勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま

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妖精迷宮《フェアリー・ラビリンス》編

動き出す物語

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 その夜、館の会議室には再び明かりが灯っていた。

「――というわけなんだ」

 バニッシュは、王都から戻ったミュレアたちの報告、イリヤとの出会い、そして妖精族の樹海に生成されたダンジョンの件までを、一通り説明し終える。

 静まり返った室内で、皆の視線が自然とテーブル中央へと集まる。
 そこには、宙に浮かぶ小さな妖精――イリヤの姿。
 緑の髪が揺れ、警戒心を隠さない視線で一同を見渡している。

「事情は分かったわ」

 最初に口を開いたのはツヅラだった。
 扇で口元を隠しながら、冷静に続ける。

「けど、そういうことなら……冒険者ギルドに相談すればよかったんやないか?」

「冒険者ギルド……? 何よそれ!?」

 イリヤは、目をぱちぱちと瞬かせる。

 妖精族は滅多に外界へ出ない分、こうした制度的な仕組みには疎いのだろう。

「冒険者に報酬を払い、依頼をこなしてもらう仲介所みたいな所だな。そこなら、報酬に見合う実力の冒険者を集められただろうな」

 バニッシュが補足するように説明する。

「それって――ワタシたちの住処に、人が集まってくるってこと……?」

 イリヤは眉間にシワを寄せ表情が険しくなる。

「そんなのダメよ! ダメに決まってるじゃない!」

 ずずいっと、バニッシュの顔の目前まで詰め寄る。

「ま、まあ……そういう方法もある、ってだけだ……」

 バニッシュは両手を前に出し、なだめるように上下させる。

「信用のない者を招き入れるのは危険だな」

 フィリアが眼鏡をくいっと上げる。

「特に、希少種である妖精族の住処となれば、なおさらだ。冒険者の中には、善良な者ばかりではない」

 欲に目が眩んだ者が紛れ込む可能性は否定できない。
 現に冒険者の中には、珍しい種族を捕らえて、闇の市場に流している者がいるという噂もある。

「俺としては、協力してやりたいと思っている。だが、そうなると問題は――誰が行くか、なんだが」

 ダンジョン攻略とは簡単なものではない。
 その規模も魔物の数も種類も不明で、ダンジョンによって中の構造も全くことなるため、相応の実力が必要になる。

「何だ、難しく考えることか?」

 ぐっと椅子に深く腰掛けたまま、グラドが豪快に笑う。

「お前が行ってやったらどうだ?」

「……俺が?」

「元々、勇者に頼もうとしてたんだろ? なら、勇者一行にいたお前なら適任だろうが」

 ニヤリ、と口角を上げる。
 その一言に、イリヤが、ぴくりと反応する。

「ちょ、ちょっと! アナタ、勇者なの!?」

 羽を震わせながら、バニッシュへ詰め寄る。
 大きな瞳をさらに見開き、顔の目前まで飛んでくる。

「い、いや、違う!」

 バニッシュは慌てて両手を振った。

「勇者じゃない! あくまで、勇者のパーティーにいたってだけだ!」

「それでもいいわ! アナタが来てちょうだいよ!」

 イリヤは胸の前で手を握り、真っ直ぐな眼差しでバニッシュを見る。

 バニッシュは小さく息を吐き、頭を掻いた。
 行ってやりたい気持ちはあるが、クラウゼリアをまとめる者として、そう簡単に抜けるわけにもいかない。

「行ってやりたいのは山々なんだが……」

 バニッシュは苦く笑う。

「お願い!」

 イリヤは両手を胸の前で握りしめ、縋るようにバニッシュを見上げる。
  その視線を受け、バニッシュは困ったように頭を掻く。

「ちょっと! こっちにも事情があるのよ。無理言わないで」

 そこへリュシアが庇うように口を挟む。

「なによ! アナタには話してないわ!」

 イリヤは振り向きざま、舌をべっと出した。

「何ですって~!?」

 リュシアがガタッと椅子が大きな音を立て、勢いよく立ち上がる。

「まあまあ! ケンカするなよ」

 バニッシュが慌てて間に入る。

「ふん!」

「ふん!」

 二人は同時にそっぽを向いた。
 絶妙に息が合っているのは、似た者同士なのかも知れない。

「……はぁ」

 バニッシュは重いため息をつく。

「まあ、ええんやないか」

 ツヅラが妖艶に微笑みで、扇で口元を隠す。

「バニッシュはんが行ってやっても」

「いや、しかしだな……」

「街のことなら、私たちがいる」

