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夜空の略奪
丘の上に、燃えるような夕日が沈んでいく。
オレンジ色の光に包まれたフィオナの横顔は穏やかで、けれどどこか儚かった。
シリルはその光景を、まるでお気に入りの名画を眺めるような、恍惚とした目で見つめていた。
「ねえ、フィオナ。城なんて、ただの石造りの箱だ。君を閉じ込めるには、少し退屈すぎると思わないかい?」
シリルの突然の言葉に、私はリンゴを齧る手を止めて首を傾げた。
「えっ……?お城をくれるつもりだったの?」
「最初はね。でも、やめた。あんなもの、誰だって金さえあれば手に入る。……君に贈るなら、もっと特別で、誰にも奪えないものがいい」
シリルは立ち上がり、沈みゆく太陽の反対側、すでに藍色に染まり始めた空を指差した。
そこには、ぽつり、ぽつりと一番星が輝き始めている。
「……星?」
「そう。今日、この丘を買い取った時に決めたんだ。――フィオナ、この『夜空』を君に捧げるよ」
シリルの言葉と同時に、彼が指を鳴らす。
すると、丘の麓から何百、何千という魔導具の光球が放たれ、夜空を埋め尽くすほどの人工の流星群となって空を舞った。
「な、なにこれ……! すごい……!」
「この夜空すべてを、僕が君のために管理し、守り抜くと誓おう」
シリルは私の前に膝をつき、宝石よりも熱い瞳で私を見上げた。
「エドワードは君から居場所を奪った。……なら、僕は君に『世界』をあげよう。もう、自分を無価値だなんて思わせない」
シリルのプロポーズは、もはや一人の男が女性に贈る規模を超えていた。
空という、逃げ場のない広大な空間すべてを「フィオナのもの」にすることで、彼女が世界のどこにいても自分の影響力から逃げられないようにする。
それは、純粋な愛の形をした、最も華やかで最も重い「略奪」だった。
「シリル……。私、そんな大きなもの、受け取れないわ……」
「いいや、受け取ってもらうよ。……ねえ、フィオナ。僕の隣で、この広い世界を一緒に支配してくれないかな?」
シリルは私の手をとり、指先に熱いキスを落とした。
空にはフィオナの名を持つ星が輝き、目の前には自分を狂信的に愛する幼なじみが跪いている。
エドワードに泥を投げつけられたあの夜から、私の人生は、想像もつかないほど眩い場所へと引き上げられてしまった。
「……ふふ。貴方って本当に、昔から無茶苦茶ね」
私は諦めたように笑い、シリルの黄金の髪に指を差し入れた。
その瞬間、シリルの顔に浮かんだのは、勝利者の冷酷な笑みではなく、初恋が実った少年のような、至福の微笑みだった。
オレンジ色の光に包まれたフィオナの横顔は穏やかで、けれどどこか儚かった。
シリルはその光景を、まるでお気に入りの名画を眺めるような、恍惚とした目で見つめていた。
「ねえ、フィオナ。城なんて、ただの石造りの箱だ。君を閉じ込めるには、少し退屈すぎると思わないかい?」
シリルの突然の言葉に、私はリンゴを齧る手を止めて首を傾げた。
「えっ……?お城をくれるつもりだったの?」
「最初はね。でも、やめた。あんなもの、誰だって金さえあれば手に入る。……君に贈るなら、もっと特別で、誰にも奪えないものがいい」
シリルは立ち上がり、沈みゆく太陽の反対側、すでに藍色に染まり始めた空を指差した。
そこには、ぽつり、ぽつりと一番星が輝き始めている。
「……星?」
「そう。今日、この丘を買い取った時に決めたんだ。――フィオナ、この『夜空』を君に捧げるよ」
シリルの言葉と同時に、彼が指を鳴らす。
すると、丘の麓から何百、何千という魔導具の光球が放たれ、夜空を埋め尽くすほどの人工の流星群となって空を舞った。
「な、なにこれ……! すごい……!」
「この夜空すべてを、僕が君のために管理し、守り抜くと誓おう」
シリルは私の前に膝をつき、宝石よりも熱い瞳で私を見上げた。
「エドワードは君から居場所を奪った。……なら、僕は君に『世界』をあげよう。もう、自分を無価値だなんて思わせない」
シリルのプロポーズは、もはや一人の男が女性に贈る規模を超えていた。
空という、逃げ場のない広大な空間すべてを「フィオナのもの」にすることで、彼女が世界のどこにいても自分の影響力から逃げられないようにする。
それは、純粋な愛の形をした、最も華やかで最も重い「略奪」だった。
「シリル……。私、そんな大きなもの、受け取れないわ……」
「いいや、受け取ってもらうよ。……ねえ、フィオナ。僕の隣で、この広い世界を一緒に支配してくれないかな?」
シリルは私の手をとり、指先に熱いキスを落とした。
空にはフィオナの名を持つ星が輝き、目の前には自分を狂信的に愛する幼なじみが跪いている。
エドワードに泥を投げつけられたあの夜から、私の人生は、想像もつかないほど眩い場所へと引き上げられてしまった。
「……ふふ。貴方って本当に、昔から無茶苦茶ね」
私は諦めたように笑い、シリルの黄金の髪に指を差し入れた。
その瞬間、シリルの顔に浮かんだのは、勝利者の冷酷な笑みではなく、初恋が実った少年のような、至福の微笑みだった。
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