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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。
52.君下が甥姪に話していない君下自身の話その10。資産を子孫へ残す家。結婚してから買い物をしたがる姉は、結婚以来、実家に帰っていない?
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『ただ、芙蓉の娘さんの場合。
学んで吸収したものが、知識にとどまり、実践に活かせない。
実践に活かす努力をしていることもあったが、なぜ自分がこんなことをしなくてはいけないのか、と露骨に態度に出すこともあった。』
『姉がやる気を見せることは、ありましたか?』
『大蔵さんのためになるなら、と積極的に学ぼうとする一面は持ち合わせていた。
しかし、自分自身を着飾ることには、前向きを通り越して前のめりになっていた。』
君下は、結婚前の姉の様子を思い出しながら話した。
『結婚前は、着飾ってこなかったから、結婚したら着飾りたいと姉は考えていたのかもしれません。』
宇佐見兎氏は、君下の姉への認識に釘を刺す。
『着飾りたいから、自分のお金で着飾るという発想が芙蓉の娘さんにはなかった。』
『高額な買い物を姉はしようとしていたのですか?』
『愛され妻は、いつも可愛くて綺麗で家にいるのが、夫の喜びだ、と言って、お金を使う計画を立てるのに熱心だった。』
君下は、話を聞きながら申し訳なく思った。
『姉は、美容や服やアクセサリーにお金をかけたんですか?』
『実際にお金をかけることはなかった。
私が止めたから。』
君下は、自身を義兄の立場におき変えて考えてみた。
『それは、ありがとうございます。』
『結婚したのだから、夫婦の稼ぎは夫婦のものになる、他人がいつまで口を挟むのだ、と芙蓉の娘さんは反発するばかり。
ついには、ほうぼうで、私と大蔵さんの愚痴をこぼすという形で恥をばらまき始めた。』
『恥、ですか?』
『娘さんの卑しい本音と言い換えても構わない。
結婚したから、本性をあらわにした、ということだろう。』
姉は、お金を使うことばかりに執着して、警戒されたのだろうか、と君下は姉の存在が恥ずかしくなった。
『結婚して、夫の稼ぎで贅沢することが姉の望みであることを姉は隠さなくなったということですか?』
姉のしようとしたことが、宇佐見兎氏の話した通りのことなら。
君下は、姉のような女性と所帯は持ちたくない。
『結婚するまでは、なんでも言ってください、どんなことでも頑張ります、世界一相応しい奥さんになります、と話していた。
結婚してからは、二言目には、実家ではお金をかけてもらえなかったんです、と言いながら、自分の欲望を隠さなくなった。』
『実害は、ありましたか?』
損失補填を考えて、君下は、怖くなった。
『大蔵さんに実害など出させない。
娘さんが行動に移そうとする都度止めた。』
『姉を止めていただいて、ありがとうございます。』
君下は、心からお礼を述べた。
このときの君下は、君下の隣にいる両親がどんな面持ちで、君下と宇佐見兎氏の会話を聞いているかなど、気にしていなかった。
宇佐見兎氏と話す間に、君下の考え方は、問題を起こした姉や両親寄りから、宇佐見兎氏寄りへとシフトしていった。
両親や宇佐見兎氏は、君下の変化に勘付いていたが、君下だけは気づいていなかった。
『資産は、代々増やして後世に残すものであり、たまたま財のある時代に生きている一人が食い潰すものではない。
こういう話を何度もした。』
君下の両親は、家業で儲けているという話をしないが、家業を畳む話もしたことがない。
『そもそもの話になるが、大蔵さんの稼ぎは、代々大蔵家の財産によるものが加味され、大蔵家の子孫に引き継ぐもの。』
君下は、両親が家業としている芙蓉の名前でする仕事のやり方を想像した。
『大蔵さんの子孫ではない芙蓉の娘さんは、大蔵さんを助けるだけでなく、大蔵さんの子どもやさらにその子どもが、大蔵さんの大きくした資産を増やすように育てていかなくてはならない。』
