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 「・・・とまぁ、そんな感じ」

 「その後はどうなったの?」

 「どうなったって・・・あぁ、それから、僕が昨日みたいに脅したら、きくようになったかな」

 「なんか・・・すごいね」

 「はぁ・・・ありがとうございます・・・?」

 僕は、てっきりこの話を聞いて、彼女が笑うと思っていた。僕が本当に警察に電話したところとかで。でも、彼女は全く笑わなかった。予想外で、なんとなく気まずい。

 でも、気まずいと思っていたのは僕だけではなかったようだ。彼女も無言で、辺りはとても静かになった。

 「じゃあ、そろそろ帰・・・」

 僕が言いかけたその時、とんでもなく大きな音がした。本当なら、そんなに大きい音ではないのだろうが、静かなところで鳴ると、とても大きい音に聞こえる。

 「うわぁ!!!!」

 僕は思わず大きい声を出してしまった。

 真向かいにいる彼女は、そんな僕を見てクスッと笑った。

 そして、彼女はまだ大きな音で鳴っているスマホを見た。次の瞬間、彼女は顔を強ばらせた。彼女はスマホの音が鳴る部分を手で抑えて、音を小さくした。しばらくすると、音は消えた。

 「どうしたの?大丈夫?」

 僕がきくと、彼女は笑顔で言った。

 「大丈夫だよ」

 だが、その『笑顔』は、無理矢理つくっているとしか思えなかった。



 支払いを済ませて(彼女が今日は無理につき合わせちゃったから、僕の分も払うと言って引かなかったので、僕は無料で昼食を食べたことになる)、僕たちは店を出た。

 「おいしかったし、楽しかった~!」

 笑顔でそう言う彼女だが、その『笑顔』はさっきと同様に無理矢理つくっているとしか思えない。

 「本当なら、この後一緒に買い物でもしたかったけど、悪いからさすがにやめよっかな~」

 「別に、いいけど。僕、新しく本を買いたいんだよね」

 「おや?もしかして涼くん、さっき楽しかったかな?」

 「いや、別にそんなんじゃないけど」

 こんなことを言っているが、僕は、本当は、ちょっとだけ楽しかったと感じていた。誰かとこんなにたくさん、楽しく、話をしたのは一体何年ぶりだろう。

 「え~、ホントは楽しかったんじゃないの~?まぁ、いっか!じゃあ、最初に本屋さんにレッツ・ゴー!」

 嬉しそうに隣を歩く彼女には、先ほどの暗い感じがきれいさっぱりなくなっていた。僕も安心して、彼女と一緒に歩いた。


 「って、え?ここどこ?」

 僕がここがどこか知らないと気がついた時は、二人で歩き始めてだいぶ経った頃だった。何となくで彼女に付いていったが・・・まさかこんな事になるなんて。

 よくよく考えたら、彼女は今日僕たちの学校に転校してきたばかりだから、ここらへんの道を知らなくて当然だ。あぁ、なにやっているんだ、僕・・・ちゃんと道を見ながら歩けばよかった。こんな年で迷子だなんて・・・

 「大丈夫だよ。私、今ナビ見ながら歩いてるから。もうちょっとで着くよ」

 「いやっ、こんなに遠くなくてよかったよ。あのハンバーガー屋の近くに本屋あったのに・・・」

  「あそこの本屋さん、規模そんなに大きくないじゃん?本とか漫画とか買いたいなら、今向かってる所の方が、断然いいんだよねー」

 「・・・なんでそんなに知ってるの?」

 ここに来たばかりのはずなのに、なぜ知っているのだろう。しかも、僕は彼女の言う大きい本屋は知らない。いつも、あのハンバーガー屋の近くにある本屋に行っているのだ。

 「私、ここに来たばかりじゃないんだよね」

 「え?」

 「春休みの、最初の方にこっちに来たの」

 「あぁー、なるほどね」

 「あ!着いた。ここだよ」

 彼女が指差す方を見ると、そこにはあの本屋よりもはるかに大きく、また、僕の知らない本屋が建っていた。

 
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