 バニッシュが言い返しかけた時、フィリアが静かに言った。

「医薬品の件は、段取りを整えておけば当面は回る。移住調整も、滞らずやれるだろう」

「それでもだな……」

 バニッシュは腕を組んだまま、まだ決めきれずにいた。

「ここには……優秀な人が多く集まっている」

 ミュレアの静かな声が響く。
 相変わらず無表情だが、その言葉には確かな信頼が込められている。

「貴方の穴を埋めることは、十分に可能」

「そうですね。貴方が行っていただけないと、貴方を紹介した我々の面目がありません」

 タナトスも続き、わずかに口角を上げる。

「せやで、ウチはルガンディアを治めとった。そこの堅物はエルフェインを治めとったし、ミスティリアを治めとるミュレアはんもおる」

 ツヅラが扇をくるりと回した。
 並ぶ顔ぶれは、元は一国を背負っていた者たちばかりだ。

「アンタより、ウチらのほうがそういうのには慣れてるんやで?」

 それぞれの言葉が、街のことは任せろとバニッシュの背中を押す。
 バニッシュはゆっくりと目を閉じ、一つ息を吐いた。

「……わかった」

 目を開け、皆の顔を見るように見渡す。

「なら、俺が行ってくる」

「ホント!? ありがとう!!」

 イリヤはぱっと顔を輝かせ、くるくると空中を回った。
 羽が喜びに震え、淡い緑の光がほのかに尾を引く。

「他に行くメンバーだが……」

 バニッシュが顎に手を当て、思案し始める。

「当然、私も行くわよ!」

 隣からリュシアが身を乗り出し、目をきらきらと輝かせている。

「何でアナタが来るのよ!?」

 イリヤがずいっと詰め寄る。

「いいでしょ、別に!」

 リュシアも負けじと顔を近づける。

 ――バチバチと、目に見えない火花が散った。

「だから、ケンカするなって」

 バニッシュが両手を差し出し、二人を引き離す。

「ダンジョンは、どんな魔物がいるか分からない。リュシアの力は、きっと必要になる」

 落ち着いた声で諭すようにバニッシュは話す。
 
「だって、その娘……魔族でしょ! 魔族を招き入れるなんて――」

 イリヤが言いかけて、はっとする。
 目を見開き、口に手を当てる。

「……まさか、ドサクサに紛れて、私たちを食べるつもりなんじゃ……」

「食べないわよ!」

 リュシアが即座にツッコむ。

「何なのよ、その発想!」

「ま、まあとにかく、リュシアは、俺の仲間だ。誰かに危害を与えるような奴じゃない。俺が保証する」

 揺るぎない言葉で断言する。
 イリヤはじっとバニッシュを見つめた。
 その目はまだ疑いを残しているが――完全な拒絶ではない。
 羽が小さく震え、やがて、イリヤはそっぽを向いた。

「……別に。信用したわけじゃないんだから」

 半信半疑のまま、小さく呟く。

「それと――セレスティナ」

 バニッシュは視線を向ける。

「ついて来てくれるか? 元々、冒険者稼業をやってただろ。お前がいれば、ある程度のことは対処できる」

「はい、大丈夫です」

 セレスティナは胸に手を当て、柔らかく微笑んだ。

「あと一人……」

 バニッシュはちらりとグラドを見る。
 分厚い腕を組み、椅子にどっかりと座る鍛冶師。
 視線に気づいたグラドは、先回りするように片手をひらひらと振った。

「ああ、今回は俺は行かんぞ」

「……そうか?」

「弟子たちを置いて旅には出られねぇからな」

 にやりと笑う。

「そうか」

 バニッシュは頷く。
 だが、その表情は残念そうではなく、むしろ、どこか嬉しそうに笑う。

 仲間が新しい役割を持ち、次の世代を育てている。
 それは、この街が“本物”になりつつある証だ。
 グラドと目が合い、互いに小さく笑う。
 言葉はなくとも、通じるものがあった。

 バニッシュは再び顎に手を当てる。

(前衛で動ける人材が欲しいな)

 ダンジョンは未知の領域だ。
 リュシアとセレスティナは前へ出て戦うタイプではない。
 その2人を守りながら戦うには、バニッシュ1人では荷が重すぎる。

 ドルガか、あるいは朧か――バニッシュは、頭の中で候補を並べる。

「ぼ、僕も……一緒に行っていい?」

 黒牙が、遠慮がちな声でそっと手を挙げている。
 
 黒牙の言葉にミュレアの肩が、ほんの僅かに動いた。
 無表情のまま、隣に座る黒牙へと顔を向ける。
 バニッシュもまた、驚きに目を瞬かせる。

 鬼人族である彼は確かに力が強い。
 ドルガや朧に鍛えられ、戦闘の技術も着実に伸びている。
 だが――それでもまだ未熟だ。
 それに、まだ子供である黒牙を未知の危険が潜むダンジョンへ連れて行くには、あまりに早いのではないかと考える。