その理屈は、君下にも分かる。
芙蓉の名前には愛着があり、両親がしている家業の芙蓉の名前は残したいと、君下も思っている。
芙蓉の家業が、君下を育ててくれた。
君下が、ふんふんと穏やかな気持ちで納得しているところに、宇佐見兎氏は爆弾を落としてきた。
『芙蓉の娘さんが、食い潰すための大蔵さんの財は一銭もない。』
『姉は、食い潰すほどの贅沢をしたがったんですか?』
『金額ではなく、使い道が決まっている大蔵さんのお金の使い道を芙蓉の娘さんが勝手していいわけがない。
芙蓉の娘さんは、その事実が理解しがたかったようで、お金はあるのに使えないお金しかない、とことあるごとに言うようになった。』
『大蔵さんのお金を使って、姉の好きに買い物出来なかったということですか?』
宇佐見兎氏は、一気に話した。
『大蔵さんのお金で大蔵さんのものを買うにあたり、芙蓉の娘さんは芙蓉の娘さんの好きなところで大蔵さんに買ってあげると言い出した。
大蔵さんの買い物は、どれも大蔵さんの取引。
芙蓉の娘さんが介入するものではないと何度も諭した。
こちらの方が安いだの、ポイントがつくだの、サービスがいいから新しい取引先にしようだの、芙蓉の娘さんは諦めなかった。
芙蓉の実家で試すか、大蔵さんとは関係のない芙蓉の娘さん自身の資産で取引するようにと告げると、芙蓉の実家は弟にお金はかけるけど、姉にはお金をかけないから、自分には夫しかいないと言う。
芙蓉の実家に相談に行くように促しても、実家には行きたくない、私にお金をかけたくない実家に行っても惨めなだけと頑なに相談に行かない。』
姉は、結婚してから一度も実家に帰ってきていない。
四人産んで、四回とも里帰り出産をしなかった。
君下は、ハッとした。
姉は、結婚してから実家に来なかっただけでなく、四人の子ども達も実家に連れてきたことがない。
君下が考えていた、祖父母の孫育てプランは、孫育てをしたい祖父母と祖父母に甘やかされたい孫がいる前提なのに。
磨白、総、奈美、玲は、大人しい性格ではない。
初対面でしかない祖父母に預けても懐かない甥姪の姿と、所在なげにする両親の姿が、甥姪と何回か遊んだ叔父である君下には簡単に想像できた。
両親に預けるプランは、両親と甥姪が望まない限り実現に向けて動き出さない方がいいと、君下は様子見に決めた。
学んで吸収したものが、知識にとどまり、実践に活かせない。
実践に活かす努力をしていることもあったが、なぜ自分がこんなことをしなくてはいけないのか、と露骨に態度に出すこともあった。』
『姉がやる気を見せることは、ありましたか?』
『大蔵さんのためになるなら、と積極的に学ぼうとする一面は持ち合わせていた。
しかし、自分自身を着飾ることには、前向きを通り越して前のめりになっていた。』
君下は、結婚前の姉の様子を思い出しながら話した。
『結婚前は、着飾ってこなかったから、結婚したら着飾りたいと姉は考えていたのかもしれません。』
宇佐見兎氏は、君下の姉への認識に釘を刺す。
『着飾りたいから、自分のお金で着飾るという発想が芙蓉の娘さんにはなかった。』
『高額な買い物を姉はしようとしていたのですか?』
『愛され妻は、いつも可愛くて綺麗で家にいるのが、夫の喜びだ、と言って、お金を使う計画を立てるのに熱心だった。』
君下は、話を聞きながら申し訳なく思った。
『姉は、美容や服やアクセサリーにお金をかけたんですか?』
『実際にお金をかけることはなかった。
私が止めたから。』
君下は、自身を義兄の立場におき変えて考えてみた。
『それは、ありがとうございます。』
『結婚したのだから、夫婦の稼ぎは夫婦のものになる、他人がいつまで口を挟むのだ、と芙蓉の娘さんは反発するばかり。
ついには、ほうぼうで、私と大蔵さんの愚痴をこぼすという形で恥をばらまき始めた。』
『恥、ですか?』
『娘さんの卑しい本音と言い換えても構わない。
結婚したから、本性をあらわにした、ということだろう。』
姉は、お金を使うことばかりに執着して、警戒されたのだろうか、と君下は姉の存在が恥ずかしくなった。
