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「はい、これ」
彼女から氷水の入ったビニール袋を渡された。僕はポケットの中に手を突っ込み、ハンカチを探した。さすがにこのまま頬に当てると、冷たさすぎて低温やけどをしてしまうかもしれない。
「・・・あれ?」
ハンカチがポケットの中になかった。どうやら僕は、ハンカチを忘れてしまったらしい。それに気づいたのか彼女は、少し腰を浮かして僕に言った。
「タオル持ってくるよ?」
「ごめん。ありがとう」
彼女は部屋を出ていった。
「なぁ滝沢。お前、それどうしたんだ?暑くてそうなったと思ってたんだけど、違うみたいだな」
清水が尋ねてきた。僕は少し笑った。
「これね、アイツラの長みたいな奴に殴られて、こうなった」
「はあぁ!」
突然清水は立ち上がり、立ち上がったかと思うと今度はまた座って頭を抱え込んだ。どうしたんだと思い、僕は清水のそばに寄った。
「あぁ・・・俺のせいで・・・滝沢が・・・本当にごめん!」
突然謝られて、当然僕は驚いた。清水は今、僕の目の前で土下座をしている。それを見るのが嫌で、僕は清水の頭を掴んで顔を上げさせた。
「何で謝るの?謝るべきことなんか清水してないけど」
「俺があの時、お前の自転車を借りなければ、お前は、痛い思いをしなくて済んだのに・・・」
なるほど。僕はやっと理解した。元はといえば、僕が殴られる事になったのも、清水が原因といっても過言でない。清水が余計な情報をアイツラに漏らさなければ、アイツラが彼女の場所を見つけだそうと躍起になるはずがない。だから清水は謝っているのか。
「いいよ。そんな事。それより、清水と桜木さんが怪我しなくて良かったよ」
「お前って、意外とお人好しなんだな」
「お人好しって・・・どこが?」
「なんつーか、自分より他人を大事にするところとか?そうだと思わない?」
「質問を質問で返すな。あと、僕は騙されやすい人ではないと思うけど。その点に関しては清水の方がお人好しなんじゃない」
「は?俺、別に騙されやすくないし」
「それはどうだろう。結構清水って空気読めないし、今日もアイツラに変な事教えてたし」
「・・・それは。てか、滝沢めっちゃ責めてくるじゃん。そんな人だったっけ?」
「別にそういうものだと思うけど」
彼女がタオルを持って部屋に入ってきた。彼女は軽く笑いながら僕たちに尋ねた。
「なんか議論してるの?面白そう!なになに?」
「僕と清水、どっちがお人好しだと思う?」
「うーん・・・」
彼女はタオルを僕に渡しながら、思案顔で僕たち二人を交互に見た。
「葵くんは空気読めないし、ちょっと天然入ってるよね。騙されやすそう。逆に涼はねー、やっぱり今日思ったけど、うん、お人好しかな」
「だろ?」
なぜか清水が勝ち誇った目で僕を見た。僕は頬にタオルで巻いた氷水を当てながら口を開いた。
「いや。そんな事言ったら、清水はさっき桜木さんが言った通り、空気読めないし、天然だし。だったら、清水の方がお人好しだ」
「そうかもしれないけど・・・」
彼女は顔をしかめた。しかし、次の瞬間、急に彼女は目をきらきらと輝かせて僕たちの方へ身を乗り出した。
「分かった!涼と葵くんを合わせたら、完璧にお人好しだぁー!」
名案だろうと言わんばかりに僕たちを彼女は見た。
「・・・そうか」
「まぁ、じゃあ、そういうことで」
彼女にとって、この返事は予想通りではなかったらしい。彼女は頬を少し膨らませた。それを見て僕と清水は笑った。部屋は、一気に明るい雰囲気に包まれた。僕は笑いながら思った。ずっとこのままがいいのに。余計な事は考えなくて済むし、何しろ楽しい。
夕方になり、僕と清水は彼女の家を出た。結局、勉強会はしたし、雑談もたくさんした。桜木家で昼食までもとらせてもらった。明日は、僕の家で勉強会だ。明日の勉強会を楽しみにしている僕が、心のどこかにいた。
