36 / 37
後編
星空の載冠
しおりを挟む
バルガ帝国の降伏から数ヶ月。
エリュシオン王国の王都は、これまでにない神聖な空気に包まれていた。
今日執り行われるのは、この国、そして大陸全体に「浄化」をもたらした聖女を、王族の一員として、そしてエリュシオンの守護神として正式に認める『聖域戴冠式』であった。
私は王宮の頂上にあるバルコニーに立っていた。
纏っているのは、ドレスではなく、純白の絹に銀の刺繍を施した、聖女としての正装。背中まで流れる黒髪は、もはや「不吉」などではなく、平和と安らぎを象徴する最も尊い色彩として、民衆に称えられていた。
「準備はいいかい、ミア。……君がこの冠を戴くことで、この国は本当の意味で『楽園』になる」
隣に立つゼノ様が、私の手を取った。
彼の赤い瞳は、かつての焦燥や執着を完全に捨て去り、いまやただ一点、私への純粋な愛と信頼だけを宿している。
「ゼノ様。……私、この冠の重さに耐えられるでしょうか」
「君が耐える必要はない。その冠を支えるのは、僕の槍であり、アポロの魔法であり……この国の人々の感謝なんだから」
ゼノ様はそう言って微笑むと、私の腰をそっと抱き寄せた。
大きな鐘の音が響き渡り、私は王宮の壇上へと進み出た。
眼下には、見渡す限りの人、人、人。
かつて伯爵家の地下室で、誰にも名前を呼ばれず、泥の中に転がされていた少女は、いま、数万の人々の歓声の中に立っていた。
「エリュシオンの聖女、ミア・エリュシオンに。この星々の祝福を」
王が私の頭上に、黄金の王冠を授けた。
その瞬間、私の内側から、かつてないほど巨大で温かな光が溢れ出した。
光は王都を超え、国境を超え、バルガ帝国やかつてのサンクチュアリの土地までも飲み込んでいく。
枯れていた泉が湧き出し、病に伏せていた人々が起き上がり、大地が豊かな緑を取り戻していく。
「グルゥゥゥゥォォォォォン!!」
上空では、黒龍が祝福の咆哮を上げていた。
漆黒の鱗に赤く発光する魔力の脈動が、かつてないほど力強く、安定したリズムを刻んでいる。
「ミア。……愛している。君と、君が救ったこの世界を、僕は一生をかけて守り抜こう」
ゼノ様が、皆の前で私の手をとり、恭しく頭を下げた。
そこにあるのは、支配でも執着でもない。
ただ一人の騎士が、自分だけの女神に捧げる、永遠の忠誠であった。
エリュシオン王国の王都は、これまでにない神聖な空気に包まれていた。
今日執り行われるのは、この国、そして大陸全体に「浄化」をもたらした聖女を、王族の一員として、そしてエリュシオンの守護神として正式に認める『聖域戴冠式』であった。
私は王宮の頂上にあるバルコニーに立っていた。
纏っているのは、ドレスではなく、純白の絹に銀の刺繍を施した、聖女としての正装。背中まで流れる黒髪は、もはや「不吉」などではなく、平和と安らぎを象徴する最も尊い色彩として、民衆に称えられていた。
「準備はいいかい、ミア。……君がこの冠を戴くことで、この国は本当の意味で『楽園』になる」
隣に立つゼノ様が、私の手を取った。
彼の赤い瞳は、かつての焦燥や執着を完全に捨て去り、いまやただ一点、私への純粋な愛と信頼だけを宿している。
「ゼノ様。……私、この冠の重さに耐えられるでしょうか」
「君が耐える必要はない。その冠を支えるのは、僕の槍であり、アポロの魔法であり……この国の人々の感謝なんだから」
ゼノ様はそう言って微笑むと、私の腰をそっと抱き寄せた。
大きな鐘の音が響き渡り、私は王宮の壇上へと進み出た。
眼下には、見渡す限りの人、人、人。
かつて伯爵家の地下室で、誰にも名前を呼ばれず、泥の中に転がされていた少女は、いま、数万の人々の歓声の中に立っていた。
「エリュシオンの聖女、ミア・エリュシオンに。この星々の祝福を」
王が私の頭上に、黄金の王冠を授けた。
その瞬間、私の内側から、かつてないほど巨大で温かな光が溢れ出した。
光は王都を超え、国境を超え、バルガ帝国やかつてのサンクチュアリの土地までも飲み込んでいく。
枯れていた泉が湧き出し、病に伏せていた人々が起き上がり、大地が豊かな緑を取り戻していく。
「グルゥゥゥゥォォォォォン!!」
上空では、黒龍が祝福の咆哮を上げていた。
漆黒の鱗に赤く発光する魔力の脈動が、かつてないほど力強く、安定したリズムを刻んでいる。
「ミア。……愛している。君と、君が救ったこの世界を、僕は一生をかけて守り抜こう」
ゼノ様が、皆の前で私の手をとり、恭しく頭を下げた。
そこにあるのは、支配でも執着でもない。
ただ一人の騎士が、自分だけの女神に捧げる、永遠の忠誠であった。
26
あなたにおすすめの小説
殿下から「華のない女」と婚約破棄されましたが、王国の食糧庫を支えていたのは、実は私です
水上
恋愛
【全11話完結】
見た目重視の王太子に婚約破棄された公爵令嬢ルシア。
だが彼女は、高度な保存食技術で王国の兵站を支える人物だった。
そんな彼女を拾ったのは、強面の辺境伯グレン。
「俺は装飾品より、屋台骨を愛する」と実力を認められたルシアは、泥臭い川魚を売れる商品に変え、害獣を絶品ソーセージへと変えていく!
一方、ルシアを失った王宮は食糧難と火災で破滅の道へ……。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。
猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。
ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。
しかし、一年前。同じ場所での結婚式では――
見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。
「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」
確かに愛のない政略結婚だったけれど。
――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。
「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」
仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。
シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕!
――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。
※「小説家になろう」にも掲載。
※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。
【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。
朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。
ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――
完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます
ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ!
そんな私に好都合な相手が。
女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。
逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。
みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。
ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。
失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。
ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。
こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。
二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる