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第2章 憶測で語らない。可能性は否定しない。
37.奈美と透雲の出会い。自分探しに出て帰ってこない母がいる奈美は、自分から家族の話をすることはなくなっていた。奈美の転機は?
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奈美と萃は、お金が足りない生活を知らない。
かつて、奈美の母が自分探しに出かけて、君下が合流するまでの時間や、父が帰ってくるまでの時間。
当時中学生だった長女の磨白と長男の総は、奈美が聞いているときにお金の話をしなかった。
透雲の場合は、お金が足りなくなるから、親が決めていないものは欲しがらないようにと最初に釘をさされて育っている。
奈美と萃、透雲は、お金の捉え方が同じではない。
「透雲も毎日、家のローンを考えて生活する?」
と奈美。
家のローンというよりも、使い道が決まっているお金と自由に使えるお金を同じ使えるお金として扱わない、と透雲は断りを入れてから話し出した。
「私の場合。
塾代にお金がかかるから、それ以外にはお金を使わないと親から言われている。」
と透雲。
「それ以外って、どの範囲をさしている?」
と萃。
「中学校は、制服がある。
出かける予定がなければ、着ていく機会がない。
服は親戚に会うときと塾に着ていく私服は持っている。」
と透雲。
「服をあまり買わない?」
と萃。
「基本的に、私は学校と塾以外の外出をしない。
服は着れるものを買う。
靴は、足に合う靴を履く。」
と透雲。
「私にはない思考。」
と萃。
萃は、歴史ある名家の一族として生を受けて以来、生まれに相応しい装いをしてきた。
奈美も、身につけるものについての制限を受けたことはない。
奈美、萃、透雲の三人とも口にしないが、萃と奈美が着ている服と透雲の着ている服は、一桁違う。
奈美と萃は、家の仕事繋がりだが、萃と透雲は、奈美が引き合わせた。
奈美と透雲の出会いは、小六のときの模試会場。
中学受験を考えている小学生が受ける模試の会場で、座席が近いことが続き、互いに認識した。
普段は、全く関わりがなく、連絡先も知らないが、模試会場で会えば話す。
小六のときの奈美と透雲の距離感は、さっぱりしていた。
入試直前の模試で、入試の話を持ち出した奈美に、透雲は明るく答えた。
『私は、公立中学校に進学するよ。応援している。』
奈美は、このとき初めて、透雲と連絡先を交換した。
『透雲、中学生になっても会わない?』
『奈美とは模試会場で会うこともなくなるからね。』
奈美と透雲の付き合いは、奈美の入試を挟み、二人が小学校を卒業したあたりから、再開した。
奈美と透雲は、模試や受験以外の話をするようになった。
奈美は、透雲と話すようになって、初めて、兄弟以外と家族の話をすることが出来た。
お母さんが自分探しに行ったきり帰ってこない、ということを小学校低学年だった奈美が飲み込んで、誰かに話すことは難しかった。
お母さんが自分探しに出ていく家庭は、奈美の知る限り、奈美の家以外なかった。
家に帰ったらお母さんがおかえりと言ってくれたり、どこかに出かけていても、お母さんが必ず家に帰ってくる家庭と、奈美の家庭は違っていた。
差異を知っているから、奈美は語らなかった。
語る人の話を遮ることはしなかったが、お母さんが家庭に存在する人と同じ立場には立つのは不可能だと思い、両親について話すことは控えた。
誰にも家族の話をしてこなかった奈美だが、透雲とは家族について話した。
透雲の家族は、透雲に愛情を持ってはいても、透雲にとっての快適な家庭を作ってはいなかった。
透雲と話すうちに、奈美は、大蔵探偵事務所をするときには声をかけようと決めた。
透雲は、物事の中心地点に入っていかずに、外から物事を見て身の振り方を決めていた。
円滑な人間関係のために、興味がない話題を調べて口の端に乗せることも出来る透雲は、自身の癖を隠して相手に合わせられる。
人間関係の継続には、奈美の働きかけが必要だが、初対面の誰かと話すことは苦にならない透雲の性格は、探偵にぴったり。
奈美は、事前にいくらか透雲から聞いていたが、初めて透雲の家族事情を聞く萃は、驚いている。
「お洒落な服やアクセサリーを買うのは、大学生になってバイトをして自分で、と言われている。」
と透雲。
「透雲の学費に集中投資。」
と奈美。
「今の私は、お金を使うことはあっても稼ぐことは当分ない。
親に養われている間は、親の方針で生きる。
家にお金がなければ、親も私は路頭に迷う。」
と透雲。
「家計を気遣って欲しいものを買うか決める?」
と萃。
「私の家は、欲しいときに欲しいものを買うよりも、必要なときに必要なものを買うから。」
と透雲。
「必要なときに必要なものが買えないのは、確かに困る。」
と萃。
「ローンで家を買った大人が、牡丹の庭中学校の校区から出ていくことを躊躇したことについて。
残念な判断だと、私は思わない。
ない袖は振れない。」
と透雲。
「牡丹の庭中学校の現状から、早めに牡丹の庭中学校の校区の家を手放すのが正解だったと言えるのは、子どもである生徒側の立場からの判断でしかない、と。」
と奈美。
