婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。

ムラサメ

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姫君

シリルの手によって選ばれたドレスは、私の肌を雪のように白く見せ、自信を失って俯きがちだった肩のラインを、美しく強調していた。

鏡の中にいるのは、エドワード様に「地味な灰かぶり」と蔑まれていた私ではない。
黄金の王子に愛され、宝石の光を纏った、見知らぬ「姫君」だった。

​「……あ」

​思わず漏れた私の声に、シリルが背後から満足げに目を細める。
彼は私の腰を引き寄せ、耳元で吐息を漏らした。

​「ほら、言っただろう? 君を地味だと言ったあいつの目は、ただの節穴だったんだ。……今の君を見たら、あいつは後悔のあまり狂い出すだろうね。もっとも、その時はもう、後悔する余裕さえないだろうけど」

​シリルの言葉は、予言のように冷たく響いた。

​その頃――。

私が追い出されたエドワード様の邸宅は、地獄のような惨状になっていた。

​「おい! どういうことだ! この魔法契約書の更新はどうした! フィオナはどこだ!」

「旦那様、フィオナ様なら昨日、旦那様ご自身が……」

「うるさい! あんな女、呼べばすぐに戻ってくるに決まっているだろう! 代筆の続きをさせろ! 彼女がいなければ、僕が明日の御前会議で発表する成果が白紙になってしまうんだ!」

​エドワード様は、山積みになった書類を前に、髪を掻き乱して絶叫していた。

彼は気づいていなかったのだ。

自分が「自分の才能」だと思い込んでいたものの正体が、すべて私の魔力と、不眠不休の努力の上に成り立っていた張りぼてだったということに。

​さらにそこへ、追い打ちをかけるように一通の親書が届く。

​「な、なんだこれは……王家からの、即時呼び出し……? それに、僕の爵位剥奪と、資産凍結の調査令状だと!?」

​震える手で紙を握りしめるエドワード様の脳裏に、昨夜、黄金の光を纏って現れたシリルの姿がよぎったはずだ。

彼が本気で誰かを潰そうとしたとき、この国に逃げ場などどこにもない。


​一方、私はシリルの腕の中で、生まれて初めて「守られる」ことの恐怖と安らぎを感じていた。

​「ねえ、フィオナ。準備はいいかい?」

​シリルが私の顎を指先でクイと持ち上げ、その碧眼に私を閉じ込める。

​「これから、あいつのすべてが崩れ落ちる様を特等席で見せてあげる。君を泥に突き落とした罪を、その身に刻んであげよう。……大丈夫、君はただ、僕の隣で笑っていればいいんだよ」

​シリルの微笑みは、聖者のように清らかで、魔王のように傲慢だった。

私を救い出したヒーローは、同時に、私を自分だけの檻に閉じ込める最愛の略奪者でもあったのだ。

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