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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。
53.君下が甥姪に話していない君下自身の話その11。姉を弁護士しない両親。結婚したから変わった?環境と人生を変えるために結婚したかった?
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宇佐見兎さんが話す姉の逸話は、真面目に地味に暮らしてきた姉とは正反対過ぎて、その変わり様に同一人物かを疑うレベルだ。
結婚する前の姉が、姉の犠牲が君下の生活の不自由さをなくしたのだという恨み言を聞いていなければ。
言動がおかしくなったのは結婚して環境が変わったせいだ、と解説したくなったかもしれない。
姉の本心だと思われる言葉を聞いている君下は、姉の変貌ぶりが、結婚した姉のしたかったことかもしれないと考え始めていた。
『芙蓉の娘さんは、大蔵さんの財に好きに手を付けても構わないという発想を持っている。
臆面もなく他者にその考え方を話して、同意を得たがるところもあわせると。
私や大蔵さんと、芙蓉の娘さんの持つ家族像や結婚観は相容れないということが分かった。
芙蓉の娘さんの考え方には、これからも共感出来ない。』
両親は、姉を弁護しなかった。
頭を下げたまま、何も言わない両親に君下は、どうして、と思う。
どうして両親は、姉を庇わないんだろう?
『芙蓉の娘さんが、娘さんの自由に浪費したいときは、娘さん自身の稼ぎを使うか、実家の芙蓉家が娘さんに使えるお金を用意する。
何度説明しようとも、娘さんは理解せず、大蔵家の資産に手をつけようとした。』
君下は、話を聞きながら気が重くなってきた。
『姉は、結婚前の大蔵さんの稼いだ分を使おうとしたのですか?』
『大蔵さんが大蔵さんとして生活するために割り当ててあるお金を使おうとした。』
君下は、聞きたくないけれど聞かないわけにはいかない、とその質問を口から押し出した。
『姉は義兄の財布からお金を抜いたんですか?』
『財布からお金を抜くのではなく、大蔵さんが決めている取引を勝手にキャンセルしようとした。』
想像していなかった答えに当惑しながら、君下は質問を続ける。
『義兄の決めた取引をキャンセルなんて、そんなことが姉にできますか?』
『家にいる時間が長いのは妻だから、家の中を快適にする、と主張して、家の中で使うもの取引先を切ろうとした。』
言葉で聞いても、姉のしようとしたことが、君下にはピンとこない。
『家のものとは、例えば、どんなものですか?』
『例に出すと、水や米といった食料品、ティッシュペーパーのような生活必需品や、ボールペンのような文房具に至るまで。』
『そういうものも取引先が決まっているものなんですか?』
例えを聞いた君下は、日常の買い物くらい姉の好きにさせても良かったんじゃないか、と思った。
姉は、生活費を減らそうとするくらいの気持ちで、悪意なんかなかったはずだと君下は思う。
大学近くにアパートを借りて一人暮らしを始めた君下は、生活する空間を維持するためには手間がかかると知っている。
宇佐見兎氏の話では、姉と義兄が生活していくために必要な買い物は全て義兄が済ませている。
結婚した姉が、義兄との生活ですることは、食事作りや掃除洗濯などのお金を使わない分野の家事。
仕事で不在がちな義兄の分の食事や洗濯をする機会はあまりなかっただろうから、家の掃除くらいだとすると。
一日の残りの時間は、義兄のお嫁さんとして足りなかった分の勉強にあてたのだろうか?
ここまでくると、結婚が面倒なものに思えてくる。
姉は、どうして、そこまでして結婚したがったのか。
結婚がしたかったのなら、義兄じゃなくても良かったのに。
姉が義兄と結婚しなかったら?