「なんで、一緒に行きたいんだ?」

 バニッシュは優しく問いかけた。
 否定するわけではなく、ただ、意思を確かめるための問い。
 黒牙は一瞬、視線を落とし、そしてゆっくりと顔を上げる。

「僕……ここに来て、色んな場所で手伝いをするようになったけど、まだ、自分が何ができるのか、何になりたいのかが分からないんだ」

 自分というものを探すために、色々なことに挑戦し、経験してかたが、それでもまだ見つからないという黒牙の正直な気持ち。

「でも、手伝いをして、喜ぶ顔を見て……とにかく、今は困っている人の皆の力になりたいって、おじさ……バニッシュさんみたいに、誰かを救いたいんだ」

 真っ直ぐに、バニッシュの目を見る。
 それは、黒牙の一つの覚悟なのだろう。
 揺るぎのない瞳で、まっすぐ見つめるその目には、確かに強い光が宿っていた。

 バニッシュは、その目をじっと見つめ返した。
 黒牙の想いを、量るように、確かめるように、そして、黒牙もその視線から逃げることなく、まっすぐに見つめ返す。

「……わかった」

 ふっと、優しく笑う。

「なら、一緒について来てくれ」

「は、はい!」

 黒牙の顔が、ぱっと明るくなる。
 抑えきれない喜びが溢れ出す。
 バニッシュは続けて視線を向ける。

「リュシアとセレスティナも、それでいいか?」

「私は大賛成よ!」

 リュシアは腕を組み、にやりと笑う。

「ええ、黒牙くんなら頼りになります」

 セレスティナも穏やかに微笑む。

「じゃあ、私も――」

 ミュレアが静かに口を開きかけた、その瞬間。

「いけませんよ」

 即座に、タナトスの声が被さる。
 牽制するような、だが敬意を失わぬ声音。

「……なぜ?」

 ミュレアはゆっくりとタナトスに顔を向ける。
 表情は変わらない。
 だが、その声には明らかな不満が滲んでいた。

「王都の要請でしばらく不在にされておりました」

 タナトスは両手を腰の後ろで組み、姿勢を正す。

「その間に、こちらの業務が溜まっております」

「タナトスが代わりに……」

「私では対応できかねない案件ばかりです」

「でも、黒牙は私の……」

「この都市はバニッシュさんの結界に守られております。黒牙が不在でも、問題はございません」

 反論の余地を残さぬかのように、タナトスはミュレアの言葉を容赦なく切り捨てる。
 ミュレアは無表情のまま、じっとタナトスを見つめる。
 先ほどよりも不満そうな空気を出している。

「ミュレア」

 そこへ黒牙が、そっと声をかけた。
 真っ直ぐに、彼女を見つめる。

「僕は、いつも君に助けてもらってる。だから、今回は……僕一人の力でやってみたいんだ」

 拳を握る。

「そして、君をちゃんと守れるくらい強くなって帰ってくる。だから、待っていてほしい」

 そう言って、黒牙は優しい笑顔をミュレアに向ける。

 ミュレアは目を見開き、はっきりと感情が揺らぐ。
 黒牙の言葉を、真正面から受け止め、考えるように少しの沈黙。

「……わかった。待ってる」

 黒牙は、ほっと息をつく。

 バニッシュと共にダンジョンに向かうメンバーは決まった。
 未知のダンジョン――それは、これから起こる大きな出来事、その序章に過ぎないことを、今は誰も知らない。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

コウ
2025.08.10 コウ

何故、やってはいけない事をしたのに、しっかりと怒り、注意説明をしないのですか?
取り返しのつかない、大怪我や生死にかかわる様な事が起きて、トラウマを植え付けますか?
それはそれで、自業自得なので良いとか思いますが……
あまり、ナアナアにし過ぎるのはよろしくないかと思います

2025.08.11 まりあんぬさま

貴重なご意見ありがとうございます!
そうですね。
そういったところも配慮してこれからも書き進めますので、この先も読んで頂けると嬉しいです!

解除
ふふふ
2025.08.04 ふふふ

温泉素晴らしい!
私も入りたくなりました😆

2025.08.04 まりあんぬさま

いつも感想ありがとうございます!
バニッシュたちのスローライフはまだまだ続きますので、お楽しみください!

解除
ふふふ
2025.08.03 ふふふ

このお話を今朝知り、面白かったので最新話まで一気に読ませていただきました!
バニッシュ達の穏やかな暮らしがずっと続いて欲しいと思ってますが、時代の混沌が深まる中、どうなって行くのか心配です。
更新を楽しみにしています😊

2025.08.03 まりあんぬさま

感想ありがとうございます!

楽しんで読んで頂けて嬉しいです!
今後も更新していきますので、ぜひ楽しんで読んでください!

解除

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