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いつもの笑顔
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新しく建てられた宮殿から出たアサギは、大きく伸びをしながら、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
(あーっ! やっと解放された~)
アサギにとって、クワシは少し苦手な部類に属しているかもしれない。
考え方が合わないとか、そういったことではなく、感覚的に合わないと思ってしまった。直感である。
これからのことを思えば、なにかと顔を合わせることも増えてくるに違いない。仲良く打ち解けることは難しいだろうけれど、波風が立たないくらいには、当たり障りのないお付き合いをしていくことにしよう。
離れすぎず、近すぎず。適度な距離を見極めるには、まだ少し時間が必要だ。
(ちょっと、気分転換してから帰りたいな……)
侍女に預けている鶯王のことも心配だし、真っ直ぐ屋敷へ戻らないといけないことも分かっている。分かっているが、理性に従いたくない気分だ。
「ねぇ、ちょっと遠回りして帰ってもいいかしら?」
お付きの侍女に問えば、笑みを持って頷き返してくれる。
「少しばかり遠回りされたとて、お后様を責める者は居りませんわ」
「そう? じゃあ、言葉に甘えさせてもらうわ」
侍女と微笑み合い、別の道へ進もうと進路を変える。すると、背後からアサギを呼び止める声が聞こえた。
(まさか、この声って……)
怪訝に思いながら振り向くと、走るような速さで歩いてくる大王の姿を捉えた。大王の後方から、お付きの従者が急いで追いかけてくる姿も見える。
「大王ってば、どうしたのかしら?」
クワシの姿が見えないということは、大王は一人で出てきたのだろう。
せっかく波風が立たないお付き合いをしようと心に決めたばかりなのに、あとからクワシに小言を言われないか、アサギは少し心配になった。
アサギの元へ向かってくる大王を知らんぷりして歩き出すことはできない。体の向きを変えて大王に向き直り、早歩きから小走りになった夫の到着を待った。
「アサギ! やっと追い付いた」
「どうなさったのです? そんなに慌てて……なにか急ぎの用ですか?」
大王は額にうっすらと汗を掻いている。
ヤマトではどうか分からないけれど、この地の現在の気候では、今の大王がまとっている衣装だと少しばかり暑いかもしれない。
「一刻でも早く、そなたと共に居たくて急ぎ参ったのだ」
「えっ! そんな理由で……。クワシ姫様を一人にされたのですか?」
「ちゃんと説明はしてきた。アレは后になるべく育てられた姫だ。その辺のことは、よく理解している」
(それは、そうかもしれないけど……)
そのように育てられたからといって、頭では理解を示しても、心はモヤモヤしているかもしれないではないか。
(女心ってもんを教えないといけないのかしら?)
アサギの懸念をよそに、大王はニカッと満面の笑みを浮かべる。
謁見の間では見せなかった、アサギと二人で居るときによく見せていた笑顔。この笑みを浮かべているときの大王に、アサギは弱いのだ。
もぅ……と諦め、大王に歩み寄る。
「少し、散歩をしてから帰ろうとしていたところなのです。ご一緒なさいますか?」
「ああ、いいな。一年振りの景色を楽しみながら帰るとしよう」
アサギは大王の従者が追い付いたことを確認し、では参りましょうか、と一同を促した。
(あーっ! やっと解放された~)
アサギにとって、クワシは少し苦手な部類に属しているかもしれない。
考え方が合わないとか、そういったことではなく、感覚的に合わないと思ってしまった。直感である。
これからのことを思えば、なにかと顔を合わせることも増えてくるに違いない。仲良く打ち解けることは難しいだろうけれど、波風が立たないくらいには、当たり障りのないお付き合いをしていくことにしよう。
離れすぎず、近すぎず。適度な距離を見極めるには、まだ少し時間が必要だ。
(ちょっと、気分転換してから帰りたいな……)
侍女に預けている鶯王のことも心配だし、真っ直ぐ屋敷へ戻らないといけないことも分かっている。分かっているが、理性に従いたくない気分だ。
「ねぇ、ちょっと遠回りして帰ってもいいかしら?」
お付きの侍女に問えば、笑みを持って頷き返してくれる。
「少しばかり遠回りされたとて、お后様を責める者は居りませんわ」
「そう? じゃあ、言葉に甘えさせてもらうわ」
侍女と微笑み合い、別の道へ進もうと進路を変える。すると、背後からアサギを呼び止める声が聞こえた。
(まさか、この声って……)
怪訝に思いながら振り向くと、走るような速さで歩いてくる大王の姿を捉えた。大王の後方から、お付きの従者が急いで追いかけてくる姿も見える。
「大王ってば、どうしたのかしら?」
クワシの姿が見えないということは、大王は一人で出てきたのだろう。
せっかく波風が立たないお付き合いをしようと心に決めたばかりなのに、あとからクワシに小言を言われないか、アサギは少し心配になった。
アサギの元へ向かってくる大王を知らんぷりして歩き出すことはできない。体の向きを変えて大王に向き直り、早歩きから小走りになった夫の到着を待った。
「アサギ! やっと追い付いた」
「どうなさったのです? そんなに慌てて……なにか急ぎの用ですか?」
大王は額にうっすらと汗を掻いている。
ヤマトではどうか分からないけれど、この地の現在の気候では、今の大王がまとっている衣装だと少しばかり暑いかもしれない。
「一刻でも早く、そなたと共に居たくて急ぎ参ったのだ」
「えっ! そんな理由で……。クワシ姫様を一人にされたのですか?」
「ちゃんと説明はしてきた。アレは后になるべく育てられた姫だ。その辺のことは、よく理解している」
(それは、そうかもしれないけど……)
そのように育てられたからといって、頭では理解を示しても、心はモヤモヤしているかもしれないではないか。
(女心ってもんを教えないといけないのかしら?)
アサギの懸念をよそに、大王はニカッと満面の笑みを浮かべる。
謁見の間では見せなかった、アサギと二人で居るときによく見せていた笑顔。この笑みを浮かべているときの大王に、アサギは弱いのだ。
もぅ……と諦め、大王に歩み寄る。
「少し、散歩をしてから帰ろうとしていたところなのです。ご一緒なさいますか?」
「ああ、いいな。一年振りの景色を楽しみながら帰るとしよう」
アサギは大王の従者が追い付いたことを確認し、では参りましょうか、と一同を促した。
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