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「いや~、今日、涼と百瀬くん、本当に楽しそうだったねぇ~」
彼女と一緒に清水の家へ向かっていた。もちろん、お見舞いに行くためだ。
「そうだね。馬が合うっていうのは、きっとあんな感じだろうなって思ったよ」
「他の人と楽しそうに喋る涼を見て、嬉しい気もしたし、でも、ちょっと寂しい気もしたなー。もしや、これが家を出る子どもを見送る親の気持ち?」
彼女が真面目な顔で変な事を言うから、僕は思わず吹き出してしまった。
「なによ!失礼ね。こっちは本気で言ってるのよ」
彼女はぷぅっと頬を膨らませた。
「あ、着いたよ」
清水の家の目の前に来た。彼女がインターホンを押す。しばらく待ったが、返事なし。彼女はもう一度インターホンを押した。ガチャっと音がして、扉が開いた。中から顔を出したのは清水 葵、張本人だった。少し顔が赤い気がする。
「・・・よう」
「ようっじゃない!いいから入れて」
彼女は強引に清水を押しのけ、家の中へ入っていた。清水はただただ驚いているようで、そこに突っ立たままだった。僕はそんな清水の背中を押して、清水の部屋へ連行した。
「おい、何で来た」
「当たり前でしょーお見舞い、お・み・ま・い!」
後ろから付いてきていた彼女が言った。
「いいよ来なくて」
「僕たちが来たいから来たんだ」
「悪い気はしないけどな」
清水は僕たちが来た事に、少しだけでも嬉しく感じたらしかった。それだけでも来た意味があると僕は思える。
部屋に入って清水をベットに押し入れると、彼女が言った。
「そういえば家族の人は?」
「誰もいねぇよ。うち、共働きなんだ」
「ご飯食べた?薬もちゃんと飲んだ?」
「食べたし飲んだ」
「ご飯何食べたの?」
彼女は質問責めしている。それに一個一個きちんと答える清水も凄いと思う。
「メシはー、カップ麺食った」
「清水、お前風邪引いてんだろう。だったらカップ麺なんか・・・」
僕は思わず口をはさんだ。風邪引いている時にカップ麺なんて・・・まぁ、世の中にはそういう人が沢山いるかもしれない。だが普通、体調を崩している時はお粥とか、うどんとか、消化に良さそうなものを食べるべきだろう。
「有り得ない」
彼女は大袈裟に驚いていた。口を開けて。
「だってさ、こんなんでメシ作れって?キツいぜ」
「よし、私が今からご飯作る!待ってて!あ、材料はそんなに使わないから安心してねー」
彼女はそう言うなり、パタンとドアを閉めていってしまった。
「つくづく強引な奴だな」
清水が言って、バタンとベットに勢いよく寝っ転がった。
「ところで、何で風邪なんか引いたの?あ、もしかして桜木さんの部屋のエアコンが寒すぎたからとか?」
昨日の勉強会は彼女の家で行われたのだが、本当に彼女の部屋は寒かった。しかし僕はきちんと学習して、彼女の家に行く時は必ず何か羽織るものを持っていくようになったのだ。清水は寒いと言いながらも、何も持ってきていなかった。
「それもあるかもだけど――やっぱり、昨日の夜に雨の中一人で外を走ってたからだろうな」
「なにそれ。昨日の雨は結構強かったじゃないか。そんな中、外を走ったと」
僕は思わず顔をしかめた。
「ま、自業自得って訳だ」
清水はどこかさっぱりしたような感じで言う。僕は腰を上げた。
「桜木さんの手伝いにいってくる」
「おう。悪いな」
僕は一階におりてキッチンに向かう。桜木さんが僕を見て笑顔になった。
「みてみて~!結構上手くいったと思うんだけど・・・」
彼女は鍋の中でぐつぐつと煮込まれているお粥を得意気に見せた。卵も入っている。
「いいね。味見はちゃんとした?」
「これから!涼、味見してくーださい!」
僕は思わず身を引いた。実は僕はお粥が好きじゃない。好きな人には申し訳ないが、お粥は美味しくない。味はないに等しいし、米じゃないみたいになっているし。
「え、何、お粥嫌い?」
彼女は驚いたように目を見開いた。僕は頷く。
「まぁ、できれば食べたくないね・・・」
「も~、せっかく味見してもらおうと思ったのに~まぁいっか!私お粥好きだし!」
彼女はスプーンでお粥を少し掬い、パクッと食べた。
「ん~!おっけー、おっけー!」
彼女は満足そうに頷いた。僕が「良かったね」と言った瞬間――
「んぐっ」
口にお粥を入れられた。
彼女はそれはそれは面白そうに僕を見ている。久しぶりのお粥だった。何年ぶりだろうか。久しぶりに食べたお粥は、意外にも不味くない。むしろ、少し美味しいとさえ思えた。
「どう?」
彼女はニヤニヤしている。その態度が気にくわなくて、僕は一言文句を言う事にした。
「人の口の中に勝手に食べ物を入れるなっ!」
「うふっ、あはは!」
彼女は大爆笑している。僕は彼女に聞こえないであろう声量で言った。
「意外と美味しかったけどね」
「え?今、美味しかったって言った?」
彼女は笑いの残る顔のまま言った。
「え、聞こえた?」
「もちろんだよ~!えー、嬉しー」
彼女はそれはそれは嬉しそうににこにこ笑顔になった。
「よし、運ぶかぁ~!」
彼女はお粥を適当な器にうつしてお盆に載せた。
「僕が持つ。桜木さん、うっかり落としそうだから」
「え~、落とさないよー」
などと言いながらも彼女は僕にお盆を渡す。僕はそれを受け取り、清水の部屋へと階段をのぼった。
