「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 「ただいま」
 
 家に入った。

 「おかえり」

 いつものように母が言う。僕は手を洗い、うがいをして自室に向かった。姉の凛花の部屋の前を通り過ぎようとしたとき、その部屋のドアが開いた。

 「おかえり。今日も仲のいい子たちと一緒にいたの?」

 「そうだけど」

 「・・・楽しかった?」

 「まぁ、楽しかったかな」

 自分でも素直じゃないな。そう思った。本当は結構楽しかった。


 「涼、おはよう!」

 教室に響き渡る彼女の声。一瞬皆は、涼って誰だ、といいたげな顔をした。しかし僕が、
 「おはよう」と返すと、一気に教室がうるさくなった。

 噂でもしているのだろうか。でも、もう僕は気にしない。こんな事を気にしていたら、どうにもならない。それよりも彼女と清水と一緒にいる方が絶対に楽しい。


 それから数ヶ月経った。もうすぐで僕たちの学校は夏休みに入る。

 「夏休み、どっか行こうよ!」

 彼女が清水を連れて本を読んでいる僕に話しかけた。

 「それでもいいけどさ、この前のテスト、散々清水に一から教えて一緒にやったのに赤点スレスレだったじゃん」

 「お、おい。まさか夏休み中も勉強会ってわけか?」

 「そのまさかだよ。僕は心配して言ってるんだよ?」

 僕は微笑んで首を右に少し傾げてみせた。

 「お、鬼だ・・・」

 「なんか涼、小悪魔みたいだよ!その感じ」

 二人は僕に好き放題言っている。僕は思わず笑みを漏らした。

 結局清水と彼女は僕におされて夏休みはほぼ勉強会で埋め尽くされることになった。二人は不満たらたらだったが、夏休み明けのテストで赤点を取らないようにと僕に同意した。

 夏休みに入って一日目。さっそく今日は午前中に勉強会だった。やる場所は清水の家だった。一日交代で場所を変えることになった。つまり、お互いの家を訪問しあうような感じだ。

 午前九時になった。僕は準備をすまして家を出て自転車に乗った。清水の家への道をたどる。暑いが自転車で走っていると、少し風が吹いてきて気持ちがいい。

 「やっほー」

 隣から声があがってそちらを見ると、桜木さんがいた。彼女も自転車に乗っている。

 「やあ。少し暑いね」

 「ほんとにそれ。でも、少しどころじゃないよ。私、暑がりなの」

 彼女は片方の手をハンドルから離して自分の髪をかきあげた。その姿勢が妙に様になっていた。茶色の髪が風にたなびいている。

 「僕は寒がりだよ。冷房がキンキンに効いている部屋とか、正直言ってつらい」

 「うわ、それは困るわ。私、冷房ガンガンにするタイプ」

 彼女は明るく笑った。すぐ目の前に清水の家がある。自転車を降りて二人で清水の家の玄関前に立った。彼女がインターホンを押した。清水家は一軒家で、こぎれいな庭だ。僕の家の庭とは大違いだ。雑草が鬱蒼としている。母と父がきれいにしなくちゃと言っていたが、時間がないとか言い訳をして、結局やっていない。

 「おう。来たか。暑かっただろ」
 と言って清水が出迎えた。

 「「おじゃましまーす」」

 家に入りながら僕と彼女は挨拶した。清水の親は、今日もいないらしい。家の中はしんとしていた。
 清水の部屋に入った。思ったより部屋は片づいていた。

 「んー、わりぃ。ついさっき片づけたばかりで、ちょっと汚いけど。この机でやろーぜ」

 清水がジュースをお盆に乗せて持ってきながら言った。さっそく僕たちは勉強をし始めた。時間というものはあっという間にすぎるもので、すぐに十二時近くになった。もしかしたら、僕が自分の勉強をほとんどせずに勉強を彼女と清水に教えていたからかもしれない。

 「疲れた~!でも、今日で分からなかったとこ、大分分かった!」

 「ほんとに!俺も、今回のテストは赤点近い点数なんて取らなさそうな気ぃする!」

 彼女と清水が伸びをして、満足げに言った。
 
 「調子に乗ってまた勉強しなくなるのはやめろよ」

 僕が言うと、二人は唇をとがらせて分かってますよ、と言った。
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