彼女から氷水の入ったビニール袋を渡された。僕はポケットの中に手を突っ込み、ハンカチを探した。さすがにこのまま頬に当てると、冷たさすぎて低温やけどをしてしまうかもしれない。
「・・・あれ?」
ハンカチがポケットの中になかった。どうやら僕は、ハンカチを忘れてしまったらしい。それに気づいたのか彼女は、少し腰を浮かして僕に言った。
「タオル持ってくるよ?」
「ごめん。ありがとう」
彼女は部屋を出ていった。
「なぁ滝沢。お前、それどうしたんだ?暑くてそうなったと思ってたんだけど、違うみたいだな」
清水が尋ねてきた。僕は少し笑った。
「これね、アイツラの長みたいな奴に殴られて、こうなった」
「はあぁ!」
突然清水は立ち上がり、立ち上がったかと思うと今度はまた座って頭を抱え込んだ。どうしたんだと思い、僕は清水のそばに寄った。
「あぁ・・・俺のせいで・・・滝沢が・・・本当にごめん!」
突然謝られて、当然僕は驚いた。清水は今、僕の目の前で土下座をしている。それを見るのが嫌で、僕は清水の頭を掴んで顔を上げさせた。
「何で謝るの?謝るべきことなんか清水してないけど」
「俺があの時、お前の自転車を借りなければ、お前は、痛い思いをしなくて済んだのに・・・」
なるほど。僕はやっと理解した。元はといえば、僕が殴られる事になったのも、清水が原因といっても過言でない。清水が余計な情報をアイツラに漏らさなければ、アイツラが彼女の場所を見つけだそうと躍起になるはずがない。だから清水は謝っているのか。
「いいよ。そんな事。それより、清水と桜木さんが怪我しなくて良かったよ」
「お前って、意外とお人好しなんだな」
「お人好しって・・・どこが?」
「なんつーか、自分より他人を大事にするところとか?そうだと思わない?」
「質問を質問で返すな。あと、僕は騙されやすい人ではないと思うけど。その点に関しては清水の方がお人好しなんじゃない」
「は?俺、別に騙されやすくないし」
「それはどうだろう。結構清水って空気読めないし、今日もアイツラに変な事教えてたし」
「・・・それは。てか、滝沢めっちゃ責めてくるじゃん。そんな人だったっけ?」
「別にそういうものだと思うけど」
彼女がタオルを持って部屋に入ってきた。彼女は軽く笑いながら僕たちに尋ねた。
「なんか議論してるの?面白そう!なになに?」
「僕と清水、どっちがお人好しだと思う?」
「うーん・・・」
彼女はタオルを僕に渡しながら、思案顔で僕たち二人を交互に見た。
「葵くんは空気読めないし、ちょっと天然入ってるよね。騙されやすそう。逆に涼はねー、やっぱり今日思ったけど、うん、お人好しかな」
「だろ?」
なぜか清水が勝ち誇った目で僕を見た。僕は頬にタオルで巻いた氷水を当てながら口を開いた。
「いや。そんな事言ったら、清水はさっき桜木さんが言った通り、空気読めないし、天然だし。だったら、清水の方がお人好しだ」
「そうかもしれないけど・・・」
彼女は顔をしかめた。しかし、次の瞬間、急に彼女は目をきらきらと輝かせて僕たちの方へ身を乗り出した。
「分かった!涼と葵くんを合わせたら、完璧にお人好しだぁー!」
名案だろうと言わんばかりに僕たちを彼女は見た。
「・・・そうか」
「まぁ、じゃあ、そういうことで」
彼女にとって、この返事は予想通りではなかったらしい。彼女は頬を少し膨らませた。それを見て僕と清水は笑った。部屋は、一気に明るい雰囲気に包まれた。僕は笑いながら思った。ずっとこのままがいいのに。余計な事は考えなくて済むし、何しろ楽しい。
夕方になり、僕と清水は彼女の家を出た。結局、勉強会はしたし、雑談もたくさんした。桜木家で昼食までもとらせてもらった。明日は、僕の家で勉強会だ。明日の勉強会を楽しみにしている僕が、心のどこかにいた。
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