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今日は彼女の家で勉強会の予定だ。僕は正直、二人に会うのが気恥ずかしかった。昨日の事で色々とありすぎて頭がパンクしてしまうんじゃないか、などと考えたくらいだった。
昨日、彼女と清水が僕の家を出た時、彼女はそれはそれは嬉しそうで、始終ニコニコしていた。
「じゃ、いってきます」
母と凛花に声を掛けて、僕は家を出た。玄関の扉を開けた途端、生温い風が全身に吹いてきた。いつも思う。北風は夏に、南風は冬に吹いてくれたらいいのに、と。
自転車に乗り、彼女の家に向かう。生温い風も、自転車に乗ってしまえば少し涼しく感じられる。
「お、滝沢じゃん。一緒に行こーぜ」
僕と同じく、自転車に乗りながら清水が声を掛けてきた。
「コンビニ寄らせて」
「りょー」
清水を見ると、汗びっしょりだ。なぜそんなになるんだ?僕は怪訝な顔をしていたのか、清水に首を傾げられた。
「なんでそんなに汗かいてんの」
僕が尋ねると、清水はいつものようにニカッと笑った。
「実はさー、早めに家を出たんだけど、忘れ物してるのに気付いて、慌てて家に帰って、また来た道戻ってたら、こうなった」
きっと、家を出て結構時間が経ってから忘れ物に気付いたんだろう。そりゃあ汗だくになるのにも頷ける。
「ちなみに、何忘れたの」
「勉強するもの全部」
「・・・・・・はっ?本当に?」
「うん」
言った本人はケロッとした顔で首を縦に振った。僕は信じられないという思いで清水を見た。
「なんでこんな風に毎日勉強会を開いてると思ってるんだ。遊びに行くんじゃなくて、今は勉強するために桜木さんの家に行ってるんだよ。肝心なもん忘れて・・・・・・」
「んー、反省してるよー」
清水は横目で僕をみた。反省しているだなんて、よくもまぁ思ってもない事をペラペラと。久しぶりに、ピリッとした感覚が身体に走った。あぁ、あれだ。僕には今、人間が醜く見える。自分の事も、醜く見える。まずい。よりによって今に。
僕はたまに、こういう事を感じる。誰かの言動が、僕の身体にピリッとした感覚を走らせる。すると人間が醜く見えて、自分の事も、周りにいる人間全てが嫌いになって、その場からどうしても逃げたくなるのだ。なぜこんな事が起こるかは分からない。だから、感情が高ぶらないように、自分を抑える。抑えないと、発狂しそうだから。
ちょうど近くに、コンビニがあった。僕は何も言わずにそちらの方に自転車を走らせた。清水もついてきた。ここで少し気持ちを落ち着かせよう。
「ちょっと買いに行く」
清水にそう言い残して、僕は早足でコンビニに入った。中はとても涼しかった。しかし、しばらくそこにいると寒くなってきた。僕は菓子コーナーに行き、適当なお菓子を手にした。レジに並び、僕は自分の気持ちを落ち着かせようと、空中の一点を見つめ、そこに佇んでいた。
「あの、そこのお客様。レジにお並びですか?」
店員に声を掛けられ、やっと我に返った。慌てていたせいで、代金を払う時に財布の中身をぶちまけてしまった。
昨日、彼女と清水が僕の家を出た時、彼女はそれはそれは嬉しそうで、始終ニコニコしていた。
「じゃ、いってきます」
母と凛花に声を掛けて、僕は家を出た。玄関の扉を開けた途端、生温い風が全身に吹いてきた。いつも思う。北風は夏に、南風は冬に吹いてくれたらいいのに、と。
自転車に乗り、彼女の家に向かう。生温い風も、自転車に乗ってしまえば少し涼しく感じられる。
「お、滝沢じゃん。一緒に行こーぜ」
僕と同じく、自転車に乗りながら清水が声を掛けてきた。
「コンビニ寄らせて」
「りょー」
清水を見ると、汗びっしょりだ。なぜそんなになるんだ?僕は怪訝な顔をしていたのか、清水に首を傾げられた。
「なんでそんなに汗かいてんの」
僕が尋ねると、清水はいつものようにニカッと笑った。
「実はさー、早めに家を出たんだけど、忘れ物してるのに気付いて、慌てて家に帰って、また来た道戻ってたら、こうなった」
きっと、家を出て結構時間が経ってから忘れ物に気付いたんだろう。そりゃあ汗だくになるのにも頷ける。
「ちなみに、何忘れたの」
「勉強するもの全部」
「・・・・・・はっ?本当に?」
「うん」
言った本人はケロッとした顔で首を縦に振った。僕は信じられないという思いで清水を見た。
「なんでこんな風に毎日勉強会を開いてると思ってるんだ。遊びに行くんじゃなくて、今は勉強するために桜木さんの家に行ってるんだよ。肝心なもん忘れて・・・・・・」
「んー、反省してるよー」
清水は横目で僕をみた。反省しているだなんて、よくもまぁ思ってもない事をペラペラと。久しぶりに、ピリッとした感覚が身体に走った。あぁ、あれだ。僕には今、人間が醜く見える。自分の事も、醜く見える。まずい。よりによって今に。
僕はたまに、こういう事を感じる。誰かの言動が、僕の身体にピリッとした感覚を走らせる。すると人間が醜く見えて、自分の事も、周りにいる人間全てが嫌いになって、その場からどうしても逃げたくなるのだ。なぜこんな事が起こるかは分からない。だから、感情が高ぶらないように、自分を抑える。抑えないと、発狂しそうだから。
ちょうど近くに、コンビニがあった。僕は何も言わずにそちらの方に自転車を走らせた。清水もついてきた。ここで少し気持ちを落ち着かせよう。
「ちょっと買いに行く」
清水にそう言い残して、僕は早足でコンビニに入った。中はとても涼しかった。しかし、しばらくそこにいると寒くなってきた。僕は菓子コーナーに行き、適当なお菓子を手にした。レジに並び、僕は自分の気持ちを落ち着かせようと、空中の一点を見つめ、そこに佇んでいた。
「あの、そこのお客様。レジにお並びですか?」
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