「何気ない日々にちょっとしたスパイスがあると、人生楽しくなると思うけど」

藍月

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 彼女に腕を引っ張られるままにしていると、彼女の家の前に着いた。

 「入って」

 彼女は家を指差した。

 「いや、清水から聞いたと思うけど、今日の勉強会は中止だよ」

 僕が言うと、彼女は眉をつり上げた。

 「そんなの知ってるよ。あのね、鏡見てないから分からないと思うけど、涼のほっぺた真っ赤になってる。そんなんで外歩かせられない。それに、勉強会とかそういうのじゃないから。いいから来て」

 彼女に連行されるように僕は家の中に入った。僕たちが玄関に入ると、人の話し声が聞こえた。といってもドアによって音が小さくなっているので、どんな話をしているのかもわからない。
 彼女はリビングへ通じるドアを開けた。

 「あ」

 向かい合って座っている二人がこちらを見た。一人は彼女のお母さんだろう。雰囲気も、顔も似ている。もう一人は、驚いたことに清水だった。
 
 「・・・何で葵くんがここに」

 彼女はとても驚いたようだ。当たり前だろう。家に帰ったら、なぜか同級生が自分の家にいるのだから。

 「あー、俺、桜木に電話した時に突然、お前が『あ、ちょっとごめん。切るね』とか言って電話切っちまうからどうしたんだろうと思って来たわけ。そしたら、桜木のお母さんが待ってるなら外暑いから家で待ってなって言ってくれたのさ・・・」

 「そう。じゃあ涼、洗面所行こう」

 「分かった」

 彼女に案内されて、そちらに向かおうとすると、清水が僕を呼び止めた。

 「お、おい。ほっぺたが赤いけど。大丈夫か?」
 
 どうやら外が暑いからこうなったと思っているようだ。まだ鏡で見てないからどのくらい赤いのかは分からない。

 「んー、大丈夫だと思うよ」

 そう言って僕は洗面所に行った。

 「・・・なにこれ」

 鏡で自分を見た時の僕の第一声だ。

 「ちょっとヤバいでしょ。まだ痛い?」

 心配そうに彼女が言った。

 「なんか、感覚が麻痺してるのか、よく分からない・・・それにしても、すごく赤い」

 鏡に映っている僕の頬は、彼女の言うとおり真っ赤になっていた。アイツラの長をやっているだけある。殴られた時は痛いとかあまりよく分からなかったが、今こうしてなにも考えずに立っていると、少しじんじんとした痛みがある。

 「ちょっと氷水持ってくるから、葵くんと一緒に私の部屋で待ってて」

 彼女はそう言って今度はキッチンへと向かった。僕は清水を呼びにリビングへ向かった。リビングでは、まだ清水と彼女のお母さんが楽しそうにおしゃべりをしている。

 「清水」

 僕が声をかけると、清水は笑いの残った顔でこちらを振り向いた。

 「なに?」

 「桜木さんが、部屋で待ってって言ってたんだけど・・・僕、やっぱり先に行ってるね」

 僕は二階へつながる階段を上り始めた。すると、後ろから声をかけられた。

 「待って」

 後ろを見ると、清水がいた。しゃべってて良かったのにと僕が言うと、清水はちょうど話題がなくなってきてたんだよと言った。
 二人で彼女の部屋の前まで来た。二人とも、そこで中に入らず立ち止まった。何となく入るのが躊躇われた。以前ここに来た事はあったし、その時も彼女の部屋に入って話したり、勉強したりした。しかし、それも結局は彼女が一緒だったから入れたのかもしれない。やはり、友達だからといってズカズカと女子の部屋には入れない。なぜか、悪いと思ってしまう。

 「・・・入るか」

 清水が言った。うん、と僕は頷いたが、自分から入ろうとは思わない。

 「あれ、入んないの?」

 後ろから声をかけられて後ろを見ると、彼女がいた。手にはお盆を持っていて、その上にはジュースの入ったコップが三つと、ビニール袋に入った氷水を載せていた。

 「今両手塞がってるから、誰かドア開けて」
 
 彼女にそう言われて僕は急いでドアを開けた。
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