視線が――同時に、前方へと向けられた。

 闇を纏い、警戒を隠そうともせず、こちらを静かに見据える――ヴェイルの姿。
 
「で、でも……」

 リュシアは不安そうに一歩踏み出しかけた。
 
「ええから、ええから」

 ツヅラは軽く手を振り、いつもの調子で笑ってみせる。

「アンタもアイツと因縁があるみたいやがな……ウチも――あの男に、ちょいとした借りがあるんや」

 その言葉に添えられた微笑みは、柔らかい。
 だが――その奥で、金の瞳が鋭く光った。
 獲物を見据える、捕食者の目だった。

「……ルガンディアのツヅラ、それに――エルフェインのフィリア……」

 初めて、はっきりとした警戒が滲む。

「なぜ……貴女方が、ここに……?」

「久しぶりやなぁ」

 ツヅラは一歩前へ出て、妖艶な笑みを浮かべながら、ヴェイルを見据えた。

「……貴女方の国は、確かに――滅ぼしたはず……」

「ああ、確かにな。だが――我々は、生き延びた」

 フィリアが静かに応じる。
 その声は冷静でありながらも感情を抑え込んだものだった。
 眼鏡の奥から、鋭い視線が突き刺さる。

「ホンマ……ようやってくれたわ」

 ツヅラの声が、少しだけ低くなる。
 軽い口調とは裏腹に、そこに宿る感情は、決して軽くない。

「なるほど……」

 ヴェイルは小さく息を吐き、
 再び冷静さを取り戻す。

「それで――わざわざ、殺されに出て来た……というわけですか?」

 挑発するように、愉悦を滲ませた笑い声が、森に響く。

「そんなわけないだろう。我々は、愚かではない」

「せやなぁ、ただ――アンタから貰った借りを……今ここでキッチリ返したるわ」

 ツヅラは、口角を上げる。
 金の瞳が鋭く光る。

 ヴェイルは二人を見据え、そして――ゆっくりと、闇の魔力を練り上げる。
 空気が、重く沈む。
 
 七魔将・黒蝕卿ヴェイル=ラグレス。
 対するは、犬猿ながらも最強のコンビ。
 因縁は――今、血と魔力をもって、清算されようとしていた。
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