彼女と一緒に清水の家へ向かっていた。もちろん、お見舞いに行くためだ。
「そうだね。馬が合うっていうのは、きっとあんな感じだろうなって思ったよ」
「他の人と楽しそうに喋る涼を見て、嬉しい気もしたし、でも、ちょっと寂しい気もしたなー。もしや、これが家を出る子どもを見送る親の気持ち?」
彼女が真面目な顔で変な事を言うから、僕は思わず吹き出してしまった。
「なによ!失礼ね。こっちは本気で言ってるのよ」
彼女はぷぅっと頬を膨らませた。
「あ、着いたよ」
清水の家の目の前に来た。彼女がインターホンを押す。しばらく待ったが、返事なし。彼女はもう一度インターホンを押した。ガチャっと音がして、扉が開いた。中から顔を出したのは清水 葵、張本人だった。少し顔が赤い気がする。
「・・・よう」
「ようっじゃない!いいから入れて」
彼女は強引に清水を押しのけ、家の中へ入っていた。清水はただただ驚いているようで、そこに突っ立たままだった。僕はそんな清水の背中を押して、清水の部屋へ連行した。
「おい、何で来た」
「当たり前でしょーお見舞い、お・み・ま・い!」
後ろから付いてきていた彼女が言った。
「いいよ来なくて」
「僕たちが来たいから来たんだ」
「悪い気はしないけどな」
清水は僕たちが来た事に、少しだけでも嬉しく感じたらしかった。それだけでも来た意味があると僕は思える。
部屋に入って清水をベットに押し入れると、彼女が言った。
「そういえば家族の人は?」
「誰もいねぇよ。うち、共働きなんだ」
「ご飯食べた?薬もちゃんと飲んだ?」
「食べたし飲んだ」
「ご飯何食べたの?」
彼女は質問責めしている。それに一個一個きちんと答える清水も凄いと思う。
「メシはー、カップ麺食った」
「清水、お前風邪引いてんだろう。だったらカップ麺なんか・・・」
僕は思わず口をはさんだ。風邪引いている時にカップ麺なんて・・・まぁ、世の中にはそういう人が沢山いるかもしれない。だが普通、体調を崩している時はお粥とか、うどんとか、消化に良さそうなものを食べるべきだろう。
「有り得ない」
彼女は大袈裟に驚いていた。口を開けて。
「だってさ、こんなんでメシ作れって?キツいぜ」
「よし、私が今からご飯作る!待ってて!あ、材料はそんなに使わないから安心してねー」
彼女はそう言うなり、パタンとドアを閉めていってしまった。
「つくづく強引な奴だな」
清水が言って、バタンとベットに勢いよく寝っ転がった。
「ところで、何で風邪なんか引いたの?あ、もしかして桜木さんの部屋のエアコンが寒すぎたからとか?」
昨日の勉強会は彼女の家で行われたのだが、本当に彼女の部屋は寒かった。しかし僕はきちんと学習して、彼女の家に行く時は必ず何か羽織るものを持っていくようになったのだ。清水は寒いと言いながらも、何も持ってきていなかった。
「それもあるかもだけど――やっぱり、昨日の夜に雨の中一人で外を走ってたからだろうな」
「なにそれ。昨日の雨は結構強かったじゃないか。そんな中、外を走ったと」
僕は思わず顔をしかめた。
「ま、自業自得って訳だ」
清水はどこかさっぱりしたような感じで言う。僕は腰を上げた。
「桜木さんの手伝いにいってくる」
「おう。悪いな」
僕は一階におりてキッチンに向かう。桜木さんが僕を見て笑顔になった。
「みてみて~!結構上手くいったと思うんだけど・・・」
彼女は鍋の中でぐつぐつと煮込まれているお粥を得意気に見せた。卵も入っている。
「いいね。味見はちゃんとした?」
「これから!涼、味見してくーださい!」
僕は思わず身を引いた。実は僕はお粥が好きじゃない。好きな人には申し訳ないが、お粥は美味しくない。味はないに等しいし、米じゃないみたいになっているし。
「え、何、お粥嫌い?」
彼女は驚いたように目を見開いた。僕は頷く。
「まぁ、できれば食べたくないね・・・」
「も~、せっかく味見してもらおうと思ったのに~まぁいっか!私お粥好きだし!」
彼女はスプーンでお粥を少し掬い、パクッと食べた。
「ん~!おっけー、おっけー!」
彼女は満足そうに頷いた。僕が「良かったね」と言った瞬間――
「んぐっ」
口にお粥を入れられた。
彼女はそれはそれは面白そうに僕を見ている。久しぶりのお粥だった。何年ぶりだろうか。久しぶりに食べたお粥は、意外にも不味くない。むしろ、少し美味しいとさえ思えた。
「どう?」
彼女はニヤニヤしている。その態度が気にくわなくて、僕は一言文句を言う事にした。
「人の口の中に勝手に食べ物を入れるなっ!」
「うふっ、あはは!」
彼女は大爆笑している。僕は彼女に聞こえないであろう声量で言った。
「意外と美味しかったけどね」
「え?今、美味しかったって言った?」
彼女は笑いの残る顔のまま言った。
「え、聞こえた?」
「もちろんだよ~!えー、嬉しー」
彼女はそれはそれは嬉しそうににこにこ笑顔になった。
「よし、運ぶかぁ~!」
彼女はお粥を適当な器にうつしてお盆に載せた。
「僕が持つ。桜木さん、うっかり落としそうだから」
「え~、落とさないよー」
などと言いながらも彼女は僕にお盆を渡す。僕はそれを受け取り、清水の部屋へと階段をのぼった。
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