言霊の手記

第2章 憶測で語らない。可能性は否定しない。

26.『子どもが子どもらしく暮らせる町。親子目線で暮らしやすさを追求して、安心。』牡丹の庭中学校の校区の造成が始まったときのコンセプト。

「秘密に触れる人が増えると、秘密の抱え方に濃淡ができる。

秘密が暴かれても、困らない人が秘密を知る機会が増える。」
と奈美。

牡丹の庭中学校の校区を含めた最寄り駅からの航空写真を示す萃。

「牡丹の庭中学校を使った生徒と保護者と校区内の土地を支配するやり方は、牡丹の庭中学校の校区を支配することに適している。」
と萃。

「牡丹の庭中学校の校区は、第一級危険地帯になる前、どんな場所だった？」
と奈美。

「一学年十クラス以上で三学年収容していた時期があったからか、牡丹の庭中学校は、中学校の校舎も敷地も十分な広さがある。

駅から離れているから、広い土地を確保しやすかった？」
と透雲。

「牡丹の庭中学校の校区は、山を削って宅地に変えた地域だから、中学校も小学校も、スーパー、公園も、どこにどれだけの広さにするかを決めてから開発されている。」
と萃。

「子育て世代のために造成した町。」
と透雲。

「開発当初から、牡丹の庭中学校が一学年十クラス以上を維持してきたのは。

子どもに害がない環境だと評判を呼び、子育て世代を大量に呼び込むことに成功した地区だったから。」
と萃。

「子どもに害がない町というのは、どのあたりが？」
と奈美。

「牡丹の庭中学校の校区にあるのは、団地や戸建ての他に、牡丹の庭小学校、牡丹の庭中学校、個人医院、個人商店、徒歩で利用できるスーパー、本屋、大小ある公園。

小中学生の子どもを持つ親が、子どもだけで出かけさせても、安心できる。」
と萃。

「安心安全。なぜなら、町に何もないから。」
と透雲。

「遊興施設も歓楽街どころか、ファーストフード店やファミレスさえ、牡丹の庭中学校の校区には一店もない。」
と萃。

「出店拒否にでもあった？

ファミリー層を客層にしている店が出店拒否するくらい、店へ提示された条件が良くないものだったとか？」
と奈美。

「店舗のための土地は、確保されなかった。」
と萃。

奈美が驚いて、航空写真と地図を見比べるので、透雲も一緒に地図を見ている。

「市は、店を出店するための場所を牡丹の庭中学校の校区に確保しなかったということ？」
と奈美。

「計画的に作ったにしても。町として、歪じゃない？」
と透雲。

「最低限用意ものが揃うならば暮らせなくはない。

ネット通販もある。

でも、牡丹の庭中学校の校区の造成が決まった時期は、ネット通販が今よりも日常使いされていなかった。」
と奈美。

「牡丹の庭中学校の校区を造成する前、計画段階から、牡丹の庭中学校の校区内を出店禁止地区に指定している。」
と萃。

「案を通す前に、他の可能性を考えて修正しようとはしなかった？」
と驚く奈美。

「子どもが子どもらしく暮らせる町。

牡丹の庭中学校の開発当初のコンセプトは、親子目線の暮らしやすさを追求することが、親の安心に繋がる、だった。」
と萃。

「牡丹の庭中学校の校区に子育て世代が集中した時代は、確かにあった。

造成するときのコンセプトは、成功している。

ある時点までは。」
と透雲。

「今は寒々しいと感じても当時は斬新で、子育て環境の理想を体現するコンセプトだったのかもしれない。」
と奈美。

「牡丹の庭中学校の校区で育った数多くの子ども達が巣立つと。

世代交代が進まなかった牡丹の庭中学校の校区は、一気に若年層の人口低下を招いた。」
と萃。

「理由は想像出来る。

駅近物件ではないから。

共働き家庭は、勿論、自分で財布を持ち歩く年齢になったら、不便な場所だから。」
と奈美。

「自治会の活動が活発で、家を持ちたくても、自治会への参加は面倒だと感じた家庭が多かっというのも追加で。」
と萃。

「世代交代とともに、牡丹の庭中学校の校区は、若年層の持ち家希望者に不人気な地区へとなっていった。」
と奈美。

「牡丹の庭中学校の校区の住民が、生活のためにお金を使う場所は校区内にある。

しかし。

牡丹の庭中学校の校区の住民が稼ぐ場所や、校区外からきた人がお金を使う場所はどこにもない。」
と透雲。

「駅から徒歩で三十分はかかる牡丹の庭中学校の校区に、用もなく、駅を降りて、ふらっと散歩するような人は訪れない。」
と萃。

「町の中でお金が循環せず、最低限しかお金を落とす場所がない町が廃れたと聞いても、おかしいとは思えない。」
と奈美。

「駅から外れた場所に、社会のサイクルに入らない町を作ったら、社会から置き去りにされる。

開発時には需要があったんだろうけれど。

その町で育った子ども世代が魅力に思えない町だとね。」
と透雲。

「牡丹の庭中学校の校区に住んでいる人だけが、牡丹の庭中学校の校区を出入りする。」
と奈美。

「牡丹の庭中学校の校区を出入りする人は、限定され、固定されている。」
と萃。

「住宅地以上の機能を備えずに開発された牡丹の庭中学校は、かつて、住宅地として十分機能した。」
と透雲。

「かつて牡丹の庭中学校の校区を栄えさせた住宅地としての機能は。

市の施策により、牡丹の庭中学校の校区に住む少女を苦しませる蟻地獄になった。」
と奈美。

「牡丹の庭中学校の校区以外の土地への応用は、可能なのかな。」
と透雲。

「牡丹の庭中学校がモデルケースとして採用されたのだとしたら、ということ？」
と奈美。

「うん。成功例だよね。」
と透雲。