「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 僕のクラスは、B組だった。

 席に座って本を読んでいると、なにか視線を感じた。右隣を見ると、隣の席の女の子が、こちらを見ていた。目が合ったのでそらし、また本を読み始めた。そこへ、担任の花坂が入ってきた。去年の担任も花坂だった。女の先生で、とにかく明るい。この学校で五本指に入るくらいの、人気な教師だ。だが、僕みたいな地味というか、根暗な人は、花坂のテンションについていけなくなるときもある。この人の担当科目は、英語だ。

 ホームルームが始まって、花坂が言った。

 「おはようございます。もう気づいてる子もいると思うけど、今日からですね、このクラスに、新しい仲間が加わります!では桜木さん、自己紹介をお願いします」

 すると、右の女の子が立ち上がった。

 なるほど。さっき目が合ったときに、この人、この学校にいたっけと思ったが、やはり転校生か。

 「私の名前は桜木 涼花です。よろしくお願いします」

 パチパチと花坂が拍手した。それにつられてみんなも拍手する。

 そのとき、ふっと思ったことがあった。僕はなぜか、この女の子に見覚えがある。どこでみたのだろう。

 ホームルームが終わり、一限目までの間の時間に僕は、また本を読んでいた。すると、右隣の女の子が立ち上がり、僕の前に立つ。

 「ねぇ、君、昨日の夜に私を助けてくれた人だよね」

 そういうことか。昨日アイツラに絡まれた女の子か。

 僕は目を上げて桜木さんをみる。

 「あ、やっぱり君だ」

 桜木さんは嬉しそうに笑った。

 「私、昨日君をみたときはてっきり大人だと思ってた。まさか同い年の子だとは思ってなかったんだよね~」

 「桜木さん、だよね。たぶん、人違いだと思うけど。僕、君と会った記憶なんてない」

 もちろん僕は分かっている。昨日のあの子は、桜木さんだ。なぜ僕がこんなことを言ったかというと、今この教室の中にいるクラスメイトのほとんどが僕たちのことを見ていたからだ。もし僕がここで「そうだよ」なんていったら、どんな噂話を広められることか。

 「絶対に違う!昨日のは、君だよ!顔も声も、まるっきり君だった!」

 最悪だ。桜木さんは、きっちりと僕のことを覚えていたらしい。

 「僕は知らない」

 僕はきっぱりと言い切って、本をまた読み始めた。すると彼女は少し乱暴に椅子に座った。

 僕は少し唖然とした。違うと言っているのに、少しも自分の記憶を疑おうとせず、挙げ句の果てに怒り出した。夜だったけれどなにしろ駅前で、多少は明るかったから彼女は、しっかりと僕の顔を見たのだろう。声だけだったら彼女も僕だったと断言できないはずだ。

 なにか視線を感じる。恐る恐る隣をみると、彼女は僕をじっと見ていた。目が合うと、

 「絶対に君だよ」

と、まだ言っている。僕はいささかあきれた。まだ言うのか。

 僕は彼女を無視して、本に視線を戻した。しかし、まともに本の世界に入れなかった。とても強烈な視線を感じるのだ。しばらくすると、視線を感じなくなった。こっそりと横を向くと、彼女はクラスメイトの女子数名と何かを話していた。ホームルームの前では誰も彼女に話しかけなかったのに。おもしろそうなものを見つけたら、迷わず駆け寄る。危険かもしれないのに。今回は危険なことではないけれど。人間は愚かだ。僕も人間だけど。

 話の内容は、だいたい分かったし、耳を澄まさなくても聞こえた。

 「ねぇ、昨日、なにがあったの?」

 「ううん、いいの。私と彼の問題。ねぇ、あの人の名前、なに?」

 「えっと、確か・・・」

 もしかして僕の名前、忘れられてる?まぁ、僕もあの人たちのフルネームは言えないが。興味がないし、なにしろ話さないから名字を覚えているかいないかくらい。

 「滝沢 涼」

 「あー!そうそう。よく覚えてたねーって、お前話聞いてたのか!」

 「へへーん、まぁ、いいだろ」

 「よくない!」

 僕の名前を覚えていた人は、去年も同じクラスで、なぜか僕にたまに話しかけてくる人だった。

 「たきざわりょう…ありがと!」

 一限目が始まる合図のチャイムが鳴った。一限目は、委員会決めだ。

 僕は毎年、図書委員会に入っている。もちろん今年も、図書委員会に入るつもりだ。
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