勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま

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縁の決戦編

格の違い

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「随分と――自信がおありのようですが」

 ヴェイルは、薄く笑った。

「ツヅラ。貴女のスキル――《群律》は、既に私には通用しないのは、既に承知しているでしょう」

 嘲笑うようにヴェイルはツヅラに手を差し向ける。

「……ふっ」

 ツヅラの喉から、短い笑いが零れた。
 扇の奥で、くつりと笑い愉快そうにヴェイルを見る。

「前と同じや思うとるやなんて、アンタも――案外、大したことないなぁ?」

 金の瞳が、細く鋭く光り、挑発するようにニヤリと笑う。

「……下らない。そもそも、貴女方程度では――私の相手には、なりません」

 ヴェイルの声から、わずかな感情が消える。

「なら、試してみるか」
 
 ツヅラは扇を畳み、ポンと掌を叩く。

「……試させてほしい、のですか?」

 ヴェイルのフードの奥で見えぬ笑みが、それでも確かに口元が三日月のように吊りあがるのを感じた。
 その瞬間――空気が、張り詰めた。
 森のざわめきが消え、風が止み、音という音が遠ざかる。
 世界が停止したかのような静寂が落ちる。

 様子を見守るリュシアとセレスティナの喉がゴクリと鳴る。
 
 最初に動いたのは、ヴェイルだった。
 フードの裾を翻すように、片手を払う。
 
 闇が――刃となって地を這った。
 波状にうねる黒い斬撃が、地面を抉り、空気を裂き、一直線にツヅラとフィリアへと襲いかかる。

 ツヅラは、金の瞳を細め――群律を発動する。

「爆ぜぇ――!」

 目に見えぬ律動が、瞬間的に周囲へ波及する。

 ――ドンッ!!

 闇の波状斬撃は、命中する寸前で内側から弾け飛んだ。
 まるで、存在を否定されたかのように。

 ヴェイルの影が、わずかに動く。
 
 ゴウッ!!

 突風と共に、フィリアが風を纏って上空へと跳び上がる。

「――行くぞ」

 短く告げ、両手を突き出す。
 圧縮された風が、弾丸となって数発、一直線にヴェイルへと撃ち込まれた。

「ちっ……!」

 ヴェイルは即座に片手を翳す。
 闇が薄く広がり、半透明の膜となって、前方を覆う。

 ドン! ドン! ドン!

 風の弾丸が次々と闇膜に命中し、衝撃音と共に弾かれる。
 だが――衝撃は、確かに伝わっていた。
 闇の膜が、微かに揺らぐ。
 ツヅラは、その様子を見逃さず、口元に、妖艶な笑みを浮かべる。

 フィリアの放った風の弾丸を防いだまま、ヴェイルは一歩も退かず、静かに両手を前へ突き出した。

「――黒蝕重核ナイトメア・グラビティ

 低く、抑揚のない詠唱が紡がれる。

 闇が凝縮され、巨大な黒い球体となって放たれる。
 空間が軋み、周囲の大地が、重力に引き寄せられるように沈み込んだ。

「……っ、堅物!」

 ツヅラが即座に叫ぶ。

「わかっている」

 フィリアは応え、即座に黒い球体に向かって手を翳す。

「――翠嵐風圧ヴェルド・テンペスト!」

 暴風が、うねりを上げながら一点に圧縮される。
 それは――巨大な風の弾丸となって撃ち放たれた。

 轟ッ――!!

 黒い重力球と、圧縮された暴風が正面から激突する。
 衝突点で、重力と風が爆ぜるように逆巻いた。
 空気が引き裂かれ、大地がえぐれ、衝撃波が円状に広がる。

 だが――その奔流に紛れるように、ヴェイルの姿が消えた。

「……なっ!?」

 闇が、フィリアの眼前に迫る。
 ヴェイルは暴風の裏を突き、一気にフィリアへと距離を詰めていた。
 さらに跳び上がり、フィリアの上をとり。

「人の頭上から攻撃とは……随分、無礼ですよ」

 愉悦を滲ませた声と同時に、掌から――黒い波動の衝撃波が解き放たれた。

「……っ!」

 フィリアは即座に反応する。
 周囲の風を引き寄せ、瞬時に――風の膜を張り巡らせる。

 ドガァァン!!