姉も両親も君下も、きっと修羅場を体験していない。
『大蔵さんの家の中に置くものは、小さなもの一つにも、代々の大蔵さんが取引先を選んできたということが、芙蓉の娘さんには理解しがたかった。』
『家のものを買うだけなのに取引先?』
首を傾げる君下に、芙蓉の名前で仕事をしているご両親は、代々の取引先との仕事しかしていない、と宇佐見兎氏は、君下に示唆した。
君下は、ようやく合点がいった。
『大蔵さんの代々の取引先は、うちの芙蓉のように、昔からある家。
義兄は代々の取引先を切る気はないから、同じ取引が同じ取引先と続くはずだったのに、姉はネット通販を使うからと、大蔵さんの代々の取引先との取引を打ち切ろうとした。
大蔵さんの代々の取引先から、大蔵さんへ問い合わせがきたんですか?』
姉のしたことが撤回されていなければ、かつては栄華をほこったけれど、今は細々と家業を継いで家業だけで生きている両親のような取引先に、事前通告なしに打撃を与えていたのだ。
長らくの付き合いとして取引してきたのは、大蔵さんに、そこと取引する理由があるからだ。
義兄のお嫁さんになった姉よりも、大蔵さんの取引先をしてきた家の方が義兄との付き合いが長い。
義兄や仲人の宇佐見兎さんに信用されていない姉が、代々の大蔵さんと取引している家との取引を打ち切ろうとすれば?
義兄は、姉の好きにさせようと思わなくなる。
義兄のお嫁さんになった姉は、義兄の関係者から反感を買い、言動への信用を失った。
君下は、姉に対する義兄の態度に愛情が足りないと感じていた正体に気付いた。
姉に対する愛情は、あったかもしれない。
義兄が姉に持っていた愛情が枯れたのだとしても、君下にはもう義兄を責めることはできない。
姉は、出発点を誤魔化してしまった。
最初に、高い下駄を履かせてもらっていた姉は、下駄がなくなった途端に、義兄にも義兄の周りにも通用しなくなった。
義兄は、姉が結婚前に求めた基準に達していなくても、すぐに離婚しようとはしなかった。
義兄は、姉を投げ出さずに、仲人の宇佐見兎さんと、姉が一人前になるまで教育することを選んだ。
それなのに。
姉は、どうして、駄目な方へ駄目な方へ行動してしまったのだろうか。
姉のことを思うと、やるせなくなる。
姉のやることなすことが、裏目に出るのは、なぜなのか。
姉の思考パターンのせいだろうか?
姉の思考パターンは、姉の性格と成育歴から出来上がっている。
子どものときから生真面目な姉の性格は、お調子者だった君下の性格とは似ても似つかない。
何が、姉と君下を分けたのだろう?
結婚する前の姉が、姉の犠牲が君下の生活の不自由さをなくしたのだという恨み言を聞いていなければ。
言動がおかしくなったのは結婚して環境が変わったせいだ、と解説したくなったかもしれない。
姉の本心だと思われる言葉を聞いている君下は、姉の変貌ぶりが、結婚した姉のしたかったことかもしれないと考え始めていた。
『芙蓉の娘さんは、大蔵さんの財に好きに手を付けても構わないという発想を持っている。
臆面もなく他者にその考え方を話して、同意を得たがるところもあわせると。
私や大蔵さんと、芙蓉の娘さんの持つ家族像や結婚観は相容れないということが分かった。
芙蓉の娘さんの考え方には、これからも共感出来ない。』
両親は、姉を弁護しなかった。
頭を下げたまま、何も言わない両親に君下は、どうして、と思う。
どうして両親は、姉を庇わないんだろう?
