正義が勝たないデスゲームから脱出しよう。【R15】

かざみはら まなか

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379.モエカは現実を生きた。

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「モエカは、一人でも強く生きられるような気がしていた。

実際は違っていた、ということか。」

「学生時代のモエカは、一途で、独占欲も強かったよ。」
とケンゴ。

「佐竹ハヤトは亡くなっている。

モエカの独占欲は、モエカ自身の振る舞いによって叶えられたのではないか?」

俺は、ゆっくりと息を吐いた。

「生きている恋人との生活は経験していても、亡くなった恋人への恋心を生きる力に変えていく生活の経験は、モエカになかった。」
とメグたん。

「モエカは、生身の男に愛されることを求めていた、ということか?

そんな風には全く見えなかったが。」

少なくとも、アスレチックで一緒になった俺やタケハヤプロジェクトの学生に対して、恋人になりたがる素振りをモエカは見せていない。

どちらかと言うと、俺もタケハヤプロジェクトの学生も、モエカに拒絶されていた。

「モエカが求めたのは、恋愛を楽しむ相手ではないわ。

モエカを安心させて、モエカを第一に考え、モエカを守ろうとしてくれる、佐竹ハヤトくんみたいな存在を恋しがっていた。」
とメグたん。

「モエカがメグたんにそう話したのか?」

「何もかも、ではないわ。」
とメグたん。

「あくまでメグたんの推測か?」

「供給されなくなった愛にすがるだけになってからのモエカは、恋した人と生きるために必死だったときのテンションを維持できなくなっていった。

恋心を失う失わない以前に。

恋人のいない現実は、モエカに重くのしかかったわ。」
とメグたん。

「生活が心のターニングポイントになった、か。」

「正義が勝たないデスゲームが開始したとき、モエカだけは、正義が勝たないデスゲームから脱出する日は来ないと知っていた。」
とメグたん。

正義が勝たないデスゲームに参加した今だから、俺は、理解している。

ひらけぬ未来を知りながら。

自分が死なないためだけに。

秘密を誰にも打ち明けることなく。

救いのない未来を嘆き悲しむ気持ちを押し殺して。

打ちひしがれることなく生きることは。

生きる活力を削っていくことと変わりない。

自分で自分を正常に保ち、自分を生かし続けられた者だけが、次の日も息を吸える。

「正義が勝たないデスゲームでどう生活していくか。

モエカだけは、真っ先に考えられたね。」
とツカサ。

モエカには、生き延びるための判断を誤らない決断力が備わっていた。

「モエカが他のタケハヤプロジェクトの学生と距離を置いたのは、正義が勝たないデスゲームが開始したことの意味を正しく理解していたからか。」

「モエカが強い女に見えたのは、モエカが現実を生きる女だったから。」
とメグたん。

「恋心に縛られて、夢見がちにならなかったということか。」

「恋に縋ることが生きていける手段として通用する間は、恋心と生存欲求が喧嘩しないからね。」
とツカサ。

「ショウタの正義が勝たないデスゲームへの参加から今日まで。

一週間も経っていない。」
とメグたん。

「一週間も経っていなかったか。」

「正義が勝たないデスゲームからは何年経っても出られない。

それを知っていたモエカは、自身が生き延びるための戦略を一人で立てて、実行していった。」
とメグたん。

「それが現実を生きる、か。」

正義が勝たないデスゲームの中で、一人、知恵を使ってアスレチックまで生き延びたモエカ。

「モエカが、アスレチックの日まで生きていたのは、モエカの慎重さと生き延びるための戦略がうまく噛み合ったから。」
とメグたん。

「モエカの近くでモエカを観察していたメグたんだからこそ、モエカの変化に気付いた、ということか。」

「正義が勝たないデスゲームに参加するまでの人生経験の差もあるよね。」
とツカサ。

「モエカを奮い立たせていたのは、佐竹ハヤトくんの自死に自分が協力したという事実。」
とメグたん。

「自殺幇助の罪悪感か?」

「モエカによる佐竹ハヤトくんの自死への幇助は、罪悪感、恋心、嫌な目にあわずにいたいという自己保身が絡み合って起きた。

佐竹ハヤトくんを失ったときに、佐竹ハヤトくんの志を受け継ぐ自分を鼓舞して生きる人生が、モエカの中で定着したわ。」
とメグたん。

「佐竹ハヤトの自死がモエカを救うと知っていて、モエカは佐竹ハヤトの自死に協力した、ということか?」

「そうなるわ。」
とメグたん。

モエカのしたことは、自殺幇助ではなく、殺人か。