 黒い衝撃が直撃し、風の膜ごとフィリアは吹き飛ばされた。
 空中で制御を失い、ドゴォンッ!! と、ツヅラの横へ叩き落とされる。
 土煙が、大きく舞い上がった。

 やがて――煙の中から、人影が立ち上がる。
 フィリアは冷静な顔のまま、衣服についた土埃を、ぱんぱんと払い落とす。

「なんや、無事やったんかいな」

 ツヅラが、からかうように声を投げる。

「当たり前だ。あの程度で――私が倒れるわけがない」

 フィリアは素っ気なく答え、眼鏡を押し上げる。

 宙空にいたヴェイルの姿が、影のように掻き消えた。

「……っ!?」

 ツヅラとフィリアが違和感を覚えた、その刹那――二人の意識の外側から、ヴェイルはすでに、目の前に立っていた。


 ヴェイルは、両手をツヅラとフィリアに向けて翳す。

「――夢蝕終焉ナイトメア・エクリプス

 唱えた瞬間、黒い球体が展開され、ツヅラとフィリアを包み込んだ。
 光も、音も、感覚も――遮断される。
 2人を混沌の世界へと誘う。

「悪夢に蝕まれ、死を迎えなさい」

 ヴェイルの声が、冷酷に響く。

「……ッ、ツヅラ!! フィリア!!」

 リュシアの悲鳴が、虚しく空間を裂く。
 その隣でセレスティナも目を見開き、息を呑む。
 二人は、混沌の悪夢に呑まれた――そう、誰もが思った。
 ――だが、黒い球体の内側でツヅラの口角が、ゆっくりと上がった。
 愉悦すら滲む笑みで金の瞳が、闇の中で輝く。

「――爆ぜぇ!!」

 ツヅラの声と同時に、群律が発動した。
 目に見えぬ律が、球体の内側から叩きつけられる。

 ドンッ!!

 黒い球体は、存在そのものを否定されるかのように――内側から粉砕された。
 
「――ふんっ!」

 フィリアもまた、内側から魔力を解き放つ。
 圧縮された風が爆ぜ、闇を切り裂くように吹き飛ばす。

「……なに……!?」

 ヴェイルの声に、はっきりとした動揺が混じる。
 それを、ツヅラは――逃さない。
 扇を一振りし、冷たく、短く命じた。

「――跪き」

 その一言で、世界がヴェイルを拒絶した。

「……ぐっ!?」

 突如として、すさまじい重力が、ヴェイルの全身にのしかかる。
 まるで天地そのものが、押し潰そうとしているかのように。
 膝が砕けるように地へ落ち、両手を突いて――這いつくばる格好になる。
 ついに闇が、揺らぐ。

「……っ、ぐ……!」

 七魔将・黒蝕卿ヴェイル=ラグレス。
 その身体は今、ツヅラの群律によって――強制的に屈服させられていた。

「……バカな……」

 地に膝と手を突き、這いつくばる格好のまま――ヴェイルの喉から、抑えきれない怒りの声が漏れた。
 七魔将としての誇り、それを踏みにじられた屈辱が、その声音に滲んでいる。

「言ったやろ」

 ツヅラは静かに言い放つ。

「前とは違う、ってな」

「……ルガンディアの時は……これほどの力は……なかったはずです……一体……どうやって、これほどの力を……!」

 ヴェイルはフードの奥で歯噛みしているような声で顔を上げる。

 その問いに、ツヅラは肩を竦めるように答えた。

「ウチのスキル――群律はな、その地位たちばによって、強さが変わる」
 扇をくるりと回し、それを顎にあてる。
 ヴェイルの闇が、わずかに揺れる。

「ルガンディアにおった時――ウチの上に立っとったのは、力の無い連中やった」

 金の瞳が、冷たく光る。

「せやからな、せいぜい……アンタと同程度の格しか、なかったんや」

「……っ!?」

「せやけど、ここは違う。ここには――本当に力ある者が、上に立っとる」

「力……ある者……?」

「そのもとで、ウチは――獣盟官の任を受けた」

 その言葉が、ヴェイルの胸に突き刺さる。
 
「私もだ」

 静かに、フィリアが続いた。

「この地で、樹守官という任を受け、力が増した。お前も……知っているはずだ、強い者から名や任を授かることで、格が上がり、力が増す」

 眼鏡の奥から、鋭い視線を向ける。

「つまりやな、今のウチらは――アンタより、格が上っちゅうことや」

 ツヅラは扇で口元を隠し、金の瞳を、細めた。

「……私より……格が……上……?」

 ヴェイルは、呆然と呟く。
 七魔将という格を持つヴェイルにとってそれは認められるはずのない言葉。

「そうや」

 ツヅラは一歩前へ出て、這いつくばるヴェイルを、見下ろした。

「……ふっ……」

 ヴェイルの自嘲するかのような歪んだ。
 低く、抑えた笑いが零れる。

「……ふざけないでください!!」

 叫びが森の木々を震わせる。

 ゾアァッ――!

 禍々しい黒い魔力が、噴き上がるようにヴェイルの身体から溢れ出す。
 空気が悲鳴を上げ、大地が軋む。

「格が……上……?その程度で……魔王直属七魔将に勝たおつもりですか……!!」

 憤怒と狂気を孕んだ声。

 闇が、彼の周囲で暴れ狂う。
 屈辱は、理性を焼き尽くし――誇りは、歪んだ殺意へと変貌した。
 七魔将・黒蝕卿ヴェイル=ラグレス。
 その真価は――今ここで、更なる局面へと突入する。
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