『結婚して、夫の稼ぎで贅沢することが姉の望みであることを姉は隠さなくなったということですか?』
姉のしようとしたことが、宇佐見兎氏の話した通りのことなら。
君下は、姉のような女性と所帯は持ちたくない。
『結婚するまでは、なんでも言ってください、どんなことでも頑張ります、世界一相応しい奥さんになります、と話していた。
結婚してからは、二言目には、実家ではお金をかけてもらえなかったんです、と言いながら、自分の欲望を隠さなくなった。』
『実害は、ありましたか?』
損失補填を考えて、君下は、怖くなった。
『大蔵さんに実害など出させない。
娘さんが行動に移そうとする都度止めた。』
『姉を止めていただいて、ありがとうございます。』
君下は、心からお礼を述べた。
このときの君下は、君下の隣にいる両親がどんな面持ちで、君下と宇佐見兎氏の会話を聞いているかなど、気にしていなかった。
宇佐見兎氏と話す間に、君下の考え方は、問題を起こした姉や両親寄りから、宇佐見兎氏寄りへとシフトしていった。
両親や宇佐見兎氏は、君下の変化に勘付いていたが、君下だけは気づいていなかった。
『資産は、代々増やして後世に残すものであり、たまたま財のある時代に生きている一人が食い潰すものではない。
こういう話を何度もした。』
君下の両親は、家業で儲けているという話をしないが、家業を畳む話もしたことがない。
『そもそもの話になるが、大蔵さんの稼ぎは、代々大蔵家の財産によるものが加味され、大蔵家の子孫に引き継ぐもの。』
君下は、両親が家業としている芙蓉の名前でする仕事のやり方を想像した。
『大蔵さんの子孫ではない芙蓉の娘さんは、大蔵さんを助けるだけでなく、大蔵さんの子どもやさらにその子どもが、大蔵さんの大きくした資産を増やすように育てていかなくてはならない。』
その理屈は、君下にも分かる。
芙蓉の名前には愛着があり、両親がしている家業の芙蓉の名前は残したいと、君下も思っている。
芙蓉の家業が、君下を育ててくれた。
君下が、ふんふんと穏やかな気持ちで納得しているところに、宇佐見兎氏は爆弾を落としてきた。
『芙蓉の娘さんが、食い潰すための大蔵さんの財は一銭もない。』
『姉は、食い潰すほどの贅沢をしたがったんですか?』
『金額ではなく、使い道が決まっている大蔵さんのお金の使い道を芙蓉の娘さんが勝手していいわけがない。
芙蓉の娘さんは、その事実が理解しがたかったようで、お金はあるのに使えないお金しかない、とことあるごとに言うようになった。』
『大蔵さんのお金を使って、姉の好きに買い物出来なかったということですか?』
宇佐見兎氏は、一気に話した。
『大蔵さんのお金で大蔵さんのものを買うにあたり、芙蓉の娘さんは芙蓉の娘さんの好きなところで大蔵さんに買ってあげると言い出した。
大蔵さんの買い物は、どれも大蔵さんの取引。
芙蓉の娘さんが介入するものではないと何度も諭した。
こちらの方が安いだの、ポイントがつくだの、サービスがいいから新しい取引先にしようだの、芙蓉の娘さんは諦めなかった。
芙蓉の実家で試すか、大蔵さんとは関係のない芙蓉の娘さん自身の資産で取引するようにと告げると、芙蓉の実家は弟にお金はかけるけど、姉にはお金をかけないから、自分には夫しかいないと言う。
芙蓉の実家に相談に行くように促しても、実家には行きたくない、私にお金をかけたくない実家に行っても惨めなだけと頑なに相談に行かない。』
姉は、結婚してから一度も実家に帰ってきていない。
四人産んで、四回とも里帰り出産をしなかった。
君下は、ハッとした。
姉は、結婚してから実家に来なかっただけでなく、四人の子ども達も実家に連れてきたことがない。
君下が考えていた、祖父母の孫育てプランは、孫育てをしたい祖父母と祖父母に甘やかされたい孫がいる前提なのに。
磨白、総、奈美、玲は、大人しい性格ではない。
初対面でしかない祖父母に預けても懐かない甥姪の姿と、所在なげにする両親の姿が、甥姪と何回か遊んだ叔父である君下には簡単に想像できた。
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