言霊の手記

かざみはら まなか

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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。

42.君下が姪甥に話していない姉の話その2。姉が楽しみにしていた結婚式の行く末は?君下の大学進学前の相談。『私の旦那に頼んでみれば?』

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君下と君下の両親、姉自身で、親戚に、義兄となる人にはちょっかいをかけないようにと連絡しても。

姉の結婚にあやかりたいという親戚の勢いは止まらなかった。

姉と義兄となる人は、姉につきまとって、義兄になる人の名前をチラつかせて、結婚式会場に無理難題を突き付けた親戚の出現に、結婚式自体を取り止めている。

姉の結婚当時、小学生だった君下は、一丁前に世間を知ったつもりでいた。

大人になって、結婚式を挙げる友達の話を聞くようになって気付いたことがある。

姉と義兄の結婚式の費用は、義兄の丸抱えで計画されたものだったのだろう。

バイトをしていなかった高校生の姉に、お洒落な結婚式場での結婚式費用など貯められるはずもない。

義兄と姉は、結婚式を挙げずに入籍だけで済ませた。

家族での食事会というものはなかった。

姉と義兄の二人だけで美味しい食事をしたと、後日、姉は語っていた。

姉は、結婚式を挙げたがっていた。

結婚式会場のキャンセルが確定した後。

出すことがなくなった招待状の束の上に覆いかぶさるようにして、姉は一人で泣いていた。

親戚に踊らされた君下や、強欲な親戚を止められなかった両親に対して、姉は何も言わなかった。

君下の姉は、両親と弟が自分を幸せにしてくれる人だという期待を持っていなかった。

姉には、姉の幸せを壊されたことを共に怒り、嘆き悲しんでくれる人が誰もいないように君下には見えた。

姉は、結婚式が中止になったことを一人だけで悔しがり悲しんでいた。

結婚式が中止されたと悲しむ姉に寄り添うことは、姉と仲良しとは言えなかった小学生の君下がするには難易度が高かった。

両親は、姉自身によって、結婚式が出来ないと悲しむ姉の側に近寄らせてもらえなかった。

結婚式を中止してから、入籍に至るまでも、姉には試練がつきなかった。

姉と義兄の結婚式が中止になったと知るやいなや、親戚は、違うアプローチを始めた。

『そちらの親戚が、私に迷惑をかけないようにしないのなら、破談にします。』

義兄となる人は、姉との結婚に執着していなかった。

『ご迷惑をかけるばかりで、破談も仕方がない。』
と両親は口にしていた。

破談なんてことが実際にあるんだ、と君下がびっくりしていると。

姉だけが、義兄との結婚を諦めなかった。

『結婚式はしなくていい、私の側の親戚とは一生付き合わない。
親戚と縁を切れない親や弟とは距離を置く。

他の条件もあれば聞くから、結婚したい。』

姉が義兄となる人に何度も頼み込み、姉の結婚は流れなかった。

君下は、知ったかぶりの無知な小学生だった当時の自分が、姉の結婚式を中止に追い込んだという自覚がある。

だから。

甥姪が可愛い以上に、姉に対する負い目が、君下にはある。

姉が自分探しという冒険に出ている間は、姉の代わりに甥姪の様子を見守るくらいしよう。

姉が自分探しに出ていったと知らされた当初、君下は姉と甥姪のために頑張ろうと思っていた。

君下の純粋な熱意は。

姉が自分探しに出たという知らせを聞いて帰ってきた義兄に呼ばれて、義兄と話をしたときに、変わってしまった。

姉が自分探しに出かけたのは、君下の大学の後期の学費の支払い前。

当時、大学生だった君下の学費を払ってくれていたのは、君下の両親ではなく、義兄だった。

君下は、大学進学にあたり、奨学金を考えていた。

『奨学金をとるくらいなら、私の旦那に頼んでみれば?』

奨学金の手続きをしようとしていた君下に、義兄への援助を頼むことを提案してきたのは、姉だった。

『結婚式のことがあるから。』

君下は、尻込みした。

『結婚式のときは、まだ私と結婚してなかったから。』

姉に勧められた君下は、そんなに姉が勧めるなら、と義兄に大学進学の学費の援助を頼んでみた。

君下が学費の援助を申し込むときには、両親と、姉と君下と義兄の五人が席についていた。

『君下くんがご両親の同意を得て、私に支援を求めてこられたのでしたら、私に支援を求める意味をご理解いただいていますね?』

それが、義兄の第一声だった。

君下は、義兄に支援を求めるとは、どういう意味かをその場で尋ねなかったことを後になってたびたび思い返している。

社会に出たことがなく、大きな買い物をしたこともなければ、借金の経験もない君下は。

個人に学費の援助を申し込み、その個人からお金を出してもらえるということが。

お金を与えることとは違う意味を持っているということまで、考えられなかった。

『君下くんの大学の学費の支援をするには、条件があります。

私が援助する額は、君下くんが入学から卒業するまでのまる四年間の学費のみ。

君下くんが、留年した場合の増える分は援助しません。

君下くんが留学する場合の費用も、私は援助しません。』

義兄が援助してくれる範囲について説明してくれるのを、君下はごもっともだと大人しく聞いていた。

『君下くんへの私からの学費援助について。

君下くんのお姉さんと私の婚姻関係が継続し、私の家庭が円満である期間は、君下くんに学費の返還を求めません。』

君下と両親は、喜んだ。

君下は、姉が自分探しを始めるとは思っていなかった。

君下の両親は、姉と義兄が離婚する理由などないと考えていた。

君下も君下も両親も、義兄から君下への援助が返金を要しない支援だと思い込んだ。

『お姉さんと私の婚姻関係の継続が困難になると予想がついた時点で、君下くんへ援助した学費は、全額返還するように求めます。』

義兄の説明は続いたけれど、君下も両親も、返還する事態にはならないと思い込んでいた。

『私の子ども達の養育に支障をきたす出来事が起きたときは、君下くんへの援助は打ち切ります。』

えっ、と驚く君下に、義兄は、親切に教えてくれた。

『本来、血の繋がりがある親でも兄弟姉妹でもない私が、君下くんに支援をする必要はない。

その上で私からの支援を望むなら、親からの支援と同じにはならないことを理解してからにしなさい。』

義兄は、君下の両親にも説明した。

『私が、私の子どもではない君下くんより、我が子を優先するのは親として当然です。』

両親は、義兄にその通りです、と答えていた。

『私が君下くんに援助をするということは。

君下くんが大学を卒業後、うちで、一生、私の下で働くたる人物になるためのもの。

これが受け入れられないのなら、私に援助の申し入れをされてはならない。』

義兄が生きている間、義兄の事業が傾くことはない。

両親も君下も、大学に入学前に就職先を確保出来て、ホクホクした気持ちになった。

君下と君下の両親は、二つ返事で義兄の条件をのんだ。

学費を払おうと応諾してくれた義兄は、有言実行で、君下の大学費用を払い忘れることなど一度もなかった。

君下は、義兄の出した条件を聞いて喜んでいた両親の顔と自身のはしゃぎ様は思い出せても、その話が決まったときの姉の表情は思い出せない。

姉がいなくなったと知らされた当時の君下は、姉の自分探しなんて数日で終わると漠然と考えていた。

姉の不在が年単位に及ぶことになるなんて、当時の君下では、予想出来なかった。

その後。
姉の長きにわたる不在と、姉の勧めに乗った君下の世間知らずな一面が、君下の今の状況を作ることとなった。
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