「保護者である親からすると、引っ越して、借金で首が回らなくなる未来にいつ転落するか分からない状況になるよりも、嫌なことをやり過ごして、ローンの返済に集中するのは、保護者の残りの人生を勘案すると悪くない計画ということ?」
と萃。
「親の方が、お金のやり繰りの苦労を知っているんじゃない?」
と透雲。
かつて、奈美の母が自分探しに出かけて、君下が合流するまでの時間や、父が帰ってくるまでの時間。
当時中学生だった長女の磨白と長男の総は、奈美が聞いているときにお金の話をしなかった。
透雲の場合は、お金が足りなくなるから、親が決めていないものは欲しがらないようにと最初に釘をさされて育っている。
奈美と萃、透雲は、お金の捉え方が同じではない。
「透雲も毎日、家のローンを考えて生活する?」
と奈美。
家のローンというよりも、使い道が決まっているお金と自由に使えるお金を同じ使えるお金として扱わない、と透雲は断りを入れてから話し出した。
「私の場合。
塾代にお金がかかるから、それ以外にはお金を使わないと親から言われている。」
と透雲。
「それ以外って、どの範囲をさしている?」
と萃。
「中学校は、制服がある。
出かける予定がなければ、着ていく機会がない。
服は親戚に会うときと塾に着ていく私服は持っている。」
と透雲。
「服をあまり買わない?」
と萃。
「基本的に、私は学校と塾以外の外出をしない。
服は着れるものを買う。
靴は、足に合う靴を履く。」
と透雲。
「私にはない思考。」
と萃。
萃は、歴史ある名家の一族として生を受けて以来、生まれに相応しい装いをしてきた。
奈美も、身につけるものについての制限を受けたことはない。
奈美、萃、透雲の三人とも口にしないが、萃と奈美が着ている服と透雲の着ている服は、一桁違う。
奈美と萃は、家の仕事繋がりだが、萃と透雲は、奈美が引き合わせた。
奈美と透雲の出会いは、小六のときの模試会場。
中学受験を考えている小学生が受ける模試の会場で、座席が近いことが続き、互いに認識した。
普段は、全く関わりがなく、連絡先も知らないが、模試会場で会えば話す。
小六のときの奈美と透雲の距離感は、さっぱりしていた。
入試直前の模試で、入試の話を持ち出した奈美に、透雲は明るく答えた。
『私は、公立中学校に進学するよ。応援している。』
奈美は、このとき初めて、透雲と連絡先を交換した。
『透雲、中学生になっても会わない?』
『奈美とは模試会場で会うこともなくなるからね。』
奈美と透雲の付き合いは、奈美の入試を挟み、二人が小学校を卒業したあたりから、再開した。
奈美と透雲は、模試や受験以外の話をするようになった。
奈美は、透雲と話すようになって、初めて、兄弟以外と家族の話をすることが出来た。
お母さんが自分探しに行ったきり帰ってこない、ということを小学校低学年だった奈美が飲み込んで、誰かに話すことは難しかった。
お母さんが自分探しに出ていく家庭は、奈美の知る限り、奈美の家以外なかった。
家に帰ったらお母さんがおかえりと言ってくれたり、どこかに出かけていても、お母さんが必ず家に帰ってくる家庭と、奈美の家庭は違っていた。
差異を知っているから、奈美は語らなかった。
語る人の話を遮ることはしなかったが、お母さんが家庭に存在する人と同じ立場には立つのは不可能だと思い、両親について話すことは控えた。
誰にも家族の話をしてこなかった奈美だが、透雲とは家族について話した。
透雲の家族は、透雲に愛情を持ってはいても、透雲にとっての快適な家庭を作ってはいなかった。
透雲と話すうちに、奈美は、大蔵探偵事務所をするときには声をかけようと決めた。
透雲は、物事の中心地点に入っていかずに、外から物事を見て身の振り方を決めていた。
円滑な人間関係のために、興味がない話題を調べて口の端に乗せることも出来る透雲は、自身の癖を隠して相手に合わせられる。
人間関係の継続には、奈美の働きかけが必要だが、初対面の誰かと話すことは苦にならない透雲の性格は、探偵にぴったり。
奈美は、事前にいくらか透雲から聞いていたが、初めて透雲の家族事情を聞く萃は、驚いている。
「お洒落な服やアクセサリーを買うのは、大学生になってバイトをして自分で、と言われている。」
と透雲。
「透雲の学費に集中投資。」
と奈美。
「今の私は、お金を使うことはあっても稼ぐことは当分ない。
親に養われている間は、親の方針で生きる。
家にお金がなければ、親も私は路頭に迷う。」
と透雲。
「家計を気遣って欲しいものを買うか決める?」
と萃。
「私の家は、欲しいときに欲しいものを買うよりも、必要なときに必要なものを買うから。」
と透雲。
「必要なときに必要なものが買えないのは、確かに困る。」
と萃。
「ローンで家を買った大人が、牡丹の庭中学校の校区から出ていくことを躊躇したことについて。
残念な判断だと、私は思わない。
ない袖は振れない。」
と透雲。
「牡丹の庭中学校の現状から、早めに牡丹の庭中学校の校区の家を手放すのが正解だったと言えるのは、子どもである生徒側の立場からの判断でしかない、と。」
と奈美。
「保護者である親からすると、引っ越して、借金で首が回らなくなる未来にいつ転落するか分からない状況になるよりも、嫌なことをやり過ごして、ローンの返済に集中するのは、保護者の残りの人生を勘案すると悪くない計画ということ?」
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