「俺は、俺の命を助けてくれたことをモエカに感謝している。

だが、佐竹ハヤトの自死に協力した件について、モエカを許そうとは思わない。

モエカが既に亡くなっているとしても。」

俺の中のモエカへの残照が、消えた。

「許すも許さないも当事者の腹の中。

腹の中など、一生、誰にも干渉させなければいい。」
とツカサ。

「なら、俺は今まで通りか。」

「ショウタらしいね。」
とツカサ。

次の瞬間、ツカサは、笑顔を真顔に変えた。

「俺は、キノを許していない。」
とツカサ。

「キノの生死は、ツカサのキノに対する気持ちに影響しなかった、か?」

「キノが支援団体の誘いにのって、俺にちょっかいをかけたことこそ、俺の人生を変えることになった全ての始まり。

俺がここにいるきっかけをつくったのが、キノだからね。」
とツカサ。

キノは、好きな人に嫌われようと己の恋心を誤魔化さずにいた。

キノがツカサといるためにしたことは、キノの幸せに直結することだから、ツカサに責められるいわれはなく、キノが謝罪する理由もない。

キノは、そのスタンスを崩さなかった。

純粋な欲望が結晶化したような恋心。

「モエカと佐竹ハヤトくんの関係では、佐竹ハヤトくんが被害者でモエカは加害者。」
とメグたん。

「二人の関係は、最初からか?」

「モエカと佐竹ハヤトくんが、最終的に加害者と被害者の関係に分かれたのは。

二人が共に、被害者の枠組みの中にいたから。」
とメグたん。

「佐竹ハヤトの自死について、モエカはメグたんにそう説明をしたのか?」

「モエカと佐竹ハヤトくんの置かれていた状況は、モエカと佐竹ハヤトくんのどちらかが加害者になり、もう片方が被害者になることが予想できる環境だった。」
とケンゴ。

「モエカからの説明はないわ。

複数の人質がいる事件で。

人質同士が加害者と被害者になるように犯人が仕向けたら、そうなるから。」
とメグたん。

「人質が結託して犯人に立ち向かうということは、現実では起きない、か?」

「なくはないよ。」
とケンゴ。

「モエカと佐竹ハヤトくんが、お互いの他に味方を作ることが出来ていたなら、あったかもしれない。」
とメグたん。

「モエカと佐竹ハヤトが、それぞれ加害者と被害者になると決まった原因は?」

「モエカの方が佐竹ハヤトくんより、その他大勢の存在に馴染んでいた。」
とケンゴ。

「佐竹くんが正義が勝たないデスゲームを開始する直前よりももっと前に、タケハヤプロジェクトの学生間の人間関係は固定していたね。」
とツカサ。

「タケハヤプロジェクトの会場を見学に来たタケハヤプロジェクトの学生の天秤は。

タケハヤプロジェクトの生みの親である佐竹ハヤトくんを助けて生かすことより。

佐竹ハヤトくんの助手のようだったモエカを生き延びさせることに傾いていたわ。」
とメグたん。

「佐竹ハヤトの味方をするのが最適解でありながら、命綱である佐竹ハヤトを切ったのは。

タケハヤプロジェクトの学生の水準が低いからではなく、感情で動いた結果か。」

感情に動かされる群衆と、一人で対峙するほど厄介なことはない。

「佐竹ハヤトくんと比較すると、モノになると言っていい学生は、集まった中にはいなかった。」
とケンゴ。

「北白川サナは、北白川サナの年齢にすればよく出来るという程度だったか?」

「サナに、サナを引っ張る人とサナを支える人がいたら、思ったよりもできていたかもしれない。」
とケンゴ。

「モエカは、生き延びるための予備知識が他のタケハヤプロジェクトの学生より豊富だった。

その知識を活かす知恵と進退の決め時を迷わない決断力も備わっていた、か。」

「恋に縋るだけではなく、土壇場の胆力もモエカにはあったということだね。」
とツカサ。

「モエカは、佐竹ハヤトくんと自身の命のかかった天秤の傾きを確認し、即座に確かなものにするために行動に移したんだよ。」
とケンゴ。

「自分だけが生き延びるための選択をするときの迷わなさは、モエカの強みだったね。」
とツカサ。

「メグに従属した他のタケハヤプロジェクトの学生とは違い、モエカは自分の頭を使って、正義が勝たないデスゲームをクリアしていった。」
とケンゴ。

モエカの生きるための強さ、か。

俺を生かしたのも、モエカの強さだ。

俺は、モエカが俺を助けた事実を一旦おいておくことにした。

感情に引きずられて、何も見落とすことがないように。

「佐竹ハヤトは、モエカの絶対的な味方だった。

佐竹ハヤトの味方はモエカだけという状況を活かして、モエカは佐竹ハヤトの絶対的な味方にならずに、自分だけ助かろうとした、ということか。」
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