勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま

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縁の決戦編

絆が咲かせた終焉の華

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 爆煙が、ゆっくりと晴れていく。
 焦げた大地と崩壊した地形の奥――ヴェイルの視界に、異質な光が差し込んだ。
 それは、白銀のように淡く、しかし確かに神聖さを感じさせる輝き。

 ブワァッ……!!

 残った土煙を押し払うように、その光は――翼として、開かれた。

 白銀に輝く巨大な翼、その下で、ツヅラとフィリアを守るように、静かに立っていた存在。
 それは、ただそこに在るだけで、人々の目を奪い、思わず息を飲みこんでしまうほど神々しく、清廉された者。

「……っ!? お……お前は……!?」

 ヴェイルはフードの奥の瞳が見開かれたかのように、闇が揺れる。
 翼の主は、穏やかな微笑みを浮かべたまま、静かに口を開いた。

「私は――十二柱の一人、統括の女神、ルミナ=リュミエール」

 その声は、響くというより、世界そのものに染み渡るように届く。
 ヴェイルの喉が、ひくりと鳴った。

「……女神……」

 ツヅラが、思わず息を呑む。

「……ルミナ様……」

 フィリアもまた、言葉を失う。
 その名は知らぬものは存在せず、誰もが崇め、祈りを捧げる存在。
 世界中の人々が信仰する女神が今まさに目の前に現れたのだ。
 それは、在り方そのものが違う存在の前に立たされた感覚。
 ルミナは、白銀の翼をゆっくりと畳みながら、続ける。

「貴方が、この地の結界を壊してくれたおかげで、ようやく――私も、この場所へ来ることが出来ました」

 優しく、しかしどこか皮肉を含んだ口調。

「……な……なぜ……! なぜ、貴女のような存在が……こんな場所に……!?」

 ヴェイルは後ずさりながら叫ぶ。

 ルミナは、その問いにすぐには答えず、静かに目を閉じ――ふっと、息を漏らした。
 そして、ゆっくりと目を開く。

「その理由は――貴方の、すぐ側にいますよ」

 ルミナの瞳が、ヴェイルのすぐ後ろへと向けられる。

「……どういう……ことです……!?」

 混乱の中で――理解が追いつかないとばかりに狼狽する。

「あ~……こんなの作っちゃ、いけないんだよ~」

 場違いなほど、拍子の抜ける声が響いた。

「……!?」

 ヴェイルは、反射的に――後ろを振り返る。
 そこにいたのは、ゆるく、飄々とした雰囲気の少女。

 まるで散歩にでも来たかのような態度で、女神セラフィ=リュミエールことセラが立っていた。

「な……っ!?」

 ヴェイルが言葉を失う、その前でセラは、ヴェイルの手に握られた黒いオーブを見上げ、指で軽くつついた。

「えいっ」

 その瞬間、シュゥゥゥ……と黒いオーブから、瘴気が音もなく抜けていく。
 呪詛も、怨嗟も、混ざり合っていた力の残滓も――まるで最初から存在しなかったかのように、浄化されていく。
 そして、パキィ……ンと乾いた音を立てて、黒いオーブは白く砕け散った。

 その光景に時が止まったかのように静寂が辺りを包む。

「……は……?」

 ヴェイルの口から、理解不能をそのまま形にしたような声が零れ落ちる。

 最悪の切り札にして英雄たちの力を歪めて生み出した、黒き終焉。

 ――それが指一本で、終わった。

「あ、ああ、貴女……今、何をしたのですか……?」

 ヴェイルは、思わず一歩退いた。
 七魔将としての威厳も、怒りも、もはやそこにはなかった。
 ただ――理解することが出来ない事態に、困惑し狼狽する。

「え? う~ん……そうだね」

 セラは目を瞬かせ、少し首を傾げた。
 考えるように指を顎に当ててからキョトンとした顔で言う。

「バニッシュのお友達の魂があったから、浄化しただけだよ」

 あまりにも無邪気で、あまりにも軽い答え。

「……じょ……浄化……ですと……?」

 ヴェイルの喉が、引きつる。

「そ……そんな……そんなこと、あり得るわけが……!!」

 声が裏返る。
 闇に堕とし、歪め、利用し尽くしたはずの魂。
 それを――ついでのように消す行為など、そんなことがあってはならいとばかりに声を張る。

「いいえ、貴方が闇に堕とした勇者たちの魂は――」

 その混乱を、静かに切り裂く声。
 その瞳が、ヴェイルをまっすぐに見据える。

「セラの力により、すでに浄化されました」

「……そ……そんな……」

 ヴェイルは、よろけた。
 膝が、かすかに震える。
 七魔将として積み上げてきた成果が、そのすべてが全否定され砕け散ったのだ。

「……い、いや……! そ、それよりも……貴女方、女神は……以前、私が放った攻撃で、相当な被害があったはずです!!」

 思い出したかのように叫び、視線を振り上げ、ルミナとセラを見る。
 以前、ミレイユを取り込んだ黒いオーブ。
 未完成ながらもその力を試すために、天界に放った一撃。
 その衝撃音は確かに地上にまで轟いたのだ。

