「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 「うわぁー!映画なんて超久しぶり!楽しみだわ~」
 とはしゃいだように言う彼女。

 「わかるー」
 と彼女と同じようにはしゃぐ清水。

 僕は・・・特にはしゃいでいない。そもそもおもしろいかもわからないのに。変に期待して、全然おもしろくなかったら、ものすごく気分が下がるだろう。だったらいっそのこと、期待しない方がいいと思う。

 「映画といえば、やっぱりお菓子食べたり、ジュース飲んだりしながら見るのが一番楽しい!」
 
 などと言って、彼女と清水は大量にポップコーンやチュロスなどを買っていた。あとで全部食べられなくても知らないよと言って、僕はジュースだけ買った。

 映画上映開始。思ったよりも、映画はおもしろかった。最後の方の感動シーンでは、映画で感動とか、怖いとか、動揺したことはほとんどない僕だが、これにはちょっと感動した。

 誰かが鼻をすすった。泣いているのかもしれない。隣を見ると、彼女は泣いていた。もう一方の方を見ると、思わず僕はぎょっとした。清水が号泣していた。意外だ。そんな彼を見ていると、思わずクスッと笑ってしまった。すると清水は、情けない顔で、

 「笑うなよ~」
 と言ってきた。


 「はぁ~!おもしろかった!」

 「だな。最後なんて、もうすごかったよ」

 「二人とも、泣いてたね」

 僕が言うと、二人は僕を見て、顔を真っ赤にしてほぼ叫んだ。

 「「泣いてなんかないもん!」」

 僕が笑っていると、清水があっと言って僕の後方を指した。

 彼女と僕が振り返って見ると、僕らのクラスの担任の花坂がいた。

 「花坂先生!」
 彼女が言った。

 呼ばなくていいのに、と僕は思った。あの人のテンションにはついていけない。

 花坂は僕たちを見ると、驚いたような顔をした。そして、僕たちのところに小走りで来た。

 「こんなところで会うとは偶然。こんにちは皆さん。桜木さんに、清水さんに、・・・滝沢さん」

 花坂は僕もいたことに気づいて、心底驚いているのがありありと分かった。当たり前だろう。友達もいない僕が、休日にクラスメイトと映画館のあるショッピングモールにいるのだから。

 「桜木さん、お友達できたのね。良かったわ。こっちにきて、どう?」

 「楽しくやってます。涼くんも、葵くんもおもしろい人で」

 「へぇー、滝沢さんも?意外。良かったわ。ところで君たち、今日は何をしにここへ?」
 花坂が尋ねた。

 僕は心の中で、何が意外だ、でも確かに僕はおもしろくない、などとつっこみながら、会話を聞いていた。

 「俺たち、さっき映画見てたんすよ。先生にもおすすめだぜ。おもしろかった」

 「もしかして、その映画ってあれ?」
 と言って花坂は、映画館の前にある電光掲示板の一つを指した。それは、僕たちがついさっき見ていた映画だった。

 「そうです」
 僕が答えると、花坂は笑った。

 「私も、これから見るのよ。楽しみだわ。あっ、もうこんな時間。行かなくちゃ。みんな、また明日ね」

 三人は、花坂を見送った。

 「じゃあ、お昼ご飯食べて、その後買い物しよ」
 と彼女は言った。

 「え?僕、昼ご飯は食べること聞いてたけど、買い物するなんて、一切聞いてないけど・・・」

 「さっ、行こうぜ」

 清水と彼女が知らん振りをしてフードコートのある方に行った。こいつら確信犯だ、と思いながら僕も二人についていった。

 
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