『芙蓉の娘さんが、娘さんの自由に浪費したいときは、娘さん自身の稼ぎを使うか、実家の芙蓉家が娘さんに使えるお金を用意する。
何度説明しようとも、娘さんは理解せず、大蔵家の資産に手をつけようとした。』
君下は、話を聞きながら気が重くなってきた。
『姉は、結婚前の大蔵さんの稼いだ分を使おうとしたのですか?』
『大蔵さんが大蔵さんとして生活するために割り当ててあるお金を使おうとした。』
君下は、聞きたくないけれど聞かないわけにはいかない、とその質問を口から押し出した。
『姉は義兄の財布からお金を抜いたんですか?』
『財布からお金を抜くのではなく、大蔵さんが決めている取引を勝手にキャンセルしようとした。』
想像していなかった答えに当惑しながら、君下は質問を続ける。
『義兄の決めた取引をキャンセルなんて、そんなことが姉にできますか?』
『家にいる時間が長いのは妻だから、家の中を快適にする、と主張して、家の中で使うもの取引先を切ろうとした。』
言葉で聞いても、姉のしようとしたことが、君下にはピンとこない。
『家のものとは、例えば、どんなものですか?』
『例に出すと、水や米といった食料品、ティッシュペーパーのような生活必需品や、ボールペンのような文房具に至るまで。』
『そういうものも取引先が決まっているものなんですか?』
例えを聞いた君下は、日常の買い物くらい姉の好きにさせても良かったんじゃないか、と思った。
姉は、生活費を減らそうとするくらいの気持ちで、悪意なんかなかったはずだと君下は思う。
大学近くにアパートを借りて一人暮らしを始めた君下は、生活する空間を維持するためには手間がかかると知っている。
宇佐見兎氏の話では、姉と義兄が生活していくために必要な買い物は全て義兄が済ませている。
結婚した姉が、義兄との生活ですることは、食事作りや掃除洗濯などのお金を使わない分野の家事。
仕事で不在がちな義兄の分の食事や洗濯をする機会はあまりなかっただろうから、家の掃除くらいだとすると。
一日の残りの時間は、義兄のお嫁さんとして足りなかった分の勉強にあてたのだろうか?
ここまでくると、結婚が面倒なものに思えてくる。
姉は、どうして、そこまでして結婚したがったのか。
結婚がしたかったのなら、義兄じゃなくても良かったのに。
姉が義兄と結婚しなかったら?
姉も両親も君下も、きっと修羅場を体験していない。
『大蔵さんの家の中に置くものは、小さなもの一つにも、代々の大蔵さんが取引先を選んできたということが、芙蓉の娘さんには理解しがたかった。』
『家のものを買うだけなのに取引先?』
首を傾げる君下に、芙蓉の名前で仕事をしているご両親は、代々の取引先との仕事しかしていない、と宇佐見兎氏は、君下に示唆した。
君下は、ようやく合点がいった。
『大蔵さんの代々の取引先は、うちの芙蓉のように、昔からある家。
義兄は代々の取引先を切る気はないから、同じ取引が同じ取引先と続くはずだったのに、姉はネット通販を使うからと、大蔵さんの代々の取引先との取引を打ち切ろうとした。
大蔵さんの代々の取引先から、大蔵さんへ問い合わせがきたんですか?』
姉のしたことが撤回されていなければ、かつては栄華をほこったけれど、今は細々と家業を継いで家業だけで生きている両親のような取引先に、事前通告なしに打撃を与えていたのだ。
長らくの付き合いとして取引してきたのは、大蔵さんに、そこと取引する理由があるからだ。
義兄のお嫁さんになった姉よりも、大蔵さんの取引先をしてきた家の方が義兄との付き合いが長い。
義兄や仲人の宇佐見兎さんに信用されていない姉が、代々の大蔵さんと取引している家との取引を打ち切ろうとすれば?
義兄は、姉の好きにさせようと思わなくなる。
義兄のお嫁さんになった姉は、義兄の関係者から反感を買い、言動への信用を失った。
君下は、姉に対する義兄の態度に愛情が足りないと感じていた正体に気付いた。
姉に対する愛情は、あったかもしれない。
義兄が姉に持っていた愛情が枯れたのだとしても、君下にはもう義兄を責めることはできない。
姉は、出発点を誤魔化してしまった。
最初に、高い下駄を履かせてもらっていた姉は、下駄がなくなった途端に、義兄にも義兄の周りにも通用しなくなった。
義兄は、姉が結婚前に求めた基準に達していなくても、すぐに離婚しようとはしなかった。
義兄は、姉を投げ出さずに、仲人の宇佐見兎さんと、姉が一人前になるまで教育することを選んだ。
それなのに。
姉は、どうして、駄目な方へ駄目な方へ行動してしまったのだろうか。
姉のことを思うと、やるせなくなる。
姉のやることなすことが、裏目に出るのは、なぜなのか。
姉の思考パターンのせいだろうか?
姉の思考パターンは、姉の性格と成育歴から出来上がっている。
子どものときから生真面目な姉の性格は、お調子者だった君下の性格とは似ても似つかない。
何が、姉と君下を分けたのだろう?
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