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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

397.キャスリーヌ。『引き抜きの見極めは、慎重に。引き抜くときは、大胆に。断る選択肢は、与えないよ?』

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キャスリーヌは、青年の不安にドバドバと油を注いで火をつける。

「ニンデリー王立学園の学生寮で研究しているということは、研究者が成果をあげても、研究成果を発表する場所はないよね?

研究者は、研究の成果をあげた報告をした後の話を、雇い主としたことはある?

雇い主の望む成果をあげた後、雇い主の欲しかった研究成果が、頭の中に入っている研究者を雇い主は、どうするかな?

研究者がしているのは、世の中に出さない研究だよ?
研究者の功績をたたえることはしないよね?

研究者の功績をたたえたら、研究内容に勘づかれるかもしれない。」

表立って、表彰しなくても優遇する方法はある。

権力者が研究者を優遇する気があれば、なんとでもやりようはある。

「功績をたたえて、別の仕事を任されるかもしれないね?

誰一人として、研究者の知り合いがいない新天地で。
仲良くしてくれる人に囲まれて過ごすんだよ。

恋人も友人も、雇い主から次の指示が来ない限り、仲良くしてくれる。」

次の指示というのは、だいたい、始末しておけ、だ。

権力者に、研究者を生かしておく意味がなくなったか。
権力者が、研究者の監視要員を他に使いたくなったか。

権力者から用済みの烙印を押されただけ、ならば、研究者の生きる道は、他にもあるだろう。

権力者の命綱になるような研究が頭に入っている研究者を拾い上げるのは、火中の栗を拾うこと。

研究者の新しい雇い主が、権力者の味方にしても、敵にしても。

研究者自身の価値を認めさせないことには、研究者が使い捨てされる結末が、やや延びるだけで終わる。

延命措置だが、結末は同じ。

研究者から情報を吸い上げた権力者が、一人から、二人に増えるだけ。


どうやら、青年の決心は固まったようだ。

キャスリーヌは、呪術で、青年の口の小枝を取り外した。

先程、青年は、攻撃魔法を撃った。

青年は、魔法を使う魔力持ち。

這い上がってきた感がない青年は、どこぞの貴族子弟なのだろう。

呪術まみれの使用人を帯同しない貴族の男子寮の中で、魔法を使える青年は、研究者として下っ端ではない。

完全に権力者サイドではない立ち位置の研究者は、懐柔、いやいや、転職のお誘いをする相手にもってこい。

「私への担保に、何を差し出し、何を望む?」
とキャスリーヌ。

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