「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

文字の大きさ
11 / 35

4-2

しおりを挟む
 三人は、黙って歩いた。僕たちの近くには、気まずい空気が流れていた。

 「あー、ありがとう、桜木さん」

 僕はとりあえずお礼を言った。清水も口を開いた。

 「すっげぇーかっこよかったぜ」

 なぜか清水の目がきらきらしている。さっきまでの怯えきった顔とは全然違う。正直に言って、清水はあの時、情けなかったと思う。桜木さんが食ってかかっている時に清水は、怯えた顔で、僕に助けを求めるように、ちらちらと視線を投げていた。僕は無視したけれど。

 「もう、察しちゃったよね」

 彼女が小さな声で言った。

 「「何を?」」

 僕と清水の声がかぶさった。彼女は下を向いて、唇をかんでいる。しばらくして、少し微笑みをもらした。それは、いつもの桜木さんの微笑みだった。

 「二人とも、優しいんだね。でも、なおさら、私みたいな人と関わっちゃいけない」

 「・・・何が言いたいの?」
 とは聞いたものの、なぜか僕には彼女の言いたいことがなんとなく分かった気がしていた。そして僕は自分自身に驚いた。『それ』に嫌がっている僕がいる。

 「ごめん。もう、一緒にいるのはやめよう」

 やっぱり。そう言うと思っていた。

 「なんで?」

 清水がさっきとは打って変わった口調で彼女に問う。

 「分かったでしょ。私、今までずっと猫かぶってたってことくらい。もうちょっと言えば、私は、ついさっきまで会っていた不良たちと変わらない存在だってこと」

 「・・・へ?」

 清水は、訳が分からないというように変な声を漏らした。どうやら彼は、鈍感な人らしい。でも、もし彼がこれを察したら、僕の思っていることと全く同じように思うだろう。

 「猫かぶってて、何が悪いの?変わろうとしてこっちに来たんでしょ。だったらそのくらい、当たり前じゃん。猫かぶってなかったら、さっきみたいのが君の普通になるんでしょ?それが嫌で変わろうとしたんでしょ?」

 「う、うん。でもっ・・・」

 「だったらそれでいいじゃん。さっきのは事故ってことで」

 さらりと言う僕に、彼女は呆気にとられたようだった。ぽかんとしている。でもそれよりも、清水がぽかんとして僕たちの会話を聞いていた。本当に鈍感だ。

 「清水。さっきのことは忘れよう」

 「さっきのこと・・・?あぁ、はぁ、忘れます・・・?」
 
 ぷっと彼女が吹き出した。それにつられて僕も笑った。不思議だ。僕はこの人たちと一緒にいると、自然と楽しくて、ただのおしゃべりすらとても楽しいものになっている。今までの僕は、こんなことは一切なかったのに。彼女が少しずつ変わっているのと一緒に、僕も少しずつ変わっているのかもしれない。
 彼女が笑いの残る顔で僕に話しかけた。

 「それにしても涼、変わったね。初めて会った時、すっごく素っ気ない人だったのに。結構笑うようになったし」

 ものすごく久しぶりに、家族以外の人から呼び捨てで名前を呼ばれた気がした。いや、多分実際にそうだろう。

 「確かになー!俺も、めっちゃ滝沢が変わったと思うぜ!前は話しかけても本当に返事が素っ気なくて、俺、毎回驚いてたもん」

 「余計なことを言って・・・」

 気まずかった空気が、一気に明るくて、楽しい空気になった。笑いながら歩いて思う、この人たちと会って良かった。心の底から、そう思えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...