「……?」

 セラは、きょとんとした顔で小首を傾げる。

「攻撃? 来てないよ?」

「嘘をおっしゃい!! 確かに、黒いオーブの力で……!!」

 ヴェイルは声を荒げた。

 その言葉を――またしても、静かに遮る声。

「貴方の放った攻撃なら、セラが落としたお菓子によって、すでに消滅しました」

 ルミナは、淡々と告げる。
 又しても時が止まったかのように静寂が訪れる。

「…………は……?」

 ヴェイルの口から、再び――間の抜けた声が零れ落ちた。
 未完成とはいえ、勇者の仲間の一人を取り込み、その力は強大なものだった。

 それが――落としたお菓子で相殺された。
 理解しようとする思考そのものが、拒絶反応を起こしていた。

 ヴェイルの中の絶対が、音を立てて完全に崩れ落ちた。

「お、おおお……お菓子……!? そ、そんな物で……!!」

 ヴェイルの声は裏返り、もはや先ほどまでの不気味さなど微塵も残っていなかった。
 戸惑い、動揺し、理解の枠から溢れ落ちた感情が、醜く露わになっている。

「確かです。私がセラに与えたお菓子は、セラの手に触れたことで神性を帯びました。それにより、貴方の攻撃は――消滅しました」

 ルミナは、静かに頷く。

「……ッ!?」

 ヴェイルは、喉を鳴らそうとして……出来なかった。
 もはや、言葉を紡ぐ意味すら見失っている。
 七魔将としての誇りも、世界を滅ぼす力として歪め集めた力も、それらすべてがお菓子という概念に踏み潰された現実。

「そして、貴方の物理も魔法も通じなかった理由――それは、貴方の身を覆っていた揺らぐ闇によるものでしょう」

 ルミナは、白銀の翼を静かに広げる。
 翼が、ひと振りすると空気が震えた。
 神聖な波動が奔流となり、ヴェイルの身体を包み込んでいた闇を――容赦なく吹き飛ばす。

「な……なん……だと……」

 闇が剥がれ落ち、初めて、ヴェイルの姿がただの存在として晒される。
 圧倒的な力も砕かれ、絶対的な防御も剥がされ、すべてが失われた。

「さあ、これで、貴女方の力でも、あの者にダメージを与えられます」

 ルミナは視線を移し、リュシアとセレスティナを見る。

「でも……」

 リュシアは一瞬、言葉を詰まらせ、ツヅラとフィリアへと視線を向ける。
 その気持ちを察したように、ツヅラは扇をひらりと揺らし、いつもの妖艶な笑みを浮かべた。

「ウチらのことは気にせんでええよ」

 金の瞳が、力強く輝く。

「派手にかましたりぃや」

「ああ、アナタたちの力を見せてやるのだ」

 フィリアもまた、静かに頷いた。
 その言葉に、リュシアの胸の奥で、何かが弾けた。

「……わかった!」

 力強く頷き、セレスティナへと視線を送る。
 セレスティナも、一瞬だけ目を伏せ――そして、静かに、しかし確かな意志を込めて頷いた。
 
 二人は、並び立つ。
 背後には、仲間がいる。
 守ってくれた者がいる。
 そして――信じてくれる者がいる。
 リュシアは、拳を握り締めた。
 もう、迷いはない。
 今度こそこの戦いに、終止符を打つために。

「ば、バカな……あり得ない……こんなことが……」

 ヴェイルは、よろめきながら膝を折りかけた。
 物理も魔法も無効にしていた闇の衣は剥がされ、勇者たちを贄として作り上げた黒きオーブは砕け散り、七魔将としての絶対的な優位も、長年にわたり積み重ねてきた計画も――すべてが崩壊していた。

(何が……いけなかった……? どこで……私は、間違えた……?)

 答えの出ない思考が、頭の中を無意味に巡る。
 その混濁した視界の先で、二つの影が、静かに、しかし確かに立ち上がる。
 リュシアとセレスティナ、二人は言葉を交わすことなく、まるで示し合わせたかのように、一歩前へ出た。
 そして――同時に、ヴェイルへと手を翳す。

「――煉獄爆華陣インフェルノ・ブルーム!!」

 リュシアの叫びと共に、紅蓮の魔力が奔流となって解き放たれる。
 爆ぜる炎は、単なる破壊ではない。
 怒りと決意、そして守りたいという想いを宿した――灼熱の花。

「――爆烈氷華グレイシャル・ブルーム!」

 重なるように、セレスティナの声が響いた。
 古代魔法によって紡がれた紺碧の魔力が、凍てつく衝撃と共に爆ぜ、氷晶の華を咲かせる。
 
 炎と氷、相反する二つの力。
 
 しかし、それらは反発することなく――絡み合い、融合し、巨大な一輪の紅蓮と紺碧の華となった。

「――ッ!?」

 ヴェイルが何かを叫ぼうとした瞬間、その声は、爆音にかき消された。
 
 閃光と共に大気を引き裂く衝撃波。
 紅蓮と紺碧の華が、完全に開き――ヴェイルの姿を、跡形もなく飲み込んでいく。
 それは、絶望でも、憎悪でもない。
 二人が共に立つことで初めて辿り着いた、絆の力。
 爆炎と爆氷が収束し、静寂が、ゆっくりと戦場を覆っていった。
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