「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 「またお前かよ」

 こんな時に会うなんて、本当に最悪だ。元はといえば、アイツラのせいで僕はこんな人間になってしまったのだ。

 「僕はもう行きますので」

 僕はアイツラの脇を通り過ぎようとした。しかし、そうはいかなかった。

 腕を乱暴に引っ張られた。気がついたときにはもう、僕はアイツラの長に胸ぐらをつかまれていた。そして、あっと思った時にはもう、僕は地面に倒れていた。

 動作がはやいなぁ、さすが不良。などと他人事のように思いながら、僕の上にのしかかろうとする長を、特に抵抗もしないで見ていた。

 「何やってんの!?」

 誰かの声が聞こえたと思ったら、まさに僕に拳をおろそうとしている長が、目の前で吹っ飛んだ。うおっというアイツラの声がする。

 「桜木・・・さん?」

 僕は驚きながら、アイツラの長を吹っ飛ばした彼女を見る。

 「お、おい!桜木!危ないぞ!おまっ、何やって・・・」

 後から走りながらこの場に来た清水は、立ち止まってぽかんと口を開け、呆然としていた。当たり前だろう。睨み合う彼女とアイツラの長。その迫力はアイツラも思わず黙って成り行きを見守ることしかできない。そして、地面に寝転んでいる僕。

 「お前、この前の女だろ。あの生意気な」

 「だったら何?てめぇに関係ないだろうよ」

 これには僕も驚いた。普段こんな怖い顔もしないし、口も悪くない彼女が、まるで不良のような言葉遣いをしている。彼女のいつも笑っている顔も、小さい子がみたら泣き出しそうな怖い顔をしている。

 「あ?やんのかコラ」

 まずい。僕は身を起こした。

 「や、やめー!ね、話で解決しよ、桜木も、お前らしくないぞ」

 清水が二人の間に割って入って言った。しかし、二人の鋭い眼光に飛び上がって、すぐに僕の近くに逃げた。

 「ねぇ、これどうすればいいと思う?」

 僕は清水に助け起こされながら小声で聞いた。
 
 「そ、そんなの、俺が聞きたいよ~」

 本気で怖がっているらしい。そうしている間にも、彼女とアイツラの長の会話は続く。

 「お前、あんな弱い奴の肩をもつのかよ」

 弱い奴は、僕のことだろう。まぁ、否定はしないが。彼女は下を向いている。少し肩が震えているように見える。

 「弱い奴なんて、放っておけよ。お前も、そこにいる奴らも、どうなるかわかるか?」

 すると、さっきまで黙っていたアイツラがはやし立て始めた。

 「あれ、黙っちゃった。もしかして、怖くなった?」

 「ははっ、やっぱりこいつも口だけか。弱っ!」

 「・・・・・・」

 「なんかしゃべれよ」

 「・・・・・・」

 彼女は下を向いたままだ。アイツラの長が彼女の顔をのぞき込もうとした、その時だった。

 「ふざけんなぁ!」

 彼女の叫びと共に、大きなバシンという音がした。

 その場にいた全員が、硬直した。彼女は、また叫んだ。

 「涼を、涼を、ばかにするなぁ!」

 アイツラの長は、いつもの勢いはどこへやら、自分の頬を押さえて、呆然と彼女を見ている。すると彼女は、僕たちの方へ来て、二人の腕を掴むと、さっさとその